「――――……」
ひんやりとした空気に目を覚ました。
ぶるりと体が震える。
…そうだ…昨日あのまま、此処で寝たんだ…。
戦闘で疲れていた体は睡眠を求めていて、ずぅんと襲ってきた眠気。
それに私は近くの大きな木の下で雨を防ぎながら眠りについた。
この少し開けた、でも隠れ家のような、私のお気に入りの場所で。
立ち上がって辺りを見回す。
まだ朝日が上り始めた所で早朝だと分かる。
母屋に戻ろうと歩き出した。
「………………」
冷たく固い土の上を歩いていくと、地面に転がる死体の数々。
天人、仲間、―…そして昨日私を庇って死んだ彼。
実際、こんなこと何時までやってるんだろう。
私はなんだか、どうでもいいんだ。
今までの日本の歴史とか、地球とか…私は今しか見てないし、そんな大層な物の実感が湧かない。
過去を見ることだって、出来やしないし。
……先生が私の考えを聞いたら、怒るかな。
いや、怒らないかな。
「――人間の奴ら、逃げやがって!」
「まぁいいじゃねえか。違う母屋に逃げたから一気に一網打尽だぜ」
「確かにそうだな、ギャハハ!」
――もう居ないから、分からないけれど。
「ギッ…?!」
私は笑う天人の頭目掛けて刀を投げ刺した。
止まった笑い。
「…お、い…?」
「ぎゃ、ぎゃあぁああ!!」
「いきなり後ろからっ…お前か、女ァ!」
周りの天人達は動転して、そして私に気付いた。
――自分の頭が凄く冷えているのが分かる。
怒り狂う天人も、対峙している自分も、他人事みたいに客観視している。
夢を見ているみたい、だ。
襲ってくる天人の攻撃を走りながら避け前進。
そして死んだ天人の頭から私の刀を引き抜いて、違う天人の首を斬り落とした。
首、首、頭、首。
斬り落として、掻っ斬って、突き刺す。
――どうしても、女は男より力は弱い。
特に体の作りも全く違う天人と比べたら差は認めなきゃならない。
なら下手に防具で守られた腹を斬るより、首とか頭を狙った方が確実なんだ。
一発で仕留めなきゃ、此方の体力が無駄になる。
そして、斬り落とすより、突き刺してしまう方が、
どさぁっ…―――
最後の天人を斬り終えた。
私は、母屋に戻ろうとしていた足を再び戻し、先程の場所に向かって歩き出した。
覚束無い足元にはさっきと変わって増えた死体。
首が無い、死体。
私は走り出した。
「はっ、はぁっ…」
場所に着いて、私は力無く座り込んだ。
やっぱり駄目だ、最初は、首を斬るのは、気持ちが悪過ぎるし、突き刺すのなんか、
「っ…う、…」
腕を突き刺しても気持ち悪くはならないのに、首を突き刺して気持ち悪くなるのは何で?
首を突き刺したら、それが死へと繋がるから?
それなら、こう考えろ
人を殺すのは『本当に』悪いことなのかな。
そんなの、この世界の、この時だけかもしれないよ。
そんな不確かなものの、不確かな道徳に悩まされてたまるか。
「…………」
握ったままの刀を見る。
持って、首にあてた。
でも、死にたくなるよね
そんなこと考えたら
私は今この世界、この時を生きてるのにね、
「………………」
カラン、と刀を地に置いた。
――星が、惑星が違えば世界も違う。
人を殺すのが罪じゃない世界だってきっとある。
…正当化しないと、やってられない。
100111.