そうして私は立ち上がると、点滴をカラカラと押しながら柵の近くまで行く。
ネオンやら、白い光やら。
様々な建物の色が散りばめられた景色の上に大きく、丸い月がのんびりしている。
前から吹いてきて、私の髪を後ろに靡かせていく少し冷たい風は、とても気持ち良い。
「口からは嘘ばかりが出ていたから、私の身体の中にはきっと、真実がたくさん、満ちていた」
スウッと息を吸い込む。
少しだけ腹の辺りが痛んだけれど、喉を通った冷たい息が腹まで届くようで、微笑む。
「それが全て無くなった。いや、違うね」
私は後ろを振り返る。
四人が私と同じように、立ち上がっている。
「みんなが一緒に持ってくれているから、軽くなったんだね。とても、気持ちが良い」
また、景色の方へと振り返って息を大きく吸い込んだ。
そうして目を細める。
――世界の真理…私はそれを少しだけれど知っている。
そして私はそれが、嫌いだ。
だって、これに関わって良かったことなんて、今まで一度でもあっただろうか。
四人が歩いてくる音がする。
――それに、世界がいくつも在ると知ったって、それは私に虚無感のようなものを与えるだけだった。
世界がいくつもあれば、色んなものがとても、ちっぽけなものに思えたから。
私は、左を見る。
辰馬と晋助が、隣に並ぶ。
私は、右を見る。
小太郎と銀時が、隣に並ぶ。
――けれど、…違った。
少なくとも今は、違う、って…そう思える。
世界はたくさんある、だからこそ私は、銀時や小太郎、辰馬、晋助、神楽、新八、松平さん、真選組の人達…もっともっと、数えきれないくらいの人達に出逢えて、幸せだ、嬉しい。
「きっとこれから先ね、また私が、死にたい、って思う日は、あるかもしれない。…あの闇から逃れることは、出来ないから」
けれど、みんなが一緒に並んで、歩いてくれる。
荷物を支えて、支えられて…一緒に、笑ってくれる。
「名前、あなたの命の炎は、あなたを信じて、燃え続けている」
「あなたの身体を揺らす鼓動は、あなたの命の願い。生きろ、生きろと。心臓が動き血が巡り、息をする…それら全てが、あなたの生の源です」
そして…私の命は今も、私を信じて、必死にその鐘を、鳴らしてくれているから。
「けれどきっとね、これから先私が、生きててよかった、って…そう思う日は、来る。そしてそれは、絶対に」
私は涙を流しながら、そうして、微笑んだ。
「助けてくれて、本当に…ありがとう」
――生きて、いく。
みんなの隣をずっと、歩いていきたいから。
いつもみたいに、背筋を伸ばして、胸を張って。
そして微笑んで、みんなの隣に、恥じないように。
そして、私を信じてくれている私の命に、応えたいから。
「お前は本当に、いつまで経っても分からないな」
「いつまで経っても、先が見えてこんぜよ」
「そうだな、俺は今まで、お前より綺麗に笑う奴は見たことがなかったが…」
小太郎が、辰馬が、晋助が各々の笑い方で、笑う。
「今は、泣いてるけどよ」
銀時も、笑う。
「今のお前の笑顔が、今までで一番、綺麗だ」
そして私も、微笑んだ。
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