また、やみが出てきた。
同じ、やみ。
コワイ、やみ。
そうしてわたしの近くの人を、のみ込んだ。
わたしの、せい…?
「闇に、のみ込まれなかった。失敗か?いや、あり得ねえ。それならばこのガキは!」
りかい者だ!と、さっきまでわたしの近くに居た人が、うれしそうに声を上げる。
りかい、者…?
なんのことだろう。
けれどこの人たちは、あの、闇がなんなのか…もしかして、知っているのかな。
「おい吉田松陽!お前寺子屋でガキに、あのことを教え説いていたのか?いや、ちげえよな分かってるさ。あのことは説いた瞬間、相手を闇に葬り去る!つまり理解者は、生まれながらの理解者!」
「ラッキーですねえ、まさか同じ場所にもう一人も、理解者がいるなんて!」
「ああ、しかも、ガキだ…扱いやすい」
男の人たちが、わたしを見下ろす。
わたしは少し息をのんで、思わず後たいする。
「吉田松陽、今日はお前は良い。ただ、大事な弟子が俺ら側に居るってことを、これからは忘れずに過ごせよ。そうしてまたいつか、仲間になるか否かの返事を聞きに来たとき…その時が、楽しみだぜ」
男の人がわたしに、手を伸ばした。
「――離れなさい」
するとしょうよう先生がその男の人の首に、刀をあてた。
男の人が少し息をのむ。
そして何かがたおれるような音に場所を向けば、さっきまでしょうよう先生が居た場所ら辺で人が二人、たおれて。
それを見て息をのむと、先生に引っ張られて、だき寄せられる。
「しょう、」
しょうよう先生は刀を大きく振ると、男の人たちにきょりを取らせた。
てらこやの中、わたしと先生を囲むように男の人たちが、大きな円を作ってる。
わたしはこの状況ながらも、けれど気になっていたのは、てらこやのことで。
しょうよう先生の今の、刀のキズ。
それに今日の昼には見られなかった刀キズがたくさん、出来てある。
「…名前と、話をさせて下さい」
すると先生が押しころしたような声で言った言ばに、一番よく話している男の人は笑って、いいぜ、そう言った。
しょうよう先生は少し息をつくと、わたしに向き直り、ひざを折った。
「名前、まず、謝らせて下さい。私があなたを今日ここに呼んだから、あなたを巻き込んでしまった」
「あの、けれどそれって、先生のせいじゃ、ないんですよね?さいしょからこの男の人たちが来るのを、分かっていたわけじゃ…」
すると先生は柔らかく微笑んでうなずき、ありがとう、と言った。
わたしはそんな先生を、少しとまどいがちに見る。
「先生こそ、わたしが、こわくないんですか」
「名前を、恐がる…?」
「だってわたし、あのやみを、出す、から」
すると先生は、とてもやさしく、微笑んだ。
「大丈夫、私もあなたと、同じですよ。名前」
「しょうよう、先生も?」
「はい、そして名前、もう一度謝らせて下さい」
本当にもうし訳なさそうにしている先生に、わたしは不安をかんじながら、首をかしげる。
「あなたに今からもう一度、闇を見せることになります」
「――!」
「そして名前、わたしはここで、サヨナラです」
「しょうよう先生がやみに、消えるんですか…?」
ふるえる声で問うた言ばに先生は、やさしく、けれど少し悲しそうに、微笑んだ。
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