夜の道、けれど別に、コワイなんてことはない。
毎夜毎夜、林の中で暮らしているから。
つめたい風が首をなでても、木々の葉をこすり合わせて音を出しても。
こわくない、もうなれた。
…けれど、今、しょうよう先生の家…っていうか、てらこや、に行くことは、少しコワイ。
この前、おこられた時…あの時のしょうよう先生は、思いかえしてみればコワイ。
けれど、あの時わたしはビックリして、あまり、じっかんがなかったから。
てらこやに着いて、そして、どうなるのかな。
わたしが今、一人で林で暮らしていることについて、やっぱり、話さなきゃダメかな。
…けれど、どうやって…?
なんて、話せばいいの?
伝え方が分からないし、…言ったら、ダメな気がする。
――そうこう考えている内に、てらこやに着いた。
「――しょうよう先生、名前です」
「――!――!」
「しょうよう、先生…?」
声をかけると、中から、ハッキリとは聞こえないけれど何か、声が聞こえて。
そしてその声が怒っているみたいで、わたしはビックリして目を丸くする。
――するといきなり、いきおい良くとびらが開いた。
目を丸くしたまま見上げれば、そこには、笠をかぶっている知らない男の人。
「名前!逃げなさい!」
すると先生の声が聞こえて、見れば部屋のおくで先生が、似たようなかっこうをした何人かに腕をつかまれている。
「ガキか、丁度いい」
ビックリして声も出せないままでいると、わたしの前に立つその人がいきなり、わたしの腕を引っ張った。
「やめなさい!名前は、関係ないでしょう!さっきも言ったように、ここ数日のことも同じ…!最初から、私だけを狙えば良いでしょう…!」
先生が声を上げる中、後ろでとびらが閉まった音。
わけが分からないで、短く息をくり返すわたしに、気味の悪い笑みを見せる人達。
腕を引っ張られよろめき、進んだ足がとまって、しょうよう先生と目が合った。
「しょうよう、せん、」
するとわたしの左かたに、手が置かれた。
右耳の辺りで声がして、見ると、ひざを折った男の人が、また同じように気味悪く、笑っていて。
「けれどまあ、吉田松陽よ。大切な人を殺した奴らの仲間になりたくないと思うのは、そりゃ当然のことだ」
この人が近くにいるのが気持ち悪くて、少し、離れようとした。
けれど左かたをつかんでくる力が痛いくらいに強かったから、しっぱいに終わる。
「けどよ、吉田松陽、…一度くれえ例外を作っといたほうが効果がある…そうも、思わねえか?」
「やめな、さい」
「そうすればお前には恐怖と、不安が生まれる。また大切な誰かを、このガキと同じようにされたらどうしよう、…ってな」
「やめなさい…!」
先生のけんまくにビックリして、かたを揺らした。
けれどこの人たちは何がおかしいのか笑っていて、やめねえさ、と言った。
先生が腕を揺らして、その人たちを振りほどこうとする。
「なあ、お嬢ちゃん、イイコトを教えてやるよ」
「まさか…!やめなさい!名前、逃げて…!」
すると今までわたしの近くにいた人が、群れの中から出てきた一人の人のせなかを押して、わたしの方に来させて。
自分は、はなれてニヤニヤしている。
せなかを押されてわたしの前に来たちがう人はひざを折ると、わたしの腕をつかんだ。
そして真っ直ぐにわたしを見て、
「――!」
何かを口にしたしゅん間、また黒が、あらわれた。
お父さんとお母さんをのみ込んだ、やみ。
「名前、あなた…!」
わたしは目を見張りながら、しょうよう先生を見る。
しょうよう先生はけれど怯えてはいないで、ただおどろきに、目を見開いていた。
「わた、し」
わたしが、お父さんとお母さんを、…消した、の?
120123