「そしてここから数日後、私は戦場で銀時を見て、そして松陽先生に噂を伝えたんだけれど…小太郎、前に私が、小太郎ら攘夷一派のアジトに訪ねていったことを、覚えているかな」
「ああ、確か…あの日の後からお前は、俺たちを避けるようになったんだったな」
「小太郎、少し、聞きたいことがあるんだ」
「ああ、どうした?」
「――昔……寺子屋のときのことなんだけれど……私たち生徒の何人かが、役人に意味も分からず斬られたこと…覚えているかな」
小太郎の言葉に銀時は眉を寄せると、背もたれに預けていた身を乗り出した。
「じゃあ名前を探して、俺がお前ンところに行った日と、同じってことか」
「銀時、お前も覚えているだろう」
「…ああ、確かヅラ、お前も斬られてたな」
「ヅラじゃない桂だ、…まあ皆、斬られていたといっても足や手…ただの役人の憂さ晴らしだろう」
「……」
「だとしても、嫌なことは続くものだと、よく言ったものだな。…現にあの後に、」
私は少し目を伏せる。
「今回私が天導衆に狙われた理由は、私があの闇を何度でも作り出すことが…というか何度でも生き残れることが出来るから、なんだ。そしてこの条件には、松陽先生にも、当てはまっていた」
「――!」
「寺子屋の時に生徒の何人かが、わけも分からず役人に斬られたこと…そして今回、私の周りの人達が狙撃されたのは、同じ理由、同じ手口」
「お前だって、大事な人間を殺した奴には協力したくないだろう?だから傷つけるだけでとどめてやったのさ」
「昔から変わっていない、最低な手口だ」
「だからお前は、アイツらの本当の狙いは自分だけど、傷つけられるのは、傍にいる奴。俺達だと気付いて、俺らの傍から離れたのか」
そうだね、と銀時の問いに素直に返してから、…こめかみに当てられた拳に私はハッとする。
「そうだね、じゃねえんだよ。どうしてテメェは俺達に相談するっつうことをしねえで、ましてや自分が嫌われる道を選びやがる」
「ご、ごめんね、嫌われれば銀時達は私から、離れていくかと思って」
「馬鹿野郎、そんなこと、天地がひっくり返ってもあり得ねえよ」
銀時の言葉に、私は微笑む。
そして少しうつむくと表情を戻し、目を細めた。
「そして、寺子屋の生徒が何人か役人に斬られ始めたある日のこと…私が暮らしている林の中に、松陽先生が来た」
「だって、大丈夫です、俺には居なくなって悲しむような人は、誰も居ない、友人なんてものは居ない、いりません、家族だって、」
「俺が、殺しました」
「そして恐らくその日、ラクは自身の両親を殺した…その頃私は林の中で、そして聞こえてくる足音は、ラクのものだと思っていたんだ」
「だがその足音は、松陽先生のものだった」
晋助が繋いでくれた言葉に頷いて、こぼすように笑う。
「林の中一人で暮らしていたことを、どうして隠していたんだ、って…スゴく、怒られたよ。いつから、どうして先生が気付いたのかは分からないけれど…あんなに怒った先生を見たのは、後にも先にも、あの時だけ」
すると小太郎が、不思議そうに首を傾げた。
「しかし、先生に、一人で暮らしていることが気づかれたならば、先生はお前を寺子屋に、連れ帰りそうだが…」
「そうだね、松陽先生もそれを勧めてくれたんだけれど…私はその時まだ、両親が帰って来るかもしれないっていう希望を捨ててなかった」
馬鹿みたいだ、とそう自嘲したくなって、けれど言霊として口にするのは止しておく。
「話を進めると、申し出を断った私に松陽先生は、銀時が小太郎の家に泊まりにいく日に、寺子屋に来なさい、と、そう言った」
「俺が、ヅラの家に泊まりにいった日?」
「ヅラじゃない桂だ。…松陽先生はきっと、お前の状況の波及を狭い範囲で、止めようとしてくれていたんだな」
再度、頷く。
そうして、目を細める。
目を瞑ればきっと、二度目の闇が、迫って来ただろう。
「そしてその日が、松陽先生の、最期の日」
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