「それで、恐らくなんだけれど…私は誰かと一緒には、寝られないでしょう?それは多分、林の中で暮らしていたからだと思うんだ」
「おい、おい名前ちゃん」
「何かな銀時」
「俺も昔外で暮らしてたけどよ、全然ンなことは、」
「それは銀時、お前が単細胞だからだろう。普通なら、物音やらに敏感になり、自分が本当に安全だと思う場所以外では中々、眠れなくなる」
「誰が単細胞だ!お前に言われたくねえんだよ」
前のベンチで睨み合う銀時と小太郎を余所に、辰馬が私を見て
「子供の頃の癖やらは、そう簡単に消えん。それと同じようなモンが今も名前の中に、残っとるっちゅうわけか」
辰馬の言葉に頷く。
「それで…ラクと出逢ってから少しして、さっき言ったように戦場で銀時を、」
「待てよ、ラク、とかいう奴との話も聞かせろ」
晋助の言葉に私は、目を丸くした。
「――家がないあなたからしたら、イヤがれる家があるだけわたしは、十分シアワセだと思いますか」
――男の子が言った言ば。
わたしはまた、ジッと見てきている男の子から、目をそらす。
「べつに。わたしと君は、違う人間だから」
「…あなた、いつまでここに居るんですか」
「朝までだよ。…君は?」
すると男の子は、まるで大人みたいに首をかしげた。
「家がイヤで出てきたって言っていたから、もう、帰らないのかなって」
「ああ、いや、ちがいますよ。りょう親に気づかれる前にちゃんと、帰ります」
今度はわたしが、男の子だけを見る。
男の子はまた、大人みたいに笑うとあきらめたように、首をよこにふった。
「家はイヤだけど、そんなこと出来ません。家をずっと、出ていくなんて」
「…そうなんだ」
「わたしの家は、…きっと名前を言えばあなたも、知っているかもしれません。りょうけで、有名だから」
「……」
「けれど名前は言いません。わたしは家が、その名前が、キライだから」
父と母は、じぶんのことなんて、ただの道具だとしか思ってませんよ。
あとつぎのために、じぶんを産んだ。
じぶんは、父と母の位につける、かざりでしかない。
だからじぶんも、おやだなんて、思ってないです。
次々と出てくる言ば、わたしは、この男の子、よく話すな、と思っていた。
けれど、言ってみたかったんだろうな、とも思った。
男の子の、自分の気持ちを。
「君は、自分の気持ちをりょう親に言ったこと、多分だけど、ないんだね」
「当たり前じゃないですか、わたしはあの人たちの、こまだから」
「でも、家はキライなんでしょう?」
「そうです」
「何もしないで見ているのは、その世界に対して同かんを抱いているのと同じことだと、わたしは思うな」
すると男の子は目を見ひらいた。
そして、ふるえる声で、ちがう、と言う。
「あなたに、何が分かるんですか」
けれど直ぐにそう言ったから、この男の子だって少しはなっとくする部分もあるんだろう。
「何も分からないよ、けれど、言うことは誰だって出来るから。あなたが家がイヤだと言っているのと、同じ」
「…、…」
「世界は、カガミみたいなものだから。カガミを変えるには、自分を変えなきゃいけない」
そこでわたしは、男の子を見た。
「まだ、帰らないの?」
「なんで、そんなことを」
「こんなイヤなことを言う人といっしょに居たいって、ふつうは思わないだろうから」
「…もしかしてあなた、わたしに帰ってほしくて、あんな言い方したんですか」
わたしは男の子から顔をそらした。
「どうだろうね」
とりあえず、もう寝たい。
120122