「あの闇について、詳しいことは言えないんだ。詳しく説明すれば、あの闇が出現して、私じゃあなくみんなを、のみ込んでしまうから…」
きっとこのことについて初めて聞いた四人は、いったいどうしてそうなっているのか、分からないだろう。
私も、同じだけれど。
とにかく「世界の真理」について、私が知っていることでさえあまり詳しく、話すつもりはない。
「――両親をのみ込む闇を出現させてしまった時…私は何か、疑問に思ったことを両親に聞いたことは、覚えているんだ」
「疑問に思った、こと…?」
「そう、それは多分、言葉にしてはいけないこと…つまり闇を出現させる論理の、どれかに関わることだったと、今では思うよ」
私は眉を下げたまま、少し疲れたように笑いをこぼす。
「けれど両親が、そして家が闇にのみ込まれて、消えてしまったとき…それからしばらく私は、いったい何が起こったのか分からなかった…まさか私が両親を消しただなんて、分からなかった」
「じゃが、名前、」
気遣うような辰馬の声音に、私は目を伏せ、軽く笑みを浮かべたまま首を横に振る。
「ありがとう、辰馬。けれどこればかりは、言い逃れは出来ないし言い訳も効かない。…両親は、私が消してしまったの」
辰馬を見て再度微笑むと、辰馬は少し息をのんでそうして、ぎこちなくながらも、頷いてくれた。
「両親を消してからのことは、あまりよく、覚えていないんだ…どうして両親が消えてしまったのかは分からなくても、何かおかしいってことは、分かっていたハズで…けれど私は変わらず、寺子屋に行っていた」
「そういや数日、お前が休んでた時があったな」
晋助の言葉に、思わず私は目を丸くした。
「よく覚えているね、晋助」
「一日位だったら別に何も、印象には残ってなかったかもしれねえがな」
「そうか、それじゃあ私は、両親を消して数日すると、また普通に、寺子屋に行っていた…思考回路が少し、麻痺でもしていたのかな…」
「それか、今まで通りの日常を過ごせばまた、両親が帰って来るような気も、していたかもしれないな」
小太郎の言葉に頷く。
「そうだね、けれど、寺子屋から帰って来ても家は無く、もちろん両親はいない…そうしていつも通りの日常の中へ入って来たイレギュラーを、ようやく私は、理解したのかもしれない」
「それで、林の中で暮らし始めた」
「そう、それで――」
私は眉を寄せ、目を瞑った。
「――ラクと、出逢ったの」
「――あなた、こんなところで、こんな時間に、何をしているんですか」
――林の中、ひざを手で抱えて、ひざ頭に顔をうずめる。
けれど少し前から足音が聞こえていたから、私はよこ目で音のする方を見つめながら、右手で、とがった木のえだをつかんでいた。
するとやって来たのは、小さな男の子。
「君こそ、こんな時間に、どうしてこんなところに…?」
「わたしは、…家がイヤで、出て来たんです」
わたしは少し目を丸くした。
けれど直ぐに、男の子から目をそらす。
「わたしは家がないから、ここにいるの」
「…知っています、そういう人のこと。勉強しました」
「…ほんとうに?」
「はい、せんそうこじです」
「ちがうよ、その言ばはわたしも知ってるけど、わたしは当てはまらない」
男の子は首を傾げた。
「それじゃあ、あなたはなんて言うんです?」
「――さっき小太郎が、どうして両親の件を言わなかった、と言ったね」
「ああ」
「私はラクに聞かれて、けれど彼にも、本当のことは答えられなかった」
「あの闇について、詳しいことは言えないんだ。詳しく説明すれば、あの闇が出現して、私じゃあなくみんなを、のみ込んでしまうから…」
「闇のことについて何も分からない時でもなんとなく、話してはいけないことだって、分かっていたから」
だから私は嘘を吐いた。
本当のことを言えば、また闇が現れて、誰かを消してしまう気がしたから。
そしてそれは当たっていた。
「さあてこうして、嘘吐きは誕生したわけだ。なんてね」
まあけれど、
「せんそうこじ、…かな」
「それさっき、ちがうって言ってましたよ」
最初に吐いた嘘は、下手だった。
120122