「そうだね、それじゃあ昔から順々に、話していくよ」
私は微笑みながら目を伏せて、包帯が巻かれた指やらガーゼが貼られた手の甲を、何の気なしに見る。
「私がよく嘘を吐くようになった原因というか、始まりというか…ねえ、みんなは私の家族について、どう思っていたのか聞いても良いかな」
顔を上げて四人を見渡すと、四人は緊張していたような顔を少しだけ戻して、首を傾げた。
「どう、って…お前はあんまり家族の話しねえから、その、なんだ時期は分からねえが…もう、居ねえと」
「わしはお前らとは攘夷の時から会うたから昔のことは知らんが、母屋から一度も、実家に帰ると言って出ていかなかったから、薄々そうかとは思っとったぜよ」
銀時と辰馬の言葉に、時節頷きながら聞いた私は、曖昧に微笑みながら頬をかく。
そして空気を誤魔化すように笑った。
「その、私に家族は…そうだね、銀時が寺子屋に入る前から、もう居なかったんだ」
すると声は出ずに、辰馬を除く三人の顔が、まるでポップアートのように各々驚きの表情になった。
「名前、それは、本当なのか?銀時が寺子屋に入る前と言ったら、まだ、何歳だ…?たったこれくらいの、子供ではないか!」
「なんじゃと!」
すると辰馬も反応を示した。
けれど小太郎が示した背丈はあまりに小さすぎたので、流石に訂正を入れる。
「つうか、お前、あのラクっていう奴が言ってただろ。俺のことを先生に言ったのは名前、お前だって」
「お前は、何も知らないんだ、坂田銀時!お前を、孤児だったお前のことを吉田松陽に言ったのだって、名前さんだ!」
「…私は、噂を聞いたんだ。戦場に鬼がいる、と。だから私はその噂を松陽先生に伝えた…そういうことなんだ」
「その噂の鬼とやらが、俺のことだっつうのは?」
「…知っていたよ」
「俺を見た先生が、俺を寺子屋に、連れて帰ることは」
「…想像出来たね」
すると銀時は、ハァ、と長いため息をつくとベンチの背もたれに背を預けた。
「つまりお前は、先生が俺を見つけたら、俺を寺子屋に連れ帰るのを見越して、噂を松陽先生に伝えた。…どうしてそうしたんだよ」
「…嘘は吐かない、本当のことを言うよ」
当たり前だ、と銀時が少し眉を寄せる。
「――悲しそうに、見えたんだ」
「…は?」
「戦場で銀時を初めて見た時…銀時が、飄々としている無表情の奥で、悲しんでいるように見えたんだよ」
「おいちょっと待て、お前どこで素直になってんだ」
「銀時、本当に今さっき、私が真実を言うことを、当たり前だと言ったでしょう?」
「クク、言うとおりじゃねえか」
晋助が笑いに肩を揺らす。
小太郎も余裕の笑みで、辰馬は豪快に笑っている。
「ダアア!お前ら笑ってんじゃねえ!つうか名前、続きだ続き!…俺のことを戦場で、見たのか」
「ああそうだったね、そこで最初の話に戻るんだよ。私に、銀時が寺子屋に入る前から家族が居なかった、という話にね」
私は少し、眉を寄せ下げる。
「ラクとの会話の中で、私が昔、林の中で暮らしていたと言ったね。家族と一緒に家も無くしてしまったからね、林の中で暮らし始めたんだ」
「どうして言わなかったんだ、名前。言ってくれれば、親に事情を説明し俺の家に一緒に…!」
「ありがとう小太郎、けれどね、それは出来なかったんだよ。…まあここは、まだ後で話すとして…」
私は前に座り、真面目な顔をしている銀時を見る。
「私は生活する為に、戦場に行き、そこで得た色々な物を売っていたんだ。そしてある日、銀時を見つけた、というわけさ」
「…なるほどな」
「それで…核が在る船を覆い、消し去った闇をみんなは、見ていたのかな」
答えを言葉として聞く前に、息をのんだ四人の反応から、その答えが分かった。
「…私はもう、両親の声どころか顔も、覚えていない」
「名前…」
「けれどね、闇は…覚えているんだよ」
「――!」
目を閉じる。
すると脳裏にあの闇が、襲いかかってくるように浮かんで、心臓が強く鳴った。
「私は自分のせいで、両親を失くした…あの闇を出現させ両親を、消し去ってしまったんだ」
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