「名前!起きるぜよ!」
「名前、目を覚ましてヨ!」
「おい、起きろっつってんだろ!起きねえとお前の分のパフェ食うからな!」
「いや銀さん、名前さんは確か甘いものはあんまり好きじゃなかった覚えが!」
「細けえことは良いんだよ!ったく、お前は本当に新八だな」
「新八そのものが駄目みたいな言い方やめて下さいよ!」
集中治療室の中、名前が眠るベッドを囲み、必死に声をかける何人か。
すると名前の手を握る晋助が、ハッとした。
「おい、今…!」
そんな晋助に、口を閉じ、晋助が握る名前の手を見る。
「名前…!」
晋助が名前を呼ぶとすると、名前の細い指が痙攣するように動いた。
「――!そうだ名前、起きろ!目を覚ませ!」
「目を覚ましてそして、生きるんじゃ!」
「名前、名前!」
「――さてそれでは…実は私にも、これから行く場所がありましてね。そろそろ別れるとしましょうか」
――空間がだんだんと光に染まっていく中、松陽先生が私に背を向けようとする。
「あ、ま、待って下さい、松陽先生」
私はそんな松陽先生を、慌てて声でひき止めた。
――行く場所と言ったけれど今、松陽先生はどこに居るのか、というか、先生の思考や存在は、生きているのか。
それとも今、この状況は、私の夢なのか。
色々考えるところはあるけれど、…けれど、
「ありがとうございます、松陽先生」
こんな言葉位、言わせて下さい、…先生。
「やっぱり松陽先生は、すごい人です。私は今、きっと、松陽先生の歳に近づいているのに、…今こうしてまた、教えをいただいて、」
「名前、そのことに何か理由なんて、ありませんよ」
私は少し目を丸くする。
「だってあなたはいつまで経っても、可愛くて大事な、私の弟子なんですから」
「――!松陽先生…」
「親が子を愛すことに理由が無いことと、同じですよ」
そうして今度こそ、松陽先生は振り返ると、歩き始めた。
私はその背中を見つめて、そして、微笑む。
変わらない、安心を与えてくれる背中。
「松陽先生、あなたは私の先生で、師匠で…私はあなたの生徒で、弟子です。今先生が言ってくれたみたいに、ずっと、ずっと」
振り返ってくれなくて良い。
私ももう、歩き出さなきゃいけないから。
そしてその道にはもう、松陽先生は、いない。
「けれど、いつまでもただ後ろを着いていくことは、師に報いる道じゃあないから」
「松陽先生と私は、違う」
「松陽先生は…私も、聞いただけだけれど…一度、全てを無くしてる、大切な人を闇に、のみ込まれてる」
「けれど松陽先生は、また、大切な人達を手に入れた。そしてその輪の中の者を今度は全部、護り抜いた」
「いつかまた、…会えた時は…!きっと先生の隣に並んでいられるように、頑張って、きます…!」
震える唇で、弧を描く。
そして、振り返った。
「松陽先生…行ってきます…!また、今度」
足を、踏み出す。
すると私を包んでくれるように現れた光が、愛しい。
「行ってらっしゃい、名前」
後ろから聞こえた言葉に、私は目を閉じ、微笑んだ。
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