「名前の気力次第、か」
悲痛に顔を歪めながら集中治療室を見る辰馬の言葉に、銀時らが目を少し辰馬にやる。
「名前の意識は、思考は今、どこに居るんじゃ。…考えを変えてくれとるなら、嬉しいんじゃがのう」
「お願い、離して…死なせてよ…!」
「生きたいと願い、生きようともがいては、くれんかの」
言葉の終わりが震えた。
辰馬は歯を食いしばる。
「だが俺は、名前が泣いて、嬉しかった」
「ヅラ、お前、そういう趣向だったのか」
「ヅラじゃない桂だ!あと、そういう意味ではない!」
冗談だと分かっていても、少し椅子から腰を上げ銀時の言葉を否定した小太郎は、少し強く息を吐くと、腕を組んでまた椅子に腰を下ろす。
そして、目を閉じた。
脳裏に名前の泣いている姿がうつって眉根を寄せる。
「名前の、笑顔に隠された部分が垣間見えた時…坂本、お前が言っていたように、その時だけで名前は、消えそうに見えた…」
いつもの穏やかな微笑みは消え、無表情。
けれどそこから受ける印象は、冷たい、よりも、儚い。
目に光は宿っていなく、けれどその濡れた瞳は見たものの心をも巻き込み、揺れる。
「触れようとしたものならば、こちらの体温と感触でかぶれ、萎み、消えてしまう…けれどあのとき名前は、泣いていた」
「おう、…名前が泣いてるとこを見たのは初めてじゃったし、別に何の解決になったわけでもなかろうが…わしも、名前が泣いて、嬉しかったぜよ」
「泣いて、いいんだ。泣いて、泣いて…それでアイツが、心の内のものを全て出してくれるのなら」
集中治療室の中、脈拍を表示するモニターがゆっくりと、鼓動を刻んでいる。
晋助は眉を寄せ厳しい表情のまま部屋の中を見、そしてベッドに寝る名前を見た。
「名前は」
「私は…、ゲホッ、ッぐ!」
「名前は何を、言おうとしていたと思う」
「――分からねえよな」
応えた銀時を、晋助は見る。
すると銀時は立ち上がった。
「分からねえから、聞きに行く」
集中治療室へと歩いていく。
「墓場に持って行くにはコイツの嘘は、多すぎるぜ」
そうして銀時は部屋のドアノブに、手をかけた。
――突然、白が視界に入ってきて、私の思考は混乱し、停止した。
戸惑いながら辺りを見回しても、白。
それしか無い。
ただ私だけが、周りとは違う色を持っている。
ここは、どこなのか。
どうして私は、ここに居るのか。
いったい、何が…。
「お願い、離して…死なせてよ…!」
そして…少しハッとした。
「そうか…私は…」
「あなたは死んでなどいませんよ、…名前」
後ろから聞こえた声に、心臓が一度、強く鳴った。
息をのむことも出来ずに、恐る恐る、後ろを振り返る。
変わらない笑顔が、そこにあった。
「久しぶりですね、…名前」
「松陽、先生…」
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