ドクターヘリによって名前が搬送された病院。
手術中、の赤いランプが消え部屋から医師が出てきたのは、もう空が暗くなっているころだった。
「おい、名前は…!」
壁から身体を起こす者や、椅子から腰を上げる者のなか松平が医師に聞く。
医師は厳しい顔で首を横に振ると、
「手は全て尽くしましたが、危険な状態です」
「意識は、戻ってねえのか」
「はい、それに脈拍も変わらず、遅いままで…後は本当に、本人の気力次第…彼女が、彼女の身体がどこまで頑張れるかに、かかっています」
――名前が移された集中治療室の前、椅子に座る銀時、小太郎、辰馬、晋助らを真選組の隊士が遠くから見る。
そして隊士たちは遠慮がちに近藤、土方、沖田に視線を移した。
「あの、局長も副長も、沖田さんも、…奴らのこと、捕まえないんですか」
「外には桂の一派と、そして鬼兵隊の船があって、頭目を待ち、控えている…これほど手配犯が集結してるのに、」
「バカ言ってんじゃねえ、あんな腑抜けちまったような今の奴ら、捕まえるかよ。ツマラねえだろい」
沖田の言葉にハァ?!と声を上げる隊士達に、土方は煙草の煙を吐くと目を閉じて。
「安心しな、俺たち真選組と奴ら攘夷浪士は、切っても切れねえ相反する仲。別に、奴らに情けをかけてるわけじゃねえよ」
「…それじゃあ、どうして捕まえないんです?」
「名前さんが起きたとき、自分の目が覚めるのを待っている間に、桂や高杉が捕まえられたと知れば、きっと彼女は傷つくからな」
近藤は、集中治療室の中、色々な管につながれベッドの上に寝る名前を、真っ直ぐに見た。
「名前さんはきっと目を覚ます。だから今はまだ、アイツらを捕まえはしないさ」
「――ちょっと、アンタ」
すると後ろから声がかかって近藤が振り向くと、そこには花束を持ったお登勢の姿が。
「違う、アンタじゃなくて、煙草吸ってるアンタさね。病院は禁煙だよ、気をつけな」
そう土方に言うと歩いていくお登勢に、神楽や新八が気づいた。
「お登勢さん…その花、名前さんに?」
「ああそうだよ、花の香りってのはちゃんと、意識が無くても届くんだ。そうして身体に何か、変化を起こしてやったほうが良いのさ。…それよりアンタら、揃いも揃ってなんて顔してんだい」
息をつきながら笑うお登勢の胸に、神楽が飛び込んだ。
泣きじゃくりながら、ぎゅうぎゅうと抱きつく。
「なに泣いてんだい、こんな年寄りだって腹斬られてから生き延びてんだ。まだまだ若いあの子がまさか、」
そうして集中治療室の中を見たお登勢は思わず、言葉を止めた。
脈拍を表すモニターが、けれどいつになっても次の鼓動を刻まない――そう思ったその瞬間にやっと、モニターはまた脈を刻んだ。
脈拍が遅すぎる、とお登勢は思わず息をのんだ。
冷や汗が頬に伝う。
「バァさん、名前が私達を避けてた理由、やっと分かったアル。それは悪い奴から私たちを、護るためだったネ!」
「それに貴女も、江戸云々以前にもう、周りの人々を傷つけられたくないでしょう。けれど断るならば今度はもっとひどい怪我…というか先に核で、消えますね」
「…私の周りの人達を射撃したのはやっぱり、貴方達か」
「今この時の為の脅し…ではありませんね、私達が有利になる為の材料にさせていただきました」
「名前が私達の傍にいれば、悪い奴は私達を狙って、傷付けるから!だから名前は必死になって、私達から離れようとしてたネ!」
「…そうだったのかい」
「私、無理に名前を追いかけない方が良かったアルか?そうすれば名前に、迷惑かけなかったアルか?」
そこまで言うと神楽は、堪えきれないというように、言葉にならない声を漏らした。
「でも、そんなの無理ヨ!名前と離れるなんて、無理だったアル!…私、どうすればよかったアルか?」
「…ほら、とりあえず涙拭いて顔洗って、少しでもいいから寝な。そんな顔じゃ、あの子が起きた時に、あの綺麗な顔で笑われるよ」
――そうして神楽をお登勢が連れていってから直に、月詠がやって来た。
周りの面々を見ながら歩いてくる月詠を見つけた新八は、目を見開く。
「月詠に、ごめんね、と言伝てしといてくれないかな」
そして泣きそうに顔を歪めると、眉をキツく寄せたまま椅子から立ち上がり、月詠へと向かって歩く。
「月詠、さん」
「新八!名前が酷い怪我をした、と聞いて見舞いに来たんだが…」
集中治療室の中、ベッドの上に寝る名前を見た月詠は眉を寄せた。
「晴太を連れて来なくて、正解だったようじゃの…」
「…月詠、さん、僕、あなたに言いたいことが…言わなきゃならないことが、あるんです」
「新八がか?どうした改まって」
「いえ、僕からじゃなくて…そ、の、」
「――言うんじゃねえぞ、新八」
すると集中治療室の前、椅子に座り、部屋の中を眉を寄せたまま見ている銀時が、言った。
「真実は、目が覚めてからアイツに全部、言わせてやる」
「――!はい…!」
120116