船外、銀時らが必死に声を上げるなか、核が爆発する時間は着々と、近づいていて。
――けれどその時いきなり、何かに吸い込まれるように船が変形した。
そして現れた、…闇が。
その闇が現れたとき、見た全ての者が、息をのんだ。
心臓が、まるで一瞬止まったかのようになった。
名前があの船の中にいる。
闇にのみこまれる、と。
けれどそれを考えるよりも先に、見た全ての者の思考は、闇への恐怖に満たされた。
闇の中から一人、人間が重力に従い落ちてくるも、人々の視線は闇に、釘付けで。
闇から目を、離せなくなっていて。
「――名前!」
――けれどそんな中、たった四人だけが意識を取り戻し、そして落ちてきている名前に、気がついた。
四人の声で、周りの者も意識を取り戻す。
「銀ちゃん!」
「桂さん!」
「頭!」
「晋助さま!」
銀時、小太郎、辰馬、晋助の四人は船を蹴り宙に身体を投げ出すと、落ちている名前を追いかけた。
――体重の差で、直ぐに追いついた銀時らが、名前を抱きしめ受けとめる。
「歯ァ食い縛っとくきに!」
辰馬が拳銃を両手で構え、弾丸を数発、下方の湾に向かって撃つ。
飛沫を上げて割れた海面。
銀時らは頭を下に向け縦に、その穴へと落ちていった。
「――おい急げ、水で血が流れる!」
「わぁってるよ!おい、名前!大丈夫か!」
――湾に落ちたあと直ぐに、海面から顔を出した五人。
小太郎と晋助がいち早く地上へと上がり手を伸ばし、銀時と辰馬が名前を支えたまま泳ぐ。
名前の周りの水が赤くなるなか銀時らが声をかけるも、名前は反応しない。
唇を震わせ、荒く息をしたまま、けれどその表情は髪によって隠され分からない。
「名前、大丈夫か!」
地上で名前を受け取った小太郎も、名前を呼ぶ。
晋助は名前を支え座らせ、小太郎は自身の服を破り、止血しようとする。
銀時と辰馬が地上に上がると同時に、降下してきていた船から神楽や新八、真選組、松平含む幕府の者たち。
そしてほかの船員らも頭目に集まるように、それぞれの船から下りてきた。
「おい、救急車だ!」
「いや、ヘリを呼ぶ!」
「チッ、まずはここで応急措置を取らねえとヤベエぞ!」
人や言葉が行き交う中、名前の腕が動いた。
物凄い速さで名前は袖から短刀を取り出したかと思うと、その切っ先を、自身の喉に向けて
「テメェ何してやがる!!」
けれどそれは喉にたどり着く寸前に、名前の腕を掴んだ晋助によって、止められた。
場が静まり返るなか、止めようとする晋助と、自身の喉に刃を向かわせようとする名前の力から、短刀が鳴る音がする。
まるで硬直しているかのように固まった腕で、頑なに刃を向かわせようとする名前に晋助は舌を打ち、加減無しでその腕を掴む手に力を入れた。
強制的に名前の手が開き、短刀が落ちる。
素早く辰馬がそれを拾い、後ろに投げ捨てた。
変わらず表情の見えない名前の腕を晋助はそのまま引っ張り、顔を上げさせる。
「いったい何を…!!」
けれどそこで、晋助は目を見開き息をのむと、言葉をなくした。
腕を掴む手からも自然と、力が抜ける。
そしてそんな反応をしたのは晋助だけではなかった。
――松平含む幕府の者も、真選組も、神楽も、新八も。
攘夷時代からの付き合いの辰馬も。
そして寺子屋からの晋助も、小太郎も、銀時も。
名前の、こんな姿は見たことがなかったのだ。
名前は、泣いていた。
120115