「核のことも、もう心配いらんぜよ。陸奥にデーメーテールを用意させたきにの」
「デーメーテール、って…」
「司るものは地母。まあ名前の付け方なんぞどうでもいいがの。母なる大地で全てを包み込むっちゅう案じゃ」
「へえー、いい付け方だね。――ああ、だからシールドなんだ」
「前に私が、快援隊に材料を取りに行った…?」
「おう、これで核から江戸を護れるぜよ」
「とにかく何にせよ、この船からはやく離れるに越したことはない。急ぐぞ」
出口へと向かうペースが、速くなる。
けれどそこから来るものとは別に、焦りに似た何かイヤなものが、私の胸の辺りを取り巻いた。
私は特に意識せずに、腕を上げて時計を見る。
十二時、五十分。
核が江戸を包むのは、一時。
私はハッと息をのんだ。
核は、起動させてから四十五分後に爆発する仕組みだ。
そして同じようにデーメーテールにも、起動させてから、そしてシールドが張られるまでに時間がかかったはず…!
「辰馬、デーメーテールを起動させたのは何時頃か、覚えている?」
「遠隔操作が結局切られ、取引が無効になった辺りじゃ」
つまり、デーメーテールが起動させられた時間も、核と同じ、およそ十二時十五分。
思い出せ!
デーメーテールの材料を取りに快援隊に行ったとき私は、その資料を読んだはずだ!
デーメーテールの起動には、どのくらいの時間が…!
作動させてから約1時間でシールドが張る、宇宙の希少石パンドラで作られたシールドは防げぬ物は無い。
「――!」
核は、一時に爆発する。
そしてデーメーテールが完全に起動し、シールドを張るのは恐らく…一時、十五分だ。
――私は少しうつむくと、微笑んだ。
「わざわざ、来てくれて…ありがとう」
「黙っとけ。色んな言葉はその怪我が治ってから、聞いてやる」
「ああ、そしてそれはもちろん全て、本当のことをな」
私は変わらず微笑んだまま、口の中だけで小さく、ごめん、と呟いた。
――外に通じる、ドアが開かれる。
太陽の眩しい光が、私たちを包んだ。
――出ると、ほかの船はもう見えなくなっていて。
けれど少し歩くと、降下していっている姿が見えた。
「船首が無くなっているね」
「少し戦闘があってな。木造の船だからかボロボロだな」
小太郎の言葉通り、船首は、というか船頭は削り取られたようになっていて、誰か一人でもそこを勢いよく踏めば、落ちていくだろうふうに思われる。
けれど、今の状況なら丁度良い…ここから落ちれば、降下していっている幕府の船の船頭にピタリだ。
私は刀を持つ右手に、力を入れた。
そして素早く、四人よりも後ろに下がると――刀を振り、ボロボロになった床を、斬った。
四人の身体が、宙に浮く。
スローモーションに見える情景の中、四人がだんだんと、目を見開きながら私を振り返る。
木の破片が舞う中、私は四人を見て、微笑む。
「ごめんね。…ごめん」
「嘘吐きの関係はもうお互い、やめにしようや」
「最後まで嘘吐きで…ごめんね」
ゆっくり流れる世界は終わって、四人が重力に従って、私が斬った木の破片と共に落ちていく。
私は、床に刺さった刀から手を離す。
斬る動作、腹に力を入れたことで少し溢れた血をおさえるべく、腹に右手をあてた。
「名前、テメェ、何してやがんだ…!」
すると無事、幕府の船の上に落ちた晋助が、私に向かって吼えた。
銀時、小太郎、辰馬も、声を上げている。
松平さんや神楽、新八らは目を見開き、どうして、という風に私を見上げていて。
私は腹をおさえる右手に少し力を入れて、そうして息を吸い込んだ。
「核が爆発するのは、一時!デーメーテールがシールドを張るのは、一時十五分!二つの物の作動するまでの時間には、違いがあるから!」
辰馬が目を見開く。
「理由は言えないけど私には、核を、消せる!だから!」
だから、大丈夫。
と、私は微笑んだ。
――さようなら、とか、ありがとう、とか。
言いたい言葉は色々、浮かんでくるのに。
なんだかどれも、よく分からないけど、言えなくて。
私は少し笑みを深めると、振り返った。
そして核がある、船内へと向けて足を、踏み出した。
120114