ラクが倒れて、風が吹き、髪がふわっと後ろに持っていかれた。
白煙がおさまるとそこには、普通の状態に戻り、床に倒れているラクと、そんなラクを見下ろしている銀時の姿。
小太郎と辰馬と晋助は、同じようにラクを見ながら、各々の武器をしまう。
「どうして、俺を」
するとラクの小さくて、掠れた声が聞こえた。
「だから、俺を…見ては、くれなかったんですか」
「ラク…」
「名前さんの真似ばかり、してたから」
「…俺はよく知らないが、名前は昔、独りで林で暮らしていて、そしてそこで、お前と会ったんだろう?」
小太郎の問いに、ラクが少し不思議そうにする。
どうして今、そんなことを。
とでも言いたげに。
「そしてお前さんが親を殺したっちゅう日の後も、変わらず名前はそこに来た」
「その日に松陽先生に、ひとりで林で暮らしていたことを、怒られてもな」
辰馬と晋助の言葉にも、ラクの不思議そうな、怪訝そうな表情は変わらない。
「先生に怒られても変わらず、名前がその場所に居た理由は、なんだ。まだ、分からねえのか」
「…、…?」
「テメェがその場所に、来るからだろ」
「――!」
目を見開いたラクは、そうして直に首をゆっくりと倒すと、私を見た。
私は眉を寄せ下げて、その瞳を見つめ返す。
――すると銀時が振り返り、四人が、こちらへ向かって歩き始めた。
「教えてもらうぞ、名前。寺子屋のときのことを」
小太郎が言う。
「松陽先生の、最期の時のことを」
晋助が、言う。
「灰色の髪の天人に、欲しがられた時のことを」
辰馬が、言う。
「そして、今、この時のことも全部だ」
銀時が、言った。
――小太郎が私の肩を優しく支えて、やんわりとドアの方へと向かわせる。
私は頼りない歩き方をしながらも、首だけでラクを振り返った。
ラクはもう、こっちを見てはいなくて。
天井を見ている顔は、けれど髪の毛がかかって、表情はうかがえない。
「ラ――、」
「振り返るんじゃねえ」
「晋助、けれど…」
「行くんだ」
有無を言わせない晋助に、私は、ラクを数秒見つめて。
そして顔の向きを戻すと少し下を向いて、歩みを進めた。
銀時、小太郎、辰馬、晋助と、並んで。
120114