銀時、小太郎、辰馬、晋助。
――四人の戦っている姿は、あまり見たことがない。
攘夷時代、毎日のように戦場に行き戦っていたという点では同じなのだけれど、四人は私の身を案じて、自分達が赴く激戦地にはまったく、私を連れていかなかったから。
けれど、一緒に戦ってきた、とか。
一緒に傷を癒した、とか。
そんなものじゃないんだ。
私は確かに、銀時と、小太郎と、辰馬と、そして晋助と…確かに並んで、ずっと横に並んで、生きてきた。
「どうして、ここに」
口の中は血で濡れていて、そしてそれは喉も、同じはずなのに。
出てきた声は酷く、掠れていた。
「名前、お前さんの刀には、盗聴器を仕掛けさせてもらっていたきに」
「――!盗聴、器」
「ああ、この、ラクっちゅう奴との戦いで刀が折られて、盗聴器も壊れてしもうたけどな」
後ろから歩いてきた辰馬が、支えるように私の肩に手を回して、言った。
「そしてその盗聴器は、幕府、ヅラ、高杉ンとこの船にも聞こえるようにしてた。もちろんわしの船にも」
その言葉に心臓が重く動いて息が詰まった。
穴の空いた腹が、熱い。
けれど指の先は、冷えていくようだった。
「そ、れじゃあ、刀が折れるまでの会話は、全部、」
「聞いていたんですね」
引き継がれた言葉に、ハッと私は顔を上げる。
銀時のトドメによって床に倒れていたラクが、起き上がっていた。
身体の大きさは単純に、さっきよりは小さい。
けれど普通の人間のサイズとは明らかに言えない。
指の部分は刀ではなく、少し尖っているだけだった。
「少し待ってるぜよ、名前」
辰馬は一度、私の肩を掴む手に少し力を入れたかと思えばそうして、前へ歩いていく。
「坂田、銀時。桂、小太郎。坂本、辰馬。高杉、晋助…盗聴器から会話の内容を聞いて、ここに来たんですね」
「悪いが、お前と話している時間は無い。俺たちはこの船から名前を取り戻し、そしてここら一帯から一刻もはやく、離れなければならないからな」
小太郎の言葉にラクは、血走らせていた目をさらに鋭くさせた。
殺気しか、込められていない目。
「会話を聞いただけで!名前さんの真実を少し知れただけで!どの面を下げて、名前さんを取り戻すと、言っているんだ!」
「テメェこそ、えらく名前にご執心みてえだが…どの面下げて、アイツをあそこまで傷付けやがった…!」
「お前は、何も知らないんだ、坂田銀時!お前を、孤児だったお前のことを吉田松陽に言ったのだって、名前さんだ!」
激昂したラクが、その尖った指を銀時に振り下ろす。
けれど避けられて、床が壊れ煙が上がる。
避けると私を振り返った銀時に、私は目を逸らせずに、息をのんで。
「お前らは、けれど、知っていた筈だ!名前さんが嘘で、何かを隠していることに!」
「ああ、言う通りじゃぜよ」
「なのにお前らは、その嘘に隠された真実を知ろうとしなかった!そんなお前らが、名前さんを連れ戻す?!」
「…わしらは、こわがってたんじゃ」
辰馬の言葉にラクは眉を寄せ、私は目を見開いた。
「名前が嘘吐きなのは、知ってたぜよ。けど名前の嘘は軽くて、楽しいものじゃった。…そんな名前が、何か重く、そして深刻なものを嘘で隠してると分かったのは、いつじゃったか」
心臓が速く動いている。
それは、腹に穴が空いたからなのか、それとも、辰馬の言葉からなのか。
「けど、それに気づいてもわしらは、お前さんの言う通り、知ろうとしなかった、出来なかったんじゃ。…嘘で隠されている名前の真実が垣間見えたとき…そのときだけで、名前が、消えそうに見えたから」
「辰、馬」
「わしらが真実を知ることで名前が傷付いてしまうことを考えるとどうにも、手が震えた。わしらが真実を追い求めることで、名前がわしらから逃げて、離れていってしまうことを考えたら、…それは、出来なかったんじゃ」
けど、と辰馬が片手でかまえた拳銃の先をラクに向ける。
咄嗟に顔の前に出したラクの右手を二発、弾が直撃して。
「それももう、今日、この瞬間で終わりじゃ」
「ク、ソ…!」
ラクが左手を、辰馬に向かって振る。
けれど辰馬はそれを避けることは、しなかった。
「礼を言っておくぜ、ありがとな。お前は俺達にキッカケを、与えてくれた」
ラクの左手は、辰馬の横に現れた晋助が刀で受けとめた。
晋助はラクの左手を右足で踏みつけ床におさえる。
「名前は真実を隠す為に嘘を、そして俺らは、嘘をつかれていることに気づかないふりを、嘘を、ついていた」
そして振り下ろされた晋助の刀によって、ラクの尖った指が斬られる。
声を上げて、ラクは晋助を振り払った。
「嘘吐きの関係はもうお互い、やめにしようや」
ラクから少し距離を取って着地した晋助は、私を振り返ってそう言った。
「だがしかし…ならばお前は、何をしてきた」
すると言った小太郎の言葉に、ラクは眉を寄せる。
晋助に斬られた左手をおさえる右手からも、辰馬の弾丸によって、血が出ていた。
「名前の真実を知って、それで、何をしてきた?」
「……」
「お前だって、俺達と同じだ、何もしていない。ただ名前の真実を知っていることに喜び、けれど、それだけだ」
唇を噛んだラクが、小太郎に向けて右手を振り下ろす。
小太郎はそれを軽く避けて、ラクの右足を斬った。
「ウ、アアア!」
「お前は名前を真似出来たことを喜び、名前と同じになれたことで喜んでいる。けれどお前は、名前と同じにはなれていない」
目を見開き驚いたラクの腹を、銀時の木刀が貫いた。
「名前は、俺たちがムカつくくらい、自分でなんでも決めてきた。生き方を、歩く方角を、道を」
「ウアアア!」
「なのにお前は、真似ばっかじゃねえか。…お前は、名前とは違う…!」
小太郎に、左足をも斬られてラクの身体が傾いていく。
銀時は床を蹴り飛び上がると、その木刀を振り上げた。
「お前は、自分じゃ何も決められねえ、ただの、臆病者だァアア!!!」
そうしてラクの右肩に木刀を突き刺すと、そのままの勢いでラクを、床に倒した。
120114