少し受け身は取ったけれど、背中や肩に伝わるのは、確かな痛み。
顔を歪め、右手で左肩をおさえながら、少しの瓦礫の中から身体を出す。
――荒く息をしながら、拳銃を構え、ラクに向けて二発、撃った。
「――!」
けれど弾丸は、ラクの身体に当たると少しだけその跡をラクの肌に残して、勢いなく床に落ち転がった。
効かない、のか。
ハァ、いったいどれだけ、活性化しているんだ。
まだ消えない痛みに少し顔を歪め、よろけつつも立ち上がる。
ちゃんと足の裏で床を踏みしめていることを確認してから、私はラクへと向かって走り出した。
近づいていくとラクは大きく腕を振る。
飛んで避けると、銃口をラクに向けて引きがねを引く。
けれどその拍子に背中が固まり痛みが走り、弾道が少し逸れてしまった。
揺れた銃口から飛び出した弾丸は、ラクの右手の、親指にあたる部分の刀を撃ち折る。
――着地すると、また床を蹴った私は、ラクから距離を取った。
もしあの距離で、刀じゃあなくラクの身体…活性化されている肌に当たっていたとしたなら、どうだったんだろう。
けれど、さっきの弾丸の様子からして、この拳銃の威力じゃ、ラクの身体、特に体内に傷をつけることは、出来そうにないかな。
「かと言ってまさか、ショットガンでも持ってくる、なんてことはね…」
右手に握る拳銃を見ながら、ひとりで言う。
――弾が六発入れられた、軽量型の拳銃。
まだこの状態じゃないころのラクの左肩に、一発。
さっきの中距離からの二発。
そして刀を撃ち折った一発。
私の刀は折られてしまったし、鞘は武器にはならない。
特に今の状態のラクには。
それからあとは、いつも持ち歩いている短刀があるけれど…これも今の場合じゃ、鞘と同じレベルかな。
――つまり私の残りの武器は、弾が二発残った、この拳銃だけ…ってことか。
すると肩を伝う液体に気づいて目をやる。
そこにはさっき壁に激突したときに傷ついたのか、血が二筋、流れていて。
――私は、痛みを嫌う。
ならば対処法は一つ、痛みを受けないこと、なるべく痛みを避けること。
そんな私にとって、この傷がついた肩は久しぶりの痛み。
痛み、…痛い。
「お前が怪我が嫌いなのは」
「そりゃあもちろん、痛いからですよ」
「ああ、だけどまだあるだろ、理由が」
「――…怪我は、治すことも辛いですから、…ね」
私は思わず、笑った。
今さら、怪我を嫌うことも痛みを避けることも必要無い。
確かに、痛い、怪我は痛い、痛いことは、嫌いだ。
「お前が怪我を享受するときは、治す必要が無いとき」
「つまり――死を覚悟したとき……死ぬならば、治す必要は無いですからね」
けれど私はここに、死にに来た。
確かに怪我は痛い、痛いことは、キライだけれど。
もう、治す必要は無いんだ。
拳銃を右手に構え、ラクに向かって走っていく。
そして、今度はラクが私に向けて刀を振る前に、床を蹴って飛び上がる。
位置的からラクは右腕ではなく左腕を、私に向けた。
刀が、腹に向けて近づいてくる中私は少しだけ、唇を噛みしめた。
――ラクの指である刀が二本、私の腹を突き刺した。
腹の皮が突き破られる痛みの後直ぐに、腹の中が熱くなったかと思えば喉を熱いものが通って、赤い液体が咳とともに出る。
――私は、自分の腹に突き刺さる二本の刀に向けて、横から二発、弾丸を放った。
二本の刀が撃ち折られる。
私はその内のひとつを掴み腹から抜くと両手で振り上げ、ラクの左肩――この拳銃の一発目の弾丸の行き先――血が流れている部分めがけて、振り下ろした。
120113