「テメェまで来やがったか。わりいが今は、お前の相手してる暇はねえぜ」
真っ直ぐに自分を見てくる銀時の顔を、そして瞳を見つめ返した神威は、にっこりと笑う。
「分かってるよ、今の君と戦えないのは残念だけど、別に俺はここに、君と戦いにきたわけじゃないから」
「あ?」
「俺はここに、春雨と戦いに来たんだよ」
…ハァ?と眉を寄せ首を少し傾げた銀時の声を、天人の抗議が塗りつぶす。
「おい、神威お前、どういうことだ!」
「地球人と共闘?お前は宇宙海賊、春雨だろ!」
「――考えてみたんだ、名前を俺たち春雨が、兵器として手に入れたときのことを」
神威は銀時から、春雨の戦艦に身体の向きを変えた。
「そしたらいつまでたっても、名前は笑ってくれなかった。それか、たまに下手に微笑むだけ…それはなんだか、良い気がしなかった」
「ハァ?!」
「それにお前らごときが名前を、まるで道具のように扱うのも、気にくわないしね」
神楽が、先程よりももっと暴れ、天人たちを倒しながら、神威を見て吠えている。
神威はそんな神楽を少しだけ振り返ると、変わらず笑ったまま、春雨の戦艦に身軽に乗り移った。
「うるさいやつも居ることだし、俺はそろそろ、俺の陣地に行くよ」
「神威、キサマァ…!こんなことをして、タダで済むとでも思っているのか!」
「さあね、どうにかなるんじゃない?」
「ふざけやがって…!」
「まあ、どうにかならないことをしたとしても…どうにかさせれば、いい話だ」
神威の瞳の青色に込められた愉しさに、対峙している天人は皆、息をのみ後ずさる。
――神威はまた笑みを浮かべて、上を振り返った。
松平の船艦の上に位置するように来た船艦からまた一人、男が下りてくる。
「ね、阿伏兎」
「ったく、尻拭いだって、大変なんだぜぇ?」
「そうなんだ、初耳」
ため息をつき頭をかく阿伏兎の後ろに、傘を持った天人が次々と、同じように船に下りてくる。
春雨どうしで戦い始めた船上を見ていた銀時は、再び木刀を持つ手に力を入れると、自身の敵を睨み見た。
「――大変です!」
――すると直ぐに、船内からのドアが開いて。
船外の、混雑という言葉では足りないくらいの場景にその職員は息をのんだ。
けれど直ぐに、歯を食いしばると
「盗聴器が、壊れました!名前の刀が、折られて…!」
「――ハァ、ハァ、…ッハ」
荒く呼吸をしながら、私はもう一度、ラクの名を呼んだ。
けれどラクは変わらない。
私の声に応えるどころか、名前を呼ばれたことにすら、気づいてないらしい。
容貌はかなり、紅桜の一件での、岡田似蔵に似ている。
それも、末期というか…紅桜にかなり、身体を侵食されている時の。
違うのは、岡田似蔵は、片腕がまるで刀になっていたけれど、ラクの場合は、指がそれぞれ刀になっている。
腕の場合と違って、刀は、私が使っているものと変わらない大きさだ。
けれど何分、数が多い。
明らかに何か、身体に取り込んでいる…それは、紅桜のような物なのか、それとも、薬を摂取したのか…。
もしかしたら天導衆から言われて、それでまた、是、と…そう答えたのかな…。
まあ良い、今のことに集中しよう…とりあえず、刀を減らさなきゃ。
手でビンタするように、私に指である刀を振ってきたラクの攻撃を避けることはせずに、向き直って刀を振る。
「なっ…!」
けれど瞬間、付け根らへんから刀が折れた。
私は咄嗟に腰に差している鞘を抜くと、ラクの刀と十字になるようにして両手でしっかりと握りしめた。
――鞘は折れなかったものの、防いだラクの刀の勢いで私は、壁まで飛ばされた。
120112