「松陽先生と私は、違う」
「しかし…わしを帰してくれたアイツは…心が壊れてしまいそうになり心配してくれてた大切な人に話し、…全て、無くした…!」
「松陽先生は…私も、聞いただけだけれど…一度、全てを無くしてる、大切な人を闇に、のみ込まれてる」
「大丈夫ですよ、何も心配いりません」
「あなたたちは、私が必ず、守りますから」
「けれど松陽先生は、また、大切な人達を手に入れた。そしてその輪の中の者を今度は全部、護り抜いた」
私は笑みを浮かべながら、ラクを見る。
「ラク、君は、私が誰かを想うと言ったけれど、私には松陽先生のような強さは、ないよ…大切なものを無くす痛みを知ったのにそれでもまた、背負って、もたれて生きていく強さは、私には、ない」
そうして腕を少し上げると腕時計を見た私は、
「さて、核が江戸を包み込んでしまうまで、そうだね、時間が無いとはまだ言わないけれど、早めにこの船から、出ていった方がいいよ、ラク」
ラクが悲痛に顔を歪める。
そして、歯を食いしばるような表情をすると、手を握りしめて下を向いた。
私は少し、そんなラクを眺めてから、核に近付こうと、足を一歩踏み出す。
するとラクが、勢いよく顔を上げた。
「誰かを想ってないと言うのならどうして…!名前さんは、自分を道連れにしてまで核を消すんですか!」
「……」
「誰もを想っていないのなら、誰が核で死んだって、構わないでしょう!なんなら今、直ぐにでも核を…!」
「それは困るよ、私も、あの闇をそう簡単に出現させられるわけでもないんだ」
「ほら…ほら、どうして!」
引いてくれそうにないラクに、気づかれないように少し、息をつく。
けれどそうしてまた直ぐに、私は微笑んだ。
少し、目を伏せて。
「核をそのままにしておけば、私の周りにいる人達はみんな、死んでしまうね…けれどだからと言って、私は、彼らの為を想って、核を消すわけじゃない」
息を荒くしながら、ラクが疑問符を浮かべているのが分かる。
「彼らが死ぬことになるのは、私が、イヤなんだ」
「――!」
「彼らが死ぬのは、イヤだ。私が、イヤだと思っている。それなら彼らが死ぬのを防げば、私は嬉しい、と、そういうことになるでしょう?だから私は自分の為に、核を消す。自分の為に生きている、私だから」
銀時達の姿が一瞬、脳裏に浮かんだ。
けれど私は直ぐに、自分から、その姿を追いやった。
ここ数日よく見ていた怒っているような顔でも、笑顔でも…どんな顔でも彼らは、彼らの存在は直ぐに私の気持ちを、緩ませる。
けれどもう、別れる決意はして、ここに来たから。
だからもう、考えはしない。
「憎い…」
「…ラク?」
「彼らが、憎い…!」
核の方へ近づいていくラク。
さっきの言葉もあり、私は帯に差している拳銃を手に取ると、核に手を伸ばそうとしていたラクに向けて、引きがねを引いた。
驚きと、少しの怒りを含み、そして泣きそうになりながら私を見るラクに、少し眉を寄せる。
「例え話をしましょう、名前さん」
「…何かな」
「名前さんが今選ぼうとしている道には、大きな困難が待ち受けているとします。それなら貴女はいったい、どうするんですか」
ひきつったような表情で私を見ながら話すラク。
「酷く簡単な問いだね、ラク…私は、困難を、壁を壊してでも、その道を選ぶよ」
私は拳銃をしまうと、刀を鞘から抜いた。
両手で刀の柄のがらをしっかりと感じながら、刃の先をラクに向ける。
「本当に酷く、簡単な問いだね」
ラク、とまた呼べば彼は震える手で、けれど私を見開いた目で見たままに、自身の腰に差している刀を同じく鞘から抜き、刃の先を私に向けた。
「何を比喩しているのかが、分かりやすすぎるよ」
120111