「斬られたくなきゃ、そこを退け」
鬼兵隊の船の上、晋助が刀に手をかけたまま、前を塞ぐようにしている宇宙海賊、春雨の船員に告げる。
すると晋助のあとを追い船内から走ってきたまた子が、笑う天人を睨み上げた。
「どういうことッスか!幕府や、桂どもの船だけならまだしも、どうして私ら鬼兵隊の船にも妨害するんスか!」
「確かに、いくらきちんとした同盟なんてものではないにせよ、私たち鬼兵隊とあなたたち春雨は手を組んでいる仲のはず。それがいったい、どうしてでしょうか」
武市の言葉に、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべていた天人たちが、口元の弧を長くする。
「オイシイ話があると聞いてなあ、そしてその話はさすがにお前ら、鬼兵隊にはやれねえのさ、悪いな」
「オイシイ話、ねえ」
「ああ、そうだ!まさかこんな兵器が、地球人にいるとはな」
「いわば制限無しの、最大級の兵器。あの女を欲しがらねえ奴が、どこにいる」
前髪が晋助の目にかかり、表情を隠す。
また子が少し心配そうに、その様子をうかがう。
「しかし、わざわざ俺達に教えてきたのが運のつきだったな。あの女は、俺たち春雨がいただく」
「兵器として、十分使ってやるよなあ、ヒャハハ…!」
耳に痛い天人の高い笑い声は、首をかっ斬った晋助の刀によってかき消された。
「どうしたものかねえ」
いたって普通の調子で話す晋助、だけれどあらわになった瞳は殺気のトゲをまとって、天人たちを睨みつけている。
「お前らを殺したくてたまらねえ、が、俺ははやく、あの船ン中に行きてえんだ。――さて、どうする、春雨よ」
鞘から抜いた刀の、銀色に、晋助の顔がうつった。
「退くか、死ぬかだ」
「――君を連れて行きはしないよ、ラク」
――ふっと、力を抜いて微笑むと、ラクの顔はショックと、困惑と、動揺に塗れた。
「どうして、ですか。俺は、ダメですか」
「……」
「坂田銀時や、桂小太郎や、坂本辰馬や、高杉晋助ならば貴女は、一緒に連れていくんですか!?彼らは…!」
私は真っ直ぐにラクを見据える。
「彼らは名前さんのことを、何も知らないのに…!」
「私についてのことなんて、知らなくて良いことばかりだよ」
「違う、だって彼らは、名前さんに関わった人達は、貴女がウソで隠している部分を知りたいと、思ってる!そして俺は、知っている!」
証明するかのように大仰に手を広げるラクは、息を荒くしながら笑っていて。
私は少し、眉を寄せ下げる。
「吉田松陽のことは勿論、彼らは知らない!それに、昔名前さんが天人に欲しがられたときの、真実も!」
「…そうか、もしかして、私が生き残りの天人を消してしまったときに後ろに居たのは、ラク…君だったの?」
「そうですよ、それに、貴女の両親のことも!彼らは何も知らない、吉田松陽でさえもそのことについては、気がつかなかった!」
その言葉に、眉を寄せる。
そして脳裏には、昔、小さい頃、一人で暮らしていた林の中の情景が浮かんだ。
そして、最初で最後の、松陽先生の怒った顔…。
ラクの言葉に、違うんだよ、と、そう言おうとすると、けれど先にラクが「それなのにどうして!」と顔を歪めて言う。
「どうして貴女は、彼らを、想うんですか!優しい嘘で、生かすんですか…!」
――ふふ、と私は笑う。
雰囲気を、まるで無かったかのようにして。
「私が、誰かを想う?違う、見当違いだよ、ラク…私は私のことだけを思い、一人で生きてきたんだ」
120111