私は吐き捨てるように笑う。
「仲間に、か。白々しいね、本音を言いなよ」
「……」
「仲間として欲しいんじゃなくて、道具、として欲しいんじゃないのかな」
表情の変わらない、笑顔の仮面は確かに奇妙だけれど、冷静さというか、笑みを浮かべたまま話すことは私だって、それが常だ。
特に何も、気にはしない。
「貴方達が私を欲しがる理由…私は確かに平均的な女性から比べると、戦闘値は高いだろうね。けれど性別の枠や、種族の枠をこえれば私くらいなら簡単に埋もれる」
だから欲しがる理由は、それじゃない。
「貴方達が私を欲しがる理由…それは、私の思考から成り立つ、未知の現象…いわば私は、人間ブラックホール…だからね」
また私は、吐き捨てるように笑った。
けれど直ぐに、普段の微笑みにシフトチェンジする。
「それに、素性を偽って接触してくる人たちの傘下に普通、入ると思う?」
目は、真っ直ぐに、仮面の者を見据える。
仮面の者も変わらずの笑みでこっちを見ていたかと思えば、首元に手をやって。
「――失礼しました」
そうして聞こえた声は、今の動作で電源でも切ったのか、変声器は使われていなく、少し高めの、男性の声で。
私は少し、眉を寄せた。
この声、どこかで聞いたことがあるような…。
いや、さすがに疑心暗鬼になりすぎ、というか、神経を張らせすぎか。
「察しのとおり、私達は、貴女が捕らえた攘夷グループの残党などではありません」
「そう」
「申し遅れました、私は天導衆の一角にございます」
天導衆、か。
まあ、予想の候補に出てこなかったわけでもない。
――核の製造を命ずることが出来て、そして例の闇のことも知っている…両方に当てはまるのは高い地位に属する人物だとは、思っていたから。
「とは言っても私はまだまだ端くれ、様々なことの足役でございます。そして申しわけありません、素性を偽っていたのは、」
「こんな美味しい話、他のゲス共には聞かせられない」
「……」
「前に私を、貴方達と同じ理由で欲しがった人は、そう言っていた」
無言は、肯定。
「ひとつだけ、訂正が」
「おや…なんだろう」
「私たち天導衆は、貴女が、いわば既に人間ブラックホールだったことは、知りませんでした」
「それは…そうか、口を滑らせたみたいだね」
まあけれど、失言、とまでにはいかない。
私が「世界の真理」を理解していることを天導衆が知っていても知らなくても、私のこれからの行動は変わらないから。
「核は消します、絶対に」
そうか、けれど確かに、分からなかったんだよね、どうして「世界の真理」を理解している者で、私に辿り着いたのか。
私は教職者でも指導者でもないのに。
「しかしそこまで話が分かられているのなら、話は早い。私たち天導衆の、仲間になってほしいのです」
「ふふ、あくまで言うね」
「断った場合は、お分かりでしょう。核を起動させます」
「おや、いいのかい?天導衆からしても江戸は貴重な場所、資源だろうに」
「貴女が仲間になれば、今以上のものが直ぐに手に入ります。それに貴女も、」
仮面の者と、目が合った気がした。
変な錯覚。
「それに貴女も、江戸云々以前にもう、周りの人々を傷つけられたくないでしょう。けれど断るならば今度はもっとひどい怪我…というか先に核で、消えますね」
「…私の周りの人達を射撃したのはやっぱり、貴方達か」
「今この時の為の脅し…ではありませんね、私達が有利になる為の材料にさせていただきました」
脅しの材料、か。
「わざとらしい口下手だね」
「大丈夫、貴女も知っての通り殺しはしていません…親しい誰かを殺した相手の仲間には、なりたくないでしょうから」
それに手口も、昔とまったく変わっていない。
「お断りだよ、下吐が出る」
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