あのときと同じだ。
そう銀時は思った。
「――…こっちへ来ちゃ駄目だよ」
少し悲しそうに微笑みながら言われる言葉。
けれど素直に言葉に従わなくたっていいんだ、無視して、名前の腕をつかんで引き寄せればいい。
それなのに、動けなくなる。
「――クソッ!」
――名前が船内に入り、ドアが閉じて数秒して、銀時は壁を殴った。
強い痛みが手を痺れさせる、けれどまだまだ銀時には納得がいかなかった。
「これから、どうするっつうんだ」
「…アイツが船内に入り向こうと接触したら、核の遠隔操作が可能になる」
「遠隔操作が?」
問うた新八に、土方は続けて
「遠隔操作が可能になれば、十五分で核を停止することが出来る。そしてその後は、向こうがどうしようが核の主導権はこちらにありだ」
「それが、交換条件…でも、ちょっと待ってください!もし向こうが、約束を破ったりしたら…!」
「破らねえさ」
答えたのは、沖田。
「核も名前さんも手中におさめたいのなら、わざわざこんな大事になんかしねえで、気づかれないように名前さんを誘拐でもすれば良かった」
「向こうも、こっちの船艦と対峙することを前提に交換条件を持ち出してきたからな。そうじゃなかったら我々も、取引には応じないさ」
近藤が話す中、数人が船内に戻っていく。
それを歯がゆそうに見た神楽は
「それでこれから、どうするアルか」
「――アイツの刀には、盗聴器を仕込んだ。船内に戻っていってる奴らは、その調整にこれからあたる」
「盗聴器?名前さんは、そのことは…」
「知らねえ。アイツは、自分が危ない状況に陥ったとしたなら自分から、盗聴器を壊しそうだからな…だがそれじゃ意味がねえ」
土方の言葉に新八は、確かに、と眉を寄せながら頷く。
土方は、松平を見ると
「それよりとっつぁん、快援隊のトップにも、盗聴器の音源渡したのか?」
「ああ?それがどうかしたかトシ」
「いや快援隊にゃあ問題ねえがよ、桂や、鬼兵隊の奴らにまで回ってるらしいんだが」
「馬鹿野郎、そんなだからお前はモテねえんだよ。女の過去にはあまり触れるもんじゃねえ」
そうして自身も船内へと戻っていく松平の背中を見ながら土方は、呆れた顔をする。
すると沖田が、そんな土方の肩に手を置いて
「名前さんが大変だっていう今、アイツらをしょっぴこうとでも考えてるんですか?鬼の副長通り越して最早鬼でさあ」
「ンだとこらァ!…チッ、いくら俺でも、考えてねえよンなことは」
真選組が船内に戻っていく中、銀時は振り返り、名前が入っていった船以外の三つの船を見やる。
「銀ちゃん…」
「銀さん…」
そして不安そうな神楽、新八の間を通ると自身も、船内へと向けて歩き出した。
「十五分経ったら、乗り込んで良いんだな」
「――名字名前デスネ、コンニチハ」
「どうも、こんにちは」
――船内の中に、相変わらずの変声器で変えられた奇妙な声と、名前の、波立たない声が響き渡る。
「遠隔操作、可能!」
「停止作業に入ります!」
そして部屋のモニターには時を刻むタイマーが大きく表示され、科学班の面々がコンピューターのキーボードを叩いていく。
「名字名前、貴女ニハ、仲間二ナッテ欲シイノデス」
けれど仮面の者から伝えられた言葉に、全ての者の動きがとまった。
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