――ここ最近、色んな事があったけれどおかげで、色んな人に会うことが出来た。
大半は、笑顔が見られなかったけれど…まあ、大丈夫。
思いだそうとすれば簡単に、思いだせる。
ここ最近が少しおかしかっただけで…とまあ、おかしくした張本人が言うのもアレだけれど…日常は、笑顔で溢れていたから。
船内から船頭へと歩きながら、少し下を向いて笑う。
それに晋助にも、会うことが出来た。
小太郎はともかく、晋助には中々会えない、というか…春雨関連でしか会えないと思っていたからね。
そうか、小太郎か…小太郎に会ったのは、最後はいつだったかな…。
ドアを開けて、外へ出る。
船はもう既にかなり上空に位置していて、見下ろす街並みは小さくて。
これから私が乗り込む船も大分、近づいてきていた。
――すると左後方から船艦の音が聞こえてきて、振り返ると、快臨丸の船頭に構える辰馬の姿をとらえる。
辰馬の少し後ろに控える、陸奥さんも確認出来た。
「名前!銀時は、そっちの船ん中に居るかいのう」
すると辰馬が声を上げて言った言葉に、私は少し大きく頷く。
「ほうか、――久しぶりじゃのう、あん時みたいに、揃うんは」
――辰馬の大きな声をかき消すような、今度はまた違う船艦の音が聞こえてきていて。
靡く髪をおさえながら音のする方に顔を向けた私は、目を見開いた。
「――小太郎、晋助」
違う船艦の音は、これから私が乗り込む船を囲むように位置した二つの船艦からで。
それぞれの船頭には、小太郎が腕を組み立ち、晋助が煙管を持ち腰掛け…そうして二人とも、私を見ていた。
――船艦による風がおさまって、髪が落ち着いて、私は思わず、こぼすように、微笑んだ。
もしかしたら少し悲しそうな笑顔にも、見えたかもしれない。
「――名前」
――すると後ろから名前を呼ばれて、振り返る。
そこには松平さんと同僚が何人か、そして近藤さん、土方さん、沖田さんの姿もある。
私は松平さんの目を真っ直ぐに見つめ返す。
「約束しろ」
「銀さんに聞いたんだ。名前姉はちゃんとした約束に弱い、って!」
「アイツは何が本当の言葉かなんて分かんねえからな。だからアイツが本当に約束だっつった時は、アイツはぜってぇそれを守る」
「必ず、生きて帰ってくることを約束しろ!」
声を荒げた松平さんから、視野を少し広げる。
心配そうな近藤さん、真っ直ぐに私を見る土方さん、少し眉を寄せている沖田さん。
そうして私は、少し腕を上げて腕時計に視線を移す。
時計の短針も長針も既に、十一という数字をこえていて。
腕を下げた私は再び、松平さんを真っ直ぐに見た。
「なら、松平さんも約束、してくれますか」
松平さんが眉を寄せる。
「いつもの信念を貫くと、約束、して下さい」
「…どういう意味だ」
「――大義を見失えば、救える者も、救えなくなる」
松平さんが目を見開く。
後ろに控える近藤さんらも、同じ反応。
「名前、テメェ…!」
「核を起動させられれば、多くの人達が被害を受けます。私ひとりが消えて、そうして核も、消えるならば」
私を睨みつけ低く唸るようにした松平さんに特に臆することもなく、真っ直ぐに。
「信念を貫くと、約束、して下さい」
松平さんは、強く唇を噛みしめる。
噛んでいる部分が白くなり、血が出そうなまでに。
松平さんのこんな顔が見たいわけじゃあないのにな、と思いながら、けれど私は、微笑む。
「松平さん、ありがとうございます」
「おい、俺は約束を受け入れたわけじゃねえぞ」
「ふふ、はい、分かっていますよ」
変わらず低い声で唸るようにして話す松平さんに、笑って返しながら、背を向ける。
今のは、今までのことへの、お礼です。
松平さんの下で働かせてくれたことへの、感謝の、気持ちです。
「――大丈夫」
――細い、木材で出来た船首の上に軽く乗り立った私は振り返らずに、微笑む。
「核は消します、絶対に」
そうしてまた軽く足場を蹴って、指定された船上へと、降り立った。
前に見えるドアを見つめて、足を踏み出す。
「――名前!」
すると後ろから万事屋一行の声が聞こえて、思わず足をとめて笑う。
ついに鎖を千切ったのか。
まったく、銀時達をつないでおける鎖はないものかねえ。
…ふふ、なさそうだな。
再び足を進める。
けれど後ろ、走ってくる足音に、振り返った。
「――…こっちへ来ちゃ駄目だよ」
微笑んで、言うと銀時達は目を見開き足を止める。
私は目を細めて、そうしてうつむくように顔の向きを前に戻すと、髪を靡かせて、歩きはじめた。
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