「サインなんかよりも、お前にもっといいものを与えてやろうか……名前」
次の目的地へと向かいながらそう話すヒルコさん、の中のサソリさん(ややこしい)に、私は目を輝かせる。
「おい待てよ、旦那。とりあえずオイラの芸術も名前に見せてから、」
「俺の傀儡としての、立場なんかはどうだ…」
「無視すんじゃねえ!うん!大体だから、傀儡にするよりも前に、おいらの芸術をこいつに…!」
「うるせえぞデイダラ…買い出しも遅刻するような奴が、口出してくんじゃねえ…!」
う…と言葉を詰まらせたデイダラさんを見て、そうしてサソリさんを見る。
「サソリさんの傀儡としての立場…ですか?」
「ああそうだ…俺は二百をこえる数の、人傀儡を持っていてな……俺の芸術に共感し、自ら俺の傀儡になることを望んだ奴らも、結構いるぜ……――お前はどうだ…?」
…サソリさんに惹かれ、自ら人傀儡になることを選んだ人も、世の中には居るんだ…。
…人によって、それぞれ幸せなんてものは違うから、それも一種の幸せ……けれど絶対に、望まずに人傀儡になってしまった人も、居る。
暁に染まった犯罪者
じっと見てくるサソリさんに、にっこりと笑った。
「私なんかをサソリさんの傀儡にしても、サソリさんには何の得もありません。だから、遠慮しておきます」
――…それに、私はまだここで死んでしまうわけにはいかないんだ…絶対に。
「…変わった奴だな、お前」
「確かにな、なんで暁にお前みたいなやつが……はっ、つうか旦那、コレクション勧誘、断られちまったな、うん」
「……」
「おわっ!いきなりかよ!」
サソリさんを真ん中にして歩いていたんだけれど、デイダラさんがヒルコの金属の尾から逃げて、私の隣に来る。
ヒルコの尾を見れば、先端から、紫色の液体がにじみ出ていた。
「まあこれで、お前においらの芸術をたっぷり教えることが出来るってわけだ、うん」
――野宿場所に着いた。
ヒルコの中から出で、メンテナンスをしているサソリさんの隣で、デイダラさんは私に、自分の手のひらを見せる。
その手に口があることにも、そしてその口から、粘土のようなものが吐き出されたのにも驚いて、目を丸くした。
デイダラさんが得意気に笑いながら、それをこねる。
――少ししてからデイダラさんの手が離れ、再び姿を見せた物体は――
「見ろ、この洗練されたラインに、二次元的なデフォルメを追求した造形……まさにアートだろ!うん!」
とても言葉にしづらい形容をしたものになっていた。
そんな物体を見ながら、同じく言葉には表せないような表情になってるだろう私を見て、サソリさんが笑う。
「残念だったなデイダラ、お前の芸術は、名前には共感されなかったらしいぞ…?」
「なっ…ど、どうだ?名前」
「す、すいません…とても、私には分からないレベルの芸術のようで…」
「はっ、共感されてないわけじゃなさそうだぜ、旦那」
サソリさんが鼻を鳴らして、再びメンテナンスに取りかかる。
するとデイダラさんが私の頭に手を乗せたかと思えば、ぐしゃぐしゃと撫で回した。
「どうだ?うん、お前もおいらの芸術に触れてみるか」
デイダラさんはそう言うと、もう片方の手のひらから再び粘土を吐き出す。
そしてそれを私の手のひらに乗せた。
「お前の芸術はどんなんだろうな、うん」
デイダラさんが楽しそうに、サソリさんがメンテナンスの手をとめないままに、私の手のうえの粘土を見てくる。
これはつまり……さっきのデイダラさんみたく、粘土をこねて、また新しい何か物体、――芸術をつくってみろ…ということなのかな…?
私は少し考えて、そうして手のひらの粘土をこねた。
――出来上がったものを見せたとき、林の中に、二人の笑い声が響いた。
110925