「っ…、つ、綱手の、ばあちゃん…、何、言ってんだってば、よ…」
「…真実だ。――カカシ!」
鋭い声で制すように呼ばれたカカシを、部屋の中の人々が振り返る。
そこには、今まさに部屋を飛び出そうとしていたカカシの姿があった。
「嘘か本当か、確かめに行くのは別に良い。…だが、名字名前の家に行っても、もうそこには誰も居ないぞ」
「……っ」
「どうしても行きたいのなら後で行け。何のためにこの人数を一度に集めたと思ってるんだ」
「……分かりました」
カカシは壁に背を預け、腕を組んだ。
顔に影が落ちていて、表情は分からない。
――綱手は各々の反応を見せる部屋の中を見回し、貫くように言葉を響かせる。
「名字名前が里を抜けたのは、うちはサスケが里抜けした夜と同じだ」
「な…何でッ!意味が分からねェッてばよ!綱手のばあちゃん!」
「落ち着けナルト!話が進まん!」
「これが落ち着いてられるかってばよ…!今すぐ追いかけねェと…!」
「無理だ!」
強く素早く否定した綱手に、ナルトが声を荒げる。
「この傷なら大丈夫だってばよ!動ける…!それに今からだって遅くはねェかもしれねェじゃんかよ!」
「そういう問題ではない!」
「っ!」
「――…いいか、名字名前の方が前々から里抜けを企んでいたと、私達は見ている」
動揺で言葉を発することが出来ていない面々に、綱手は続けて口を開く。
「第一発見者は木の葉の周りを見回っていた忍だが、幻術で眠らされていて見つかりにくい場所に隠されていてな…先程ようやく目を覚まし、名字名前が里を抜けたことが分かった」
「待って下さい、火影様!そんなに何日も眠らせるなんて幻術…あの子には…!」
そう言った紅を見て、綱手は頷く。
「うむ、そのことについては順を追って説明していく。――とにかく、その報告を受けて私は名字名前の家に忍をやった。…けどそこには、人なんてものは当たり前、家具も何もかもが無かったよ」
綱手は机の上に肘をついて、顔の前で指を組む。
「うちはサスケは、里抜けに手を貸した音忍が接触してきたその日に、里を出た。…対して名字名前は、日にちは同じでも、家具を全部消すなんて…どうやったのかは分からないが、一日で出来ることじゃあない」
綱手はフッと笑みを零す。
「しかし名字名前というのは用意周到な奴だな…。カーテンだけは、ちゃんと残してあったよ。外から見ても、分からないようにね」
――間が訪れる部屋の中。
「…何で…っ、意味、分かんねェってばよ…何で、…っ、何で名前が…っ」
「――そこだ」
机の上に肘をついたまま、綱手はナルトを指差した。
「言っちゃ悪いが、うちはサスケは危険性があった。…里抜けするまでとは思ってなかったけどね」
――けど、と綱手は言う。
「名字名前についてはそんな可能性、微塵も分からなかったんだよ。…まあこれは、話したことのない私より、アンタ達の方がよく分かってると思うけど」
「じゃあ何で……!」
「――誰かに、誘われたとしたら」
首を傾げる者や、眉を寄せる者が居る中、カカシが静かに綱手を見据えた。
「…第一発見の忍が見たのは、名前だけじゃなかったんですね」
「そうだ。異様な風体だからよく覚えていたよ。――名字名前は恐らく――」
――黒地に赤雲の模様が描かれた外套のようなものと、笠を渡される。
それに、指輪をチェーンに通したものも。
…私の指輪には、何も書かれていないんだね。
それに、指にするんじゃなく首にかける…。
確かに、この組織での私の位置は、少し変わったものになるからね。
「名字名前…、お前の居場所は、ここじゃねえ」
顔を上げると、同じ装束を身に纏った人達が、居た。
「自分でもちゃんと分かってるみてぇだが…、――お前の居場所はここじゃねえ。お前の居場所は我等の場所」
「いずれ迎えが来る。断った時は…、…ま、そんなことは無ぇか」
私は自分の腕に巻いていた額あてを取り、――刻まれた木の葉に、クナイで横一文字に封をした。
「ようこそ、――暁へ…」
110623.