――里を抜けることを、決めた。
大蛇丸のところへ行けば、力が手に入る。
アイツ――うちはイタチを倒す、殺す力が…!
アイツを殺すために今まで生きてきた。
そのためなら、里を抜けることなんて、――仲間と呼ばれるかもしれない奴らを裏切ることなんて、どうでもいい。
「みんなを守りたいっていう気持ちの方が大きかったんだ」「物心ついた時にはもう一人だったから」
ただ、アイツが…、…名前が、別に心配じゃねェが、…気になる。
アイツは…ひとりだ。
家族の存在すら分からねェ。
なのに自分のことなんて一つも考えないで、誰か違う奴のことばかり考えている。
「他人のことをお前が考えてんなら、…誰かがお前のこと考える必要あるだろ」
…自分でも、未練がましいことなんて分かってる。
それにこんな夜に来たって、会えねェことくらい。
里から出る道への途中、少し逸れた場所にある名前の家。
坂の下にあるアパートを、木の上から少し眺める。
「………………」
アイツ、これから生きていけんのかよ。
一般人ならまだしも、俺達は忍だ。
他人の事ばかり考えて、また庇って、……。
…けど、俺にはもう、関係、ない。
俺は、里を抜ける。
アイツが誰かを庇って怪我することも、もう、俺は――。
その場から立ち去ろうとしたその時――ガチャリ、名前の部屋のドアが開いた。
「っ…?!」
リュックを背負った名前が出てくる。
俺は思わずその場を蹴って、
「っ、お前…」
「――…サスケ…」
名前の前に、降りていた。
「…お前、何でこんな夜中に…、荷物まで持って」
すると名前はいつものように笑った。
「任務をね、頼まれたんだ」
「…任務?」
「うん、今の木の葉は人手が足りないから、簡単な任務なら私みたいな下忍にも下りてくるんだよ」
「…こんな夜中にか」
「遠い里まで行かなきゃいけないからね。朝に向こうに着く予定だよ」
「……そうか」
「――…サスケは?私と同じで任務?」
俺は眉を寄せ下げ、名前から視線を逸らした。
「……ああ」
「…そっか。お互い頑張ろうね」
「…ああ」
――…離れたく、ねェ…。
コイツが俺に背を向けて任務に行くのが、嫌だ。
俺がコイツに背を向けて離れていくことが、出来ねェ。
すると名前は眉を下げて笑った。
よく分からねェが、――初めて見るような笑顔だった。
「…サスケ、怪我とか、しないでね…?」
――何かを考えるより先に、身体が動いていた。
名前の腕を引き、俺の方にきた身体を抱きしめる。
「…サ、スケ……?」
「サスケ、自分の出番が終わるまで、そのアザ、気をつけてね」
「…フン、他人の心配してるようじゃヘマするぜ」
「……他人のことばっか、気にしてんじゃ、ねェよ…」
すると名前は少し笑って、
「また、言われちゃったね」
と言う。
――違う…。
違う……。
他人のことばかり考えてても、良いんだ…。
…その分、俺がお前を守るから…!
――離したくねェ。
連れていきたい。
「誰かの為に何かしたいと思えるような人達に、出逢えたんだ」
「ある男を必ず――……殺すことだ…」
――俺は少し目を伏せた。
ゆっくりと名前から離れる。
「…じゃあ、な。名前」
「…うん、ばいばい…」
綺麗に笑った名前に触れそうになる手を握りしめる。
名前に背を向けて、歩き出した。
――名前を闇に引きずりこむことは、出来ねェ。
俺は――復讐者だ。
110622.