ナルトもサスケも、そしてサクラも居なくなった病室で、私はひとり、立ちすくんでいた。
眉を寄せて、歯を食いしばり、手を握りしめる。
――なんで…なんで、辛さを越えなきゃ幸せはやって来てくれないんだろう…。
私が代われるのなら、いくらでも代わるのに…!
「誰しもみんなが幸せな世界が、見たい」
…駄目だ、目先のことに囚われたら…。
――幸せな結末の為に。
そう……幸せの為に。
私は病室を飛び出した。
ナルトとサスケのチャクラを辿り――と言っても戦っているからかすごい量の、そして暴れるようなチャクラの存在は簡単に分かった。
病院の屋上。
階段を上っていくと、ナルトとサスケはお互いの右手に技を溜めたまま上空に居て、ぶつけ合おうとしていた。
そしてそんな二人の間に、サクラが走り飛び込んでいっている。
――情景がスローモーションに見える。
ナルトとサスケが、サクラが間に飛び込んできているのを見て驚き、少し必死な表情に変わる。
私はその場を蹴り、サクラの腕を後ろから掴んだ。
引き寄せると同時に、視界に銀色の髪が見えた。
「――病院の上で何やってんの?ケンカにしちゃちょいやりすぎでしょーよ。君達」
ナルトとサスケの腕を掴んだカカシ先生はそのまま身体を回し、二人を違う給水タンクへと投げ飛ばした。
少し呆れたようなカカシ先生を見て、サクラを見る。
腕の中に居るサクラは私を見て目を見開くと、ぐしゃっと顔を歪ませた。
「ひっ…、名前〜…!」
ぎゅうっと抱きついてきて泣きじゃくるサクラ。
抱きしめ返して、ぽんぽんと背中を叩く。
「サクラ…ごめんね、サクラが身体を張って二人を止めようとすることは分かってたのに、遅れてしまって…」
「名前…名前〜…!」
すると床を軽く蹴る音が聞こえたので、場所を見る。
――サスケが去っていく姿が見えた。
「…………」
眉を寄せて、サスケがさっきまで居た場所を見ていると、ナルトが給水タンクから手を抜き出し、こっちに歩いてきた。
少し落ち着いたらしいサクラが私から離れる。
するとナルトが足を止めて、サクラを見た。
「サクラちゃん…、邪魔しないでくれってばよ…!!」
――次の瞬間、私はナルトの頬をぶっていた。
「っ…?!」
バシン!と乾いた音がした。
隣に居るサクラも、給水タンクの方に居るカカシ先生も、ぶたれた反動で横を向いているナルトも、驚いてるのが分かった。
「っ…、ナルトの…馬鹿!」
「……名前…」
「サクラがどんな気持ちで二人の間に入ったか分からないの…?!二人のチャクラの練り込まれた技を見ても、…見たからこそ、当たったら死ぬかもしれないのに飛び込んだ!――二人が大切だから、大事だから…!」
「……!」
「それなのに邪魔しないでなんて…!…邪魔しないでなんて、言わないで、ナルト…」
「…っ、……っ!」
ナルトは口を噛みしめると走り去っていった。
屋上のドアをバン!と閉める音が聞こえる。
私は眉を寄せ下げ、俯いた。
「…サクラ、ごめんね…」
「…え…?」
「でしゃばった真似して…、でも、抑えられなかった…」
「――…ううん、…ありがとう、名前…」
するとサクラの肩に手が置かれた。
「大丈夫。また直ぐいつもの二人に戻るさ」
「カカシ先生…」
――直ぐ、また直ぐに。
――私は歯を食いしばった。
そしてサクラを見る。
「…あの二人が、いくら、離れちゃっても…」
「名前…?」
「どんなに、溝が深くなっちゃっても…」
にこっ、笑った。
「絶対に、最後は元に戻るから…!絶対に、仲直りさせるよ!」
「――名前…」
うん…!と頷いたサクラの頬に、涙が一筋、流れた。
110621.