舞台上の観客 | ナノ
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――ふわり、と。
瞬身の術を使ったのか、一瞬で景色が変わって、柔らかい草の上に優しく下ろされた。

辺りを見回すと、少し離れた所に三人の姿がある。
少し考えてから気配を隠し、カカシ先生を見上げた。


「カカシ、先生…あの…」
「名前、」
「…はい、…?」
「名前に、約束して欲しいことがあるんだ」


少し首を傾げる。
するとカカシ先生は、


「もっと自分のことを大事にしろ、名前」
「――――……」
「もっと自分のことを考えて、自分の為に生きろ」



「自分のことは、どうでもいいのか?」
「…?何で、私が私のことを考えるんですか?」



脳裏に、ついさっきの会話が浮かぶ。


「…自分の、為に…」
「そうだ」
「っ、無理です、よ」
「…………」


だから何で、自分のことを考えなくちゃあいけないんだ!
私はみんなの物語を見ることが生き甲斐なんだ。
私は観客だ、役者じゃない。


「自分のことを考えなきゃいけない理由が分かりません…私はみんなが幸せなら、それで十分だから…」
「……それでも、だ。名前、約束」


すっと小指が出される。
それを少し見つめて、そしてカカシ先生を見上げる。

ん、と促すカカシ先生に、少し戸惑いつつも自分の小指を重ねる。


「ん、いいこ」


カカシ先生は目尻を下げて微笑んだ。
私の小指と自分の小指を絡ませて軽く振る。

それが何だか可愛くて、思わずふにゃっと笑み崩れた。


「……!」


すると何故か目を見開いたカカシ先生にガバッと抱き着かれた。
わしゃわしゃと頭を撫でられる。


「あ、の、先生」
「約束、約束ね、約束」
「は、は、い」


疑問符を飛ばしながらも頷くと、カカシ先生は離れてにっこりと笑う。


「じゃー戻ろうか」
「…!先生、…三人は…」


眉を下げると、カカシ先生の一見細い指が、三人が居る方向を指す。

そっちを見ると、そこには丸太に縛り付けられたナルトにご飯を食べさせてあげているサクラ、そしてサスケの姿。



「お前らは、この試験の答えをまるで理解していない」
「――チームワークだ」



ぱあっと笑顔になりカカシ先生を見上げると、カカシ先生ははあ、とため息をついて頭を掻いた。


「あーあ、名前、すっごい笑顔。…自分のことにもそう笑えるようになってね?」
「あ……」
「約束、したからね?」
「ぜ、善処します…」









「これにて演習終わり、全員合格!よォーしィ!第7班は明日より、任務開始だァ!」


チームワークを見せた三人にもカカシ先生は同様に合格を言い渡し、私達第七班は晴れて演習を通過した。

昼頃に説教した時とはうってかわって笑顔のカカシ先生。
大声で喜びを叫ぶナルト。
両手を上げて飛びはねながら喜ぶサクラ。
軽く笑いながらも嬉しそうなサスケ。

そんな四人を見て、私は自然と笑顔になった。


「――ナルト、」
「!あ、名前ちゃん!」


そうして夕暮れ時。
丸太に縛り付けられたナルトを放って帰って行くカカシ先生とサクラとサスケ。

それに少し笑いながら、縄をクナイで切った。


「あ、ありがとな!」
「ううん、気にしないで」
「い、今のことだけじゃなくてよ!演習中にも縄切ってくれたし、…あと、一緒にスズ取りに行こうって言ってくれたのに、ごめんだってばよ」
「だから、気にしないで?」


少し困ったように微笑めば、ナルトはへへっと鼻をかいて笑った。

演習場から出ようと二人で歩き始めて、


「でも、名前ちゃんすごいってばよ!俺らのこと…へへっ、何かスッゲェ考えてくれてるって感じで!」
「ああ、当たり前だよ」
「て、照れ臭いってばよ!俺も負けないようにしねェと!っつうことで、その〜…名前って呼んでいい?」


ナルトを見ると、夕日に照らされて少し赤みがさした金髪が目に入った。
そして少し照れ臭そうに、けれど笑って私を見ている。

私は笑って、もちろん、と言った。





110406.