カカシ先生の病室から出て、サスケが居る病室へと向かっている。
カカシ先生はもう退院するらしく、――というか今まで昏睡状態だったらしい。
じゃあイチャパラは今日買いに行けたのか、なんて思ったけれど、喜んでくれたから良かった。
ナルトが三忍の一人、綱手様を連れてきてくれたので、サスケももう目を覚ましているだろう。
「――ナルト…?」
「…あ、名前。ひ、久しぶりだってばよ」
するとナルトが、サスケの病室の前で眉を寄せてどこか悲しそうな顔で立っていた。
何か勘づいた私は、そうっとサスケの病室の中を覗く。
「うっうっ…サスケ君…!」
そこにはベッドの上で上体を起こし虚ろな目をしたサスケと、涙を流しながらサスケを抱きしめているサクラの姿があった。
「………………」
するとサスケがゆっくりとこっちを向いた。
目が合ったのか…よく、分からない。
焦点が合っていないから。
けれどサスケとサクラの感動のシーンを邪魔する訳にはいかないので、私は目を逸らし静かにドアを閉めた。
――ナルトを見る。
「…サスケ、目を覚ましたんだね」
「お、おう!まったく、手のかかる奴だってばよ!」
にこっ、笑う。
「ナルトが綱手様を連れてきてくれたおかげだね」
「…へ、へへっ、照れるってばよ!」
眩しい金色の髪に優しく手を乗せる。
柔らかく撫でた。
「ナルトには少し辛い光景かもしれないね…。でも今まで泣いて悲しんでいたサクラに、笑顔を取り戻させたのは、ナルトだよ」
「……お、う」
――好きな人の喜びの琴線が自分じゃない誰かにある。
けれどその喜びの土台には自分が居る。
…好きな人が笑顔なら、幸せならそれでいい、なんて辛いに決まってる。
そうなれなんて、言わない。
でもサクラに笑顔を取り戻させたのはナルト。
それは事実なんだよ。
「俺、俺だってサスケが目ェ覚ましてねェっていうのは心配してた。仲間なんだ!当たり前だってばよ」
「うん…」
「目が覚めて、ホッとしたってばよ。それに、サクラちゃんが喜ぶのだって、分かってた。…それでもやっぱり、ちょっと、モヤモヤしちまうってばよ…」
「うん…。でも、おかしいことじゃないよ、ナルト。だって――人間だから」
ナルトはすごく驚いたように目を見開いた。
そして直ぐに、笑った。
「っ、おう!」
――カラァアアアン!
するとサスケの病室から乾いた音が聞こえた。
ナルトを目を見合わせ、急いでドアを開ける。
「っ…ナ、ナルト…名前…」
サクラの言葉に、サスケが鋭い目でこっちを睨んだ。
床には、サクラがサスケの為に切っただろう林檎が散らばって落ちている。
「な、何だよ!そんなに睨むことねェだろ?」
「……おい、ナルト…――俺と今から、戦え…!」
サスケの言葉に私は目を見開き、グッと唇を噛んだ。
「や、病み上がりのくせに何言ってんだってばよ!」
「良いから――戦え…!」
悲しい結末は、嫌い。
悲しい結末は、嫌いだ。
「俺を助けたつもりか?五代目だか何だか知らねェが、…余計な事させやがって」
サクラが私を見て、名前…!と呼んでくる。
けれど私はサクラと目を合わすことは出来ない。
ただ自分の手を強く握りしめナルトとサスケを見ていた。
「…へっ!ちょうどいいってばよ!俺もお前と戦いたいと思ってたとこだ」
「ふ、二人ともやめよう?ね?」
けれどナルトとサスケはサクラの制止を聞かずに病室から出ていってしまった。
「――名前!二人を止めなくちゃ!」
「………………」
「――名前!…名前?」
サクラの呼びかけには、応えられない。
――悲しい結末は、嫌いだから。
――幸せな結末の為には、困難がない筈がないから。
「名前…(そうよね…いつも一番に私達のことを思ってくれている名前が、こんな状況、一番見たくないに決まってる…!)…私、行くわ!」
ぎゅうっと私の手を握りしめて、サクラは二人の後を追っていった。
110621.