舞台上の観客 | ナノ
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「#幼馴染」のBL小説を読む
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カカシ先生が傷を負った。
誰と戦ってそうなったのかは、聞いても誰も教えてくれなかったけれど。
病院で療養中のカカシ先生の元へ、今、私は来ている。


「大丈夫ですか?」
「うん、悪いね、来てくれちゃって…やっぱり名前は、優しい子だな」


にこっ、カカシ先生のお世辞に笑んで返す。


…きっとカカシ先生も、誰と戦ったのか聞いても、教えてくれないだろうな…。
まあ聞いたところで、どうこうする訳じゃないけれど…。
――そ、れ、よ、り!


自分のポーチから出した『あるもの』をカカシ先生の前へとおもむろに掲げる。


「な…、名前、それ…!」
「はい、イチャイチャパラダイスの特別版です!」


にこっ、笑うと、カカシ先生は震えながら私の手からその特別版を受け取った。
顔の中で唯一見られるのは片目だけなのに、感動してくれているのが分かる。


「療養って結構退屈かなと思って…、それにカカシ先生、外に出れないから限定発売の特別版を逃しちゃうかもしれないって思いまして…」
「…うん、どうしようかなってすごい悩んでた…」


放心状態のようなカカシ先生は手元のイチャイチャパラダイス特別版を見ながらそう言う。
私はにっこり笑って、なら良かったです、と言った。

するとカカシ先生がいきなり顔をバッと上げて、


「え…ねえ、待って、名前、これ買えたの?」
「…はい…。カカシ先生、イチャイチャパラダイスって…18禁だったんですね…」


俯くと、カカシ先生は何やら慌てて、あ、いや、あのね、なんて言葉にならないことを口にしている。


「…良いんです、誤魔化さなくて…。私だってもう、小さな子供じゃないですから…」
「あ、あの、名前…」
「そ、それでその、――どれくらいグロいんですか?」
「………………はい?」


まったく、騙されたよ!
18き…が何なのか迷っていた波の国の時の私に言ってやりたいね!
イチャイチャパラダイスは18禁だ、って。
けれど…だって思わないじゃないか。
イチャイチャパラダイスという題名でありながら、18禁であるほどグロいなんて。


「こ、怖い話やグロい話はあまり得意じゃないんですが、興味があって…」
「……うん、名前にはまだ早いよ」
「え…」
「それより、どうやって買ったの?これ」


カカシ先生の言葉に、ああ…と言って立ち上がると印を結んだ。



「変化!」
「なっ…」



――ボワン、と私の周りに白煙が起こる。
鎖骨下ら辺までの髪は腰の少し上ら辺まで伸び、目線も高くなる。


「こうやって買ったんです」


にっこり、笑う。
カカシ先生は目を丸くしていて、何だか面白い。


「……名前」
「…?はい」


すると、ちょいちょいと手招きをされて、カカシ先生の傍に立つ。


「………………」
「…?カカシ先生?」


じっと見てくるカカシ先生に首を傾げると、右手を握られた。



「――解!」
「わっ…」



ボワン、と再び起こる白煙。
髪は短くなり手足は縮み背丈は小さくなる。

白煙が収まって、にこにこしているカカシ先生を見た。


「そうか、名前は将来あんな風になるのか。見てたい気持ちもあるけど、まだ早いかな、色々と」
「…?色々、ですか…?」
「そ。心の準備とか、ね。…まあそれにあと数年したら見られるんだから」


――その言葉に、私はそっと目を伏せた。


「でも、悪いね。俺がこんなんだから、お前らの任務にもついてやれない。…他の班も任務中はつけないけど、終わった後に話は聞いてるらしいからね」


――伏せている目を、一瞬、強く閉じる。
そして目を開けると、にっこりと笑った。


「私は、先生が、カカシ先生で、良かったです」
「――……名前…」
「アスマ先生も、紅先生も、他の人達も素敵です。でも私は、カカシ先生の教え子になれて、部下になれて、嬉しかったって、そう思ってます」
「………………」
「私だけじゃない。ナルトも、サクラも、サスケも。思ってます。――先生が、カカシ先生で良かった」
「……名前、おいで」


カカシ先生が両腕を広げる。
私は薄く笑んで、カカシ先生の胸に身体を預けた。
優しく抱きしめられる。


――…泣きそう、だ…。


じわりと涙が浮かぶ。
けれど直ぐに目を伏せて、薄く笑んだ。


悲しい結末は、嫌い。
ハッピーエンドが、好き。



「誰しもみんなが幸せな世界が、見たい。そして微力でも、手助けが出来るならいくらでもする」



私の道は、決まってる。
自分で決めた。
自分自身で、決めたんだ。






110621.