舞台上の観客 | ナノ
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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -
落ちてくるクナイを避けて木々の中へと追い込まれた。
少し開けたこの場所からは、もうサスケは見えない。


「…カカシ先生…」
「や、名前」


片手を上げるカカシ先生。
私の少し先で足を止めた。


「聞いてたよ。サスケに、断られちゃったね」
「……はい」
「じゃあほら、どう?一人でかかってきたら?」


カカシ先生は両手を広げる。


「…いえ、私は一人では狙いに行きませんよ」
「…。なんで?」
「だって、私一人でカカシ先生からスズを取れるわけ無いです」
「取れるかもしれないよ?」


私は困ったように笑う。
何だかカカシ先生は、一人でスズを取らせたいみたいだ。


「万が一スズを取れても、私一人じゃ意味が無いです」
「…アイツらが一緒じゃないと、駄目なの?」
「一緒、っていうか…まあ、はい」


カカシ先生は、ふうん、と腕を組んで私を見る。
けれど如何せん片目しか見えないから、何を思っているのかなんて全然分からない。


「でも、四人で俺に向かって来てスズを取ったとしても、誰か一人は必ず落ちるよね?」
「はい」
「どうするの?」


首を傾げるカカシ先生に、私は思わず笑ってしまった。


「そんなの、私が落ちますよ」
「……!……当たり前のように、言うんだね。自分のことは、どうでもいいのか?」
「…?何で、私が私のことを考えるんですか?」
「…っ(この子は…何でこんな、自分のことを蔑ろにするんだ)」


自分は含まれていない。
当たり前、だよね?
だって、自分が、なんて。
……そ、想像出来ない。
みんなの恋、…うーん、まあ物語がどうなるかが、私の一番の楽しみなんだから。


「っ名前、」
ジリリリリリリ!!!


すると昼を告げる音が辺りに鳴り響いた。














「おーおー、腹の虫が鳴っとるねえ君達」


カカシ先生と一緒に、四つの丸太が立ってある場所に戻って来た。
サクラ、サスケ、そして何故かもうはや丸太に縛り付けられたナルトが居る。


…何でナルトはまた縛られているんだ…。
さっき解いたのに…。


内心で思いながら、私も三人の近くへと腰を下ろす。


「――ところで、この演習についてだが…ま、お前らは忍者アカデミーに戻る必要もないな」


カカシ先生の言葉に、度合いは違うけれど三人とも喜んでいる。
その様子を見て軽く頬を緩めると、カカシ先生から視線を感じてそっちを向いた。


「ただし…名前は別だ」


私は目を丸くした。
三人が少し驚きながら私を見ているのが分かる。


――……ああ、私の意志を汲み取ってくれたんだね…。
カカシ先生、ありがとう。
三人が受かるなら、私はもう、それでいい。


にこりと笑顔を作ると、カカシ先生は少し目を細めて、


「そうだ…名前以外三人共…――忍者をやめろ!!」


………………。
……………………は?


「っ忍者やめろってどういうことだよォ!?そりゃさ…そりゃさ確かに鈴取れなかったけど…っなんでやめろまで言われなくちゃなんねーんだよォ!?」


呆然とする私の耳に、ナルトの声が響いて。
ハッと戻って、慌ててカカシ先生を見た。

カカシ先生は冷たい目で三人を見下ろす。


「どいつもこいつも、忍者になる資格もねえガキだってことだよ」
「……っ!」


地を蹴る音がして、青い服が飛び出していく。
サスケがカカシ先生に飛びかかっていくのが分かった。

――そしてサスケは、一瞬で、カカシ先生に止められた。
抵抗出来ないように手を取られて、というかまずサスケの背中にカカシ先生が座った。
足をサスケの頭に乗せる。


「サスケ君を踏むなんて、駄目ぇーっ!!」


う、うお、びっくりした。
サ、サクラ、ちょっとだけ落ち着こう?な?
ていうか凄い顔だぞ、サクラ!
何て言うか…ひどい、ぞ?
確かにサクラにとって、サスケが踏まれるのは物凄く良くないことなのは分かるけど、もう少し顔を…。
ていうか今はそれより…――


「どういうことですか…カカシ先生」


少し厳しさを孕んだ声音が出たな、と自分で思った。
でも、仕方ない。
こんなの、私が望んだ状況と全く違うじゃないか…!


カカシ先生はちらりと私を見た。


「お前らは、この試験の答えをまるで理解していない」
「…答え…?」


そこでカカシ先生が一拍置く。


「――チームワークだ」


ざあっ、風が吹く。
サクラが身を乗り出した。


「ちょっと待って!なんで三個しかないのにチームワークなわけ?そんなんじゃチームワークどころか仲間割れよ!」
「当たり前だ。これはわざと仲間割れするように仕組んだ試験だ。この状況下でもなお自分の利害に関係無くチームワークを優先できる者を選抜する。それが目的だった」


カカシ先生の視線が私を捉える。

――ぐらり、目眩。
震える手で口元を覆う。


つまり…つまりそれって、自惚れじゃなく、私のことじゃないか…。
っ…。


「……たとえ…」
「…?」
「たとえそうだとしても、私だけが演習を通過することにはならない!結局チームプレーをした訳じゃあないし、私は先生に向かっていってもいない。っ、三人は向かっていった!一人でも、勇敢に、ぅあっ?」


目の前にカカシ先生が現れたかと思えば、ぐいっと抱き上げられて。
呆然とする私と、同じく呆然としている三人と目が合う。


「お前ら、最後にもう一度だけチャンスをやる。ただし昼からはもっと過酷なスズ取り合戦だ!挑戦したい奴だけ弁当を食え。ただしナルトには食わせるな!」


え?!とナルトが目を剥く。


「ルールを破って一人昼めし食おうとしたバツだ。もし食わせたりしたら、そいつをその時点で試験失格にする。――ここではオレがルールだ、分かったな」


そう凄んだカカシ先生の声が上から聞こえたかと思えば、その瞬間、景色が変わり始めた。





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