「名前!お前ってば…いつ戻って来たんだってばよ?!」
「ナルト、久しぶりだね。さっきだよ」
「っていうか色々言いたいことが名前にはあるんだってばよ!もー!」
…色々言いたいこと…?
はっ!もしやこの一ヶ月の間に何かあったのだろうか。
そういえばさっきサスケも様子がおかしかったな…。
「…………お前が、居なかっただろ」
サスケにしては訳が分からない嘘をついて誤魔化していたし、それほど動揺する何かがあったってことか…。
「分かった、後でたっぷりと聞くよ!」
「…?!お、おう?!」
とりあえず今は…――、
「我愛羅……」
我愛羅を、助けなきゃ。
「ナルト、事情は大体“視た”から分かってるよ。一先ず私に任せてくれないかな」
「…!名前だけじゃ無理だってばよ!」
「うん、ただ、一瞬なら私にも止められるんだ」
尾獣の影響が出ている我愛羅を見て、目を細める。
「一瞬じゃ何にも…!」
声を荒げたナルトを見て、にっこりと笑った。
「一瞬あれば、我愛羅に近づける」
もう既に我愛羅は見えないと言っても、間違いじゃない。
尾獣――我愛羅の中に封印された一尾が出てきている。
今立っている木を蹴った。
そして木々を飛び移りながら印を結ぶ。
「響遁 重音の壁」
一尾の砂の尻尾やらが振動する音が聞こえてきて、次の瞬間それらはパンッと弾けて無くなった。
それにより、中に居た我愛羅の姿が現れる。
我愛羅の瞳は鋭くて、動物的で、殺気に満ち溢れていて。
でも、瞳の真ん中の一番奥には悲しみが見える。
深くて、暗い悲しみ。
あの時、昔、初めの頃に見せていた悲しみと、何も変わらない。
さらさら、なんて静かなものじゃないけれど、少し砂が戻り始めた。
やっぱり私の術なんかじゃ、そうはもたない。
…でも――、
「我愛羅……」
ほらね、一瞬あれば、我愛羅に届いた…。
我愛羅の首に手を回して、ぎゅうっと抱き締める。
そして――そして私は、静かに瞼を下ろした。
「名前っ!!!」
――ドン!と体に衝撃を感じて、口から息が漏れる。
我愛羅の首へと回した手は、力が抜けてだらりと落ちる。
我愛羅に寄りかかるようになってしまい、起き上がろうと思った。
けれど力が入らない。
「げほっ…」
口の中が血の味がする。
ぽたっ…と、我愛羅の肩に血が落ちて、ああ、ごめんね、なんて思う。
視界には、我愛羅の背中から再び現れた一尾の尻尾。
肩に手が置かれて、ゆっくりと我愛羅から離される。
力が抜けて俯いた視界には、自分の腹に刺さった砂の一部が見えた。
「……名前……」
震えた声で、我愛羅に名前を呼ばれる。
顔を上げたいのに、どうにも上げられない。
「…ガ、…ぁら…」
酷く掠れた声で名前を呼ぶと、頬に手が添えられた。
ゆっくりと上に向けられる。
「…っ……、っ…」
瞳を揺らして、唇を震わせて、動転した様子の我愛羅。
私は少しずつ、ぎこちなく、笑顔を作った。
「ひ、どい…な、ぁ…忘れちゃった、の゛…?」
我愛羅、我愛羅――。
「が、らは…ひどり、じゃ…ない、よ…?」
我愛羅が目を見開いた。
「わ、たしで、いいなら…わだ、しが、…げほっ!…っ、いっしょに、居るか、ら…」
――パンッと音が聞こえて、私の腹の中にあった異物感が消え去る。
支えを無くした身体はぐらりと傾き、我愛羅の手からすり抜け、私は宙へと落ちていった。
110514.