――その日は、とつぜんやって来た。
「我愛羅…あのね、わたし…今日中にこの里を出ることになったんだ」
びっくりして、息をのんだ。
ぶるぶるってふるえたまま、名前を見つめる。
「な…なん、で…?」
「…わたしにも、りゆうは分からないんだけどね…この里のいちばんえらい人に、出ていくように言われちゃって」
しかいがグラついて、体がさあってさめた。
この里の、いちばんえらい人…かぜかげ。
――ぼくの、お父さま…。
な、なんでお父さまが名前をこの里からおいだすの?
名前はなんにも、悪いことだってしてないし、……!
――…ぼくと、いっしょに居るから…?
「でも、砂がくれの里にもわたしのかぞくは居ないみたいだし、もうそろそろちがう国に行くよていだったの」
ふるえながら、名前を見る。
名前はじめんを見ながら、まゆを下げて笑った。
「ただ、我愛羅と居られなくなるのが、やだ…な」
「っ…名前、名前…!」
「見たかったなあ…我愛羅のこれから…。きっと我愛羅、すごくかっこよくなる気がするんだ」
名前がぼくを見る。
いつもと同じえがおなはずなのに、なんだか、ちがって見えた。
――かなしそうに、見えた。
「…もう行かなきゃ」
また名前が笑って、そしてぼくにせを向ける。
そのとき、また心臓がいたくなった。
さいきんは感じてなかった、あのいたみ…。
あわてて走って、名前のうでをつかむ。
「っ…い…、…」
いやだ…!いやだよ…!
「…我愛羅…」
っ…そう言いたいけど、…言えないよ…!
だって名前をおいだすのは、けっきょくはぼくだから…!
「…我愛羅、わたしたちは、はなれてても、ひとりじゃないよ」
「…っ…名前…!」
「わたしには我愛羅が居て、我愛羅にはわたしが居る。だからどこに居ても、わたしたちはひとりじゃないよ」
にこっ、名前は笑うけど、…ぼくは手をはなせなかった。
だって、手をはなしたら、空っぽになっちゃう気がするんだ…。
名前を見つめたら、その先に広がってる、終わりの見えないさばく。
心臓がぎゅうってなって、名前のことが、不安になる。
名前は、これからここを、ひとりで歩いてくんだ…。
「わたしたちはひとりじゃないよ」
――ち、がう…!
ちがう…!
名前はひとりじゃ、ない!
だってぼくが、…ぼくがいっしょに、居るから…!
――名前のうでを、ゆっくり、はなした。
「…じゃあ、行くね」
「っ…、〜っ…」
前を向いた名前は、少し目を細めて「…見つかるかなあ…」ぽつりって、つぶやいた。
――なんだか、名前は消えちゃいそうだった。
さわって、たしかめたかったけど、…そうしたら、はなせなくなりそうで…。
「名前…!」
だから、名前をよんだ。
ふりかえった名前に、ぼくは笑う。
「名前が大きくなって、ぼくも、大きくなって…そのときにまだ…み、見つかってなかったら…――ぼ、ぼくでいいなら、ぼくが名前のかぞくになるよ…!」
名前のえがおで、ぼくはいつも安心できたから。
110513.