名字、名前。
名前、名前。
――名前。
ほっぺが、ゆるむ。
心臓は、いたくなくて、なんていうかドキドキしてて、あったかいっていうか…よく、分からないんだけど…。
公園が見えてきて、名前のすがたが見えたとき、思わず笑顔になった。
夢じゃないかなって、ずっとちょっと、不安だったんだ。
「っ、名前!」
名前。名前。
それだけですごくステキなものみたいで、ことばにする度に、ドキドキする。
振り返った名前は――、
「…我愛羅…」
かおを、くもらせてた。
「……名前…?」
「…我愛羅…。ごめんね、わたし…」
「え…ど、どうしたの?」
「…さっき、この里の、我愛羅と同じくらいの子たちに会って…」
――どく、ん…!
また体が、さあって、つめたくなった。
心臓がうるさくて、いたい。
なにを言うのか、分かった。
名前がなにを言われて、どう答えを出したか…。
「わたし、知らなかった…」
さらさら、砂が出てくる音が聞こえてくる。
「ほ、ほんとごめんね。わたしなんかが我愛羅に話しかけるなんて、おこまが…おこがましかったんだね」
「………………え…?」
砂の音が、止んだ。
「い、いや、なんとなく分かってたんだよ?我愛羅かわいいから、…うん。ほんとに、ごめんね」
「え…ま、待って…!名前、えっと…その人たちに、なに…言われたの…?」
「……我愛羅には近づくな、って…」
ず、くん。
…分かってたことだけど、やっぱり、また痛いや…。
…けど、名前…なんか勘違いしてる気がする…。
「わたしなんかが、我愛羅と話していいわけないよね!」
「ち、ちがうよ!わたしなんかって…名前は…、そ、そんな言い方されるような人じゃ、ないよ…。ただぼくが、理由は分かんないけど、みんなにきらわれてるから…」
自分で言っていきながら、だんだん心臓らへんがいたくなってきて、下を向いた。
「…かなしいね、みんなの本当の思いは伝わってない…。だからツンデレってややこしいな!」
「…つ、つんでれ…?」
聞いたことがない、ことば。
少し首をかしげたら、名前はベンチに座って、ぼくを手招きした。
歩いていって、名前のとなりに座る前に、ちょっとだけ、思い出したようにびっくりした。
こんな風にだれかのとなりに座るのって…。
座ってから、ちょっと不安になったけど、名前はなにも思ってないみたいだった。
「あのね、我愛羅。ツンデレっていうのは、好きな人の前とかでツンツンしちゃうことなんだって」
「…う、うん…?」
「でもたまに見せるデレが、たまんないんだって!」
…つまり名前は、里の人たちは…その、ツンデレだって言ってるのかな…。
「ちがうと、思う…」
「…そこがツンデレの危ういとこなんだよねえ」
「………………」
しんみょうな顔でため息をつく名前。
「ね、ねえ、名前」
「ん?」
「あ…あのね、…ぼく、名前と、はなれたくないっていうか…話せなくなるの、い、いやなんだ…!」
「え…」
「おねがい…!ぼくから、はなれないで…!」
「――――……」
「はっ…はあっ……」
「…我愛羅…」
わたしでいいの…?
そうやって聞いてきた名前が、何を思ってそう言ったのかは分かんなかった。
けど、ぼくの答えは一つだけで、あわてて口をひらく。
「名前がいいんだ!」
「…分かった。ありがとう、我愛羅」
「…!じゃ、じゃあ、ぼくといっしょにいてくれるの…?!」
「うん。我愛羅がいいって言ってくれたから」
にこっと笑う名前。
うれしくて、すごくうれしくて、顔がゆるむ。
かってに笑っちゃう。
――…あ…そっか…。
今までぼくは、だれかと同じきもちになったことなんて無かった。
みんなが笑ってても、ぼくは笑えなかった。
けど今、ぼくと名前は、えがおなんだ。
110512.