舞台上の観客 | ナノ
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「#寸止め」のBL小説を読む
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サスケが手を振りかぶる。
だが高濃度のチャクラが集中したその手が届く前に、名前ははっとして振り返ると、仕切り台を飛び越え、暖簾で仕切られていたさらに奥の部屋へと駆けていった。


「この野郎、やっぱり疫病神じゃねえか!」


走りざま、そう声を上げる仲介人の男を殴りつけて気絶させたサスケは、そのまま名前の後を追い、そうして予想に反して続いていた廊下に、僅かに目を開いた。
外から見たかぎりではここは廃墟の一角で、そしてこの部屋は一番端だと認識していたが、さらにそこから先があったのだ。
どうやらひどく入り組んだ造りになっているらしい。
進む廊下の左右には、いくつかの部屋が点在していた。
まっすぐに駆けていく名前を追いかけ、サスケもまた駆けていく。
廊下の先に、光が見えた。
名前の影が光に呑まれ、見えなくなる。
進む足を速め、その部屋に飛び込んだサスケは、右上部から振り下ろされる気配を感じて咄嗟に地面を蹴った。


「次から次へと、いったい何だぁ?」


体躯のいい大男が振り下ろした斧が、地面を削り破壊した。
見覚えのある顔に、サスケは微かに眉を顰める。
そうだ、確かビンゴブックに載っていた。
どこだかの小さな集落を襲った二級の犯罪者。


男の攻撃をかわしながら、サスケは開けた室内に視線を走らせた。
追ってきた対象である名前は、やってしまった、というような顔をして別の男たちと対戦している。
出入り口をサスケに塞がれていたため、その横を通ることは厳しいだろうと判断して、ひとまず奥へ逃げ込んだといったところだろうか。
名前の表情からしても、名前を排そうとしている連中からしても、名前がここのことを知っていたとは考えにくい。


(まあ、いい)


いまはまず、邪魔者を先に排除する──そう、サスケが考えたときだった。
か細い女性の悲鳴が聞こえて、サスケと名前はそちらへ視線を向けた。
見れば部屋の奥隅に、薄汚い牢があった。
そしてその中には四、五人の女性の姿がある。
皆恐怖に縮こまり、身を寄せ合うようにしてうずくまっている。
サスケは、名前が眉根を寄せるのを見た。


「くそ、こいつ──おい、てめえら! 来い!」


サスケが対峙していた男が苛立たしそうに舌を打つと、手下であろう周囲の面々を呼んだ。


「雑魚が何人増えたところで、結果は同じだ」


そうサスケが告げたときだった。
今度ははっきりと女性の悲鳴が聞こえた。
振り返れば、別の手下たちが牢から彼女たちを引きずり出している。
サスケらを女性たちの救出に来た者たちだと思っているのか、どうやら彼女たちを人質に使おうとしているらしい。
男たちは、縄に繋がれた彼女たちをこちらへ無理矢理引っ張ってきている。


片を付けてしまおうと、サスケが千鳥の印を結ぶ。
発せられる千鳥の囀りのような音と、目に見える雷遁に、周囲の面々がどよめいた。
サスケは手下どもを巻き込み倒しながら、頭領の男目掛けて一路駆ける。


するとそのとき、女性のうちの一人が、隙をついて逃げ出した。
だがパニック状態に陥っているのか、こちらは更なる混戦の最中だというのに、走ってくる足は止まらない。
頭領の男はにやりと歪んだ笑みを浮かべると、女性が走ってくる方向へ向けて踵を返した。
そして彼女の首元を掴むと引き寄せ、自分と位置を入れ替えると、サスケの前に放り出すようにする。


──そのときサスケは、飛び込んでくる琥珀色を見た。
名前の手が、女性のことを突き飛ばす。


──頭を殴りつけられるような衝撃が、サスケを襲った。
視界が乱れて、ノイズがした。
何らかの映像が脳裏をよぎった気もしたが、いかんせん乱れていて分からない。


すると千鳥を纏った右腕に、生温かいものがかかって、得体の知れない焦燥感に襲われていたサスケは我に返って──瞠目した。
その右手は、名前の胸に深々と突き刺さっていた。


サスケは自身の視界が歪んでいることに気がついた。
まるでオビトが時空間から現れ、あるいは消えるときのように、空間が渦巻いている。
ひどい目眩がして、耳鳴りがした──誰かの声が聞こえる。
吐き気がして、頭痛がした。
足下が、瓦解していく感覚がする。


「──!!」


あまりの衝撃に強く目を瞑ったサスケは、すると自身を襲っていた不快感が跡形もなく消え去ったことに気づき、はっとして顔を上げた。
そして呆気に取られる。
状況を呑み込めない。
──そこはサスケが朝目覚めた宿の一室だったのだ。
どうやら布団に寝ていたところ、飛び起きたらしい。


「俺は──」


無意識のうちにそう呟くと、サスケははっとして自分の掌に目を向けた。
だが宿で出された寝着から出る腕は、どこも血濡れてなどいない。


(あの感覚は、確かに・・・・・・)


しかし掌に残る温かさと感触はあまりに生々しい。
サスケは眉を顰めると、額に手を当てた。


「・・・・・・」


普通で考えれば夢なのだろうと思う。
だが疑問を抱いてしまうほど、見た光景、体験したものは鮮明だった。


サスケは釈然としないものを抱えたまま、予定よりも早く身支度を整えると、部屋を出た。


「もう行くのかい」
「ああ。昨晩は世話になった」


宿主である老人からの言葉にそう返し、宿代を支払うと、サスケは目的地である、裏社会への仲介場所となっているという廃墟へと向かい木々を駆け抜けた。
場所は火の国の端に位置する辺境の地だ。
昨日、木ノ葉隠れの里を出てから、ちょうど中間地点ともいえる先ほどの宿で一泊したのだ。
目的は、先日出会った妙な女──名前の情報を得るため。


「あんた、本当にそうした組織への加入が目的だよね?どこかの里のスパイとかじゃあないよね?」
「勿論ですよ。いくら調べても、私がどこかの里に属していた記録など出てこなかったはずですよ」
「まあ、そうなんだけどさ。あんたに紹介した組織が片っ端から潰れていくもんだから……あんた、相当な疫病神なんじゃないかい?」



夢──と、枝を蹴るとサスケは一人呟く。
あれは全て夢だったのだろうか。
名前が言っていたことも、廃墟の中で起こったことも──サスケの手が名前の体を貫いていたことも、全て。
だが向かう道中の光景は、どれも見覚えがあるものばかりだ。


奇妙な心地を覚えながら、日が沈んだ頃、サスケは目的の廃墟へと着いた。
やはりその外観も、内装も、夢に見たとおりのもの。


(予知夢でも見たっていうのか)


理解に苦しむ現象が起きていることが僅かに苛立たしく、サスケはため息を吐きながら目当ての部屋へと向かった。
──だがここで、ようやく見た夢とは違うことが起きた。
サスケは部屋の前まで着くと気配を消し、扉の脇から中の様子を窺ったのだが──夢の中では仲介人である男と話していたはずの名前がいないのだ。
仕切り台の奥、椅子に腰掛け台に両足を乗せた男は、暇そうに雑誌を捲っている。


サスケは廊下の窓から外を見た。
覗く月の高さから読み取れる現在の時刻は、夢で見たそれよりもいくらか早い。
確かにサスケは今朝、予定していた時刻よりも早く宿を出た。


(馬鹿馬鹿しい)


サスケは心中でそう吐き捨てながらも、一度その場を離れると、近くの曲がり角へ身を潜め、そのときを待った。
だが、夢で見た時刻となっても、名前は姿を現さず、さらに少しだけ待ってみても状況は変わらない。
サスケは舌を打つと、ずかずかと歩き、仲介場所へと突入した。


「らっしゃい」
「琥珀色の目と髪をした女の情報を寄越せ」


サスケのことを客だと思っていたらしい男は、その言葉に椅子から転げ落ちた。
がたがたと床で騒ぎながら何とか体を起こすと、恐る恐るサスケを見上げる。


「こ、琥珀色の目と髪をした女、って」
「知ってるだろう。もう何度か、裏の組織への加入を斡旋したはずだ」
「ああもう、疫病神か何かかよ、あの女!」


男は夢で見たときと似たようなことを言う。
サスケは、ついと部屋の奥へ目を向けると、


「それから、奥にいる連中の情報もだ」
「げっ! そ、そこまで知ってんのかよ」


かまをかければ、仲介人の男はそう言った。
やはり夢で見たのと同じことが起きているらしい。
名前のことを除けば、だが。


するとそのそき、視界が歪んで、サスケははっとした。
おい──という不思議そうな男の声が、歪みに呑み込まれていくように捻れる。
サスケは周囲を見回した。
室内も、男も、すべてが伸び、渦巻いていく。


「なんだ、これは──」


渦の中心に呑み込まれるような感覚に、サスケは咄嗟に顔の前で手を交差させた。
眉根を寄せながら見る渦の中心、サスケが今日辿ってきた道々の光景が映ったように思えた。


そして次の瞬間、サスケは再び、宿の一室にいた。


「──!!」


サスケははっとすると、自分の体を見回す。
宿で出された寝着を身に纏い、床に敷かれた布団の上にいる。
サスケは立ち上がると窓の内障子を開けた。
差し込む陽射しに思わず目を細める。
太陽がある方角は、東だ。


サスケは踵を返すと、格好はそのままに部屋を飛び出した。
階段を下りていけば、玄関に繋がる広間で生けた花の世話していた宿主が、驚いたようにしてサスケを見る。


「おや、あんたいったいどうした──」
「今日は何日だ。日付は」


急いたサスケの様子に呆気に取られながらも老人は、ええと、と言いながら傍の壁にかけていた日めくりのカレンダーを確認する。
同じくそれを見たサスケは、そこにあった日付に瞠目した。
──日だね、と言う老人の言葉を、どこか遠くで聞く。
サスケは困惑した様子で自身の掌に視線を落とすと、信じられない思いで呟いた。


「時間が──巻き戻ってるのか・・・・・・?」



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