舞台上の観客 | ナノ
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「はい、どうぞ」


そう言って、カカシ先生は目を閉じる。
私は、はい、と拳を握りしめると、カカシ先生に顔を寄せて、しかしすぐに離れると胸元を押さえた。


(だ、駄目だ、どきどきする・・・・・・!)


カカシ先生と休暇が久しぶりに合った日の昼間のことだった。
家の中、ソファの上に並んで腰掛けて、淹れた紅茶を飲みながらお互いの近況を話していたのだが、カップをソーサーに置いたところで抱き寄せられた。
カカシ先生の脚の間に座る形にさせられれば、必然的に距離も縮まって、顔に熱が上るのが分かる。


「・・・・・・可愛い」
「あの・・・・・・」
「いつまで経っても、顔赤くしちゃうね」


私は、うう、と小さく俯いた。


「名前、特訓、する?」


私は、はっと顔を上げた。


「いいんですか?」


聞くと先生は、うん、とにこりと笑ってくれた。
そして、どうぞと言うと目を瞑ってくれたのだ。


特訓とはつまり、私からカカシ先生に、キ、キスとか、そういうことを、することである。
いつまで経っても慣れない私のため、以前カカシ先生が提案してくれたのだ。


私は深呼吸した。
決意を新たにすると、カカシ先生の額にそっと口付ける。
そして次は、頬に。
先生は瞼を上げると、目を細めた。


「うんうん、いい調子」
「は、はい・・・・・・!」
「それじゃあ、次だね」
「は、はい・・・・・・」


褒めてもらえて上がった気分が、しかしすぐに次の壁を打ち立てられて、ぐっと行き詰まる。
カカシ先生は可笑しそうにくすくすと笑うと、はい、と言って目を閉じた。
私は先生の頬を両手で包むと、しかし踏ん切りがつかなくて思い悩む。
どうにか鼓動を少しでも抑えられないかと焦っていれば、先生はぱちりと目を開けた。


「まだ?」
「わっ!」


思わず驚けば、先生はまた笑う。
そして私の頬を撫でた。


「緊張する?」
「その・・・・・・」
「いつももっとすごいことしてるのに?」
「──!」


私はぼんと顔を赤くさせた。
可愛い、とくすりと笑った先生が、私のことを胸元に抱き寄せる。
されるがままになりながら、私は先生の胸元に熱くなった顔をくっつけた。
カカシ先生はぽんぽんと背中を撫でてくれると、やがて言った。


「教えてあげる、名前」
「え──」
「こうするんだよ」


優しく頬を上げられると重なった唇に、目を開いた。
啄むようにされるそれに、体の力が抜けていく。


「ほら・・・・・・分かる、名前・・・・・・?」


口付けの合間、そう聞かれるが、甘いそれに思考は蕩けていくばかりだ。
やがて柔らかいリップ音と共に離れた先生に、私は言った。


「すみません、あの・・・・・・あまり、分かりませんでした」


するとカカシ先生は噴き出すようにして笑った。
そのまま肩を震わせて笑う先生に、ぽかんとしながら再度謝れば、頭を撫でられる。


「ううん、いいんだよ。何度だって、教えてあげるからね」


言うと先生は、また私のことを抱きしめた。
ぎゅうと抱きすくめると、息を吐く。


「はー・・・・・・落ち着く」
「・・・・・・はい」
「大好きだよ、名前」
「わ──私も、です」
「うん。・・・・・・はぁ、このまま離したくないな。名前、俺の腕の中にずっといない?」
「ずっと、ですか」
「うん。今日これからと、明日明後日でしょ、それから、それ以降もずっと」


私はくすくすと笑う。


「今日なら、あの、いくらでも」
「明日からは?」
「任務に行けなくなっちゃいます」
「あーあ、俺もついて行っちゃおうかな」


私はさらに笑った。


「火影が出てきたら依頼主の方々がびっくりしちゃいますよ」
「だよね。まあでも、実は俺自身は、行ったことがあるんだよね」
「えっ、邯の国に?そうだったんですか?」
「うん、国主の警護の任務だったかな。今回みたいな式典とかじゃなくて、国境を越える道中の警護だったんだけど、大したことは何も起こらなかったな。あえて言うなら、皇女がお転婆な女の子でね。小さい頃のナルトに似てたかな」
「そうなんですか。一人娘がいると資料に書いてましたけど、それじゃあ成長したその子に会えるんですね」
「ま、とは言っても、それもせいぜい五年前のことだから、まだまだお転婆盛りだと思うよ」


言ってカカシ先生は、少しだけ口を閉ざしていた。
やがて、呟くように言う。


「・・・・・・気をつけてね」


私は、はい、と言うと、カカシ先生の胸元の服を握った。


先生が過去あたった任務のときは何も起こらなかったようだし、今回私が参加するそれも、内容は式典の警護のみであり、何も起こらない予定だ。
だが依頼主──邯の国の国主は高値の依頼金を積んできた。
式典に乗じて、不穏なことが──クーデターが起きるかもしれないから、と。


「明日、お見送りさせてね」
「でも、朝早いですよ」
「いいよ。俺に、いってらっしゃい、って、言わせてくれるでしょ、名前?」


私は笑うと、カカシ先生を見上げた。


「はい、言ってほしいです、先生」
「うんうん、いい返事」


先生は満足そうに頷くと、そして目を細めた。
すっと顔を寄せると、囁く。


「・・・・・・今日はあんまり、無理させないようにするから」
「──!」


意味が分かって、私はまた顔を赤くさせる。
あの、とか、えっと、なんてしどろもどろになる私に、カカシ先生は優しく笑うと、ちらりと唇を舐めてきた。
びっくりして思わず固まれば、唇を重ねられる。
思考も言葉も纏まらないまま、私は結局再び、蕩けていってしまった。











「ふーんふーんふ〜ん」


機嫌良さそうに鼻歌を歌いながら歩くナルトに、サクラが苦笑混じりに言った。


「もう、いつまでそうしてるのよ。もうすぐ着くわよ」
「だってさ、だってさ、カカシ班の面子がこうも揃う任務なんて、久しぶりだろ?やっぱ懐かしいし、嬉しいってばよ」


木ノ葉を出発し、火の国を出て、昨日邯の国に入ったところだった。
道中、ナルトはずっと機嫌良さそうで、不意に私たちのことを見てはにんまりと笑っている。
サクラは仕方のない子供にするように笑った。
青空を見上げて目を細めると、体を伸ばす。


「でも、やっぱり外の任務は気持ちいいわね。昔は、あんまり遠出の任務ってなると、気が進まなかったんだけど」
「そうだったの?」
「だって聞いてよ、名前。野宿が基本だったっていうのに、ナルトもサイも、デリカシーなんてあったものじゃなかったのよ」
「そりゃあ、か弱い女性ならともかく、サクラ相手にデリカシーなんて──ぐはぁっ」


にこりと笑んで言っていたサイの言葉が、腹に叩き込まれた拳によって途切れる。


「サイ、お前ってばいったいいつになったら学習するんだってばよ・・・・・・」


ナルトが呆れたように言いながら、サイの背中を叩いている。
サクラは私に向かって笑いかけた。


「だから名前がいてくれて本当によかった。道中、やっぱり実感するのよね。男共じゃ気づかないところに気を配ってくれる、っていうか」


サクラとサイとを見比べていた私は、掛けられた嬉しい言葉ににっこり笑う。


「何か役に立てていたなら、よかった。私も、もちろん任務はしっかり取り組まなきゃだけど、特にサクラと一緒の任務に就くのは久しぶりだから楽しいな」


言えばサクラは軽やかな笑い声を上げて腕を組んできた。


「サクラは今は専ら病院勤務だもんね。心療室の方も、どう?」
「大変なこともあるけど、やりがいがあるわ。子供たちも可愛いし」
「それじゃあやっぱり、邯の国のお姫様の相手は、サクラちゃんがするのがいいのかな」


追いついてきたナルトが言った。
今回の任務の護衛対象は三人いる。
国王と王妃、そしてその一人娘であるお姫様だ。
サイには上空からや、方々に散らせた術の動物により全方位に気を配ってもらい、残る三人がそれぞれ一人ずつ護衛につく。
もちろん最終的な決定権は依頼主にあるのだけれど、性別のこと、また大戦の英雄となり名を轟かせたナルトは国王につくのがいいのではないかということで意見は一致していた。


「一国のお姫様だもんね。やっぱりお淑やかなのかしら」
「ああ、それが、結構お転婆な方みたいだよ」
「えっ、名前知ってるの?」


目を丸くさせる皆にカカシ先生から聞いた話を伝えれば、ナルトとサクラが揃って、へえと声を上げる。
するとサクラが楽しそうに目を輝かせながら、


「カカシ先生と言えば・・・・・・ねえ名前、式のことはもう考えてるの?」
「式?──式典のこと?」
「もう、そうじゃなくて、カカシ先生と名前の結婚式のことよ」


思いも寄らなかった言葉にきょとんとすれば、サクラは小さく肩を竦めてみせた。


「なんだ、その様子じゃまだ先なのね」
「先っていうか、しないんじゃないかな」
「えっ!?」


驚く声は、ナルトとサクラの二人からだ。
見ればサイも、驚いたように目を丸くさせている。
三人の驚きようにこちらが瞬けば、サクラが両肩を掴んできた。


「嘘よね名前、どうして!?」
「え、えっと、カカシ先生は忙しいし、火影の結婚式ともなれば色々大事かなと」


その気迫に圧されるようにして話せば、横からナルトが聞いてきた。


「それってば、カカシ先生と名前、二人の総意なのかってばよ!」
「あ、いや、カカシ先生とはまだこの件について話し合ったことはないけど」


言えば二人はこれまた揃って、息を吐きながら体の力を抜いた。


「なんだ、そういうこと・・・・・・」
「焦ったってばよ・・・・・・」


瞬いていれば、サイがにこりと笑って言った。


「僕たち皆、カカシ先生と名前の晴れ姿を見たいんだよ」
「そうなの?」
「そうよ!何があったって絶対行くから、必ず呼んでね、名前」
「あの、そうなったときは、もちろん」


ぽかんとしたまま答えて、そして私ははにかむように笑った。


「それじゃあ今度、カカシ先生に聞いてみようかな」
「ああ。まあ、カカシ先生が一番乗り気だろうけどな。名前の着飾った姿を一番見たいのは、カカシ先生なんだからよ。式は挙げないと思ってる、なんて言ったら先生、拗ねちまうってばよ、絶対」


ナルトの言うとおりだ、とでもいうように頷くサクラとサイに、私は赤くなった頬を掻いて、そうかな、と言った。


──それからさらに三十分程歩いたころ、赤い石造りの壁が見えた。
私たちの背丈の二倍程はあるその壁の中央、開かれた門から覗く邯の国の首都に、私たちは感嘆の声を漏らした。


「すげえ活気がある街だってばよ」
「本当ね。これまで通ってきた村々とは違うわ」


サクラの言うとおり、国境を越え、邯の国に入ったばかりのところにあった村は、いかにも寂しく、田畑も荒れていた。
首都に近付くにつれ人も増え、活気も帯びてきたけれど、首都はいっそうそれが顕著だ。
検問を過ぎ、壁内に入れば、家々の色とりどりな屋根がまず目に入るが、それを上回るほどの賑わいに意識が移る。
大通りにはこれまた目に鮮やかな屋台が並び、生彩に富んだ顔をした人々が行き交っていた。
宮殿を目指し歩みを進める中、建物の窓や屋台の店先に同じ模様が描かれたペナントや旗が提げられていることに気が付く。


「首都の民たちは皆、式典が待ち遠しいみたいだね」


サイの言葉に、私は頷く。


「うん、いい雰囲気。きっとここの人たちは、お膝元にいて、いい国主だっていうことを実感してるんだね」


三人が頷く。
そして私たちの間には、それぞれ何か思うところがあるんだろう、沈黙が訪れた。


今の国主は、この国に代々続いてきた王族の直系ではないらしい。
血を辿れば、繋がってはいるらしいが。
数代前に邯の国を離れ、どこかの山々でひっそりと暮らしていたところ、先代が急逝し、また跡継ぎがいなかったこと、より近い血縁は病弱であるなど適性がある者がいなく、そこで選ばれたのが今の王様だという。
カカシ先生が過去就いた任務は、彼を王位に就かせるため邯の国へ送る道中の警護だった。
そして数日後、在位五年を祝う式典が開かれる。




宮殿は、聳え立つ巨大な山の山腹にあった。
麓に着いたところで守衛がいて、身分を名乗り、厳重な結界を通らせてもらう。
待っていた案内人の後をついていきながら、サクラが小声で言った。


「随分厳重な結界ね」
「ああ、かなりすげえやつだってばよ」


中々混沌を繰り返してきた国だからだろう。
今の国主になってからはないようだけれど過去、襲撃事件があったとも聞いている。


火の国とはまた違う種類の木々が生い茂る中、敷かれた道を進んでいく。
山を登っていくそこここに四阿や詰所が点在していた。
そして着いた宮殿は、一際大きく、存在感を放っていた。
街で見かけた模様がいたるところに装飾されているのを眺めながら、国王がいる部屋へ向かい渡り廊下を歩いていれば、前方からぱたぱたと軽い足音が聞こえてきた。
見れば、上等な服を身に纏った女の子が駆けてくるところで、私たちは顔を見合わせる。
歳の頃からしても、例の姫で間違いないだろう。


「ラナ様」


案内人の男性はそう言うと、片膝をついた。
その名前は国王の一人娘のもので、やっぱりと思う。
私たちが第七班を結成した頃より少しだけ幼い年齢のお姫様は、私たちの前までやってくると大きな丸い瞳で見上げてきた。


「六代目火影の婚約者がいると聞いたが」


すると言ったその言葉に、私たちは揃って目を丸くさせる。
思わず私に集中した視線に気づいたラナ様は不適に笑ってみせると、ずびしと私を指差した。


「お前だな。婚約解消するがよい!」




0710