舞台上の観客 | ナノ
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テーマ「推しとの恋」
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その後、応援部隊が到着し、頭の男から情報を聞き出すこともどうやらできたらしく、木ノ葉への帰郷はつつがなく終わった。
捕らえた者たちを改めて尋問部隊へ引き渡し、代表して六代目へ報告してくるというシカマルを見送り、解散となった後、私は街の外れで川を眺めていた。
ぼんやりと考え事をしながらふらふら彷徨っていれば、いつしかこんなところに来ていたのだ。
草の上に腰を下ろして、西日に煌めく水面をぼうっと眺める。


(・・・・・・闇にいる者、か)


その言葉自体については、特段心を動かされたわけではなかった。
ただなんというか、現実に戻されたような気分がする。
それも突き落とされたような気が。
その前日の夜、シカマルと過ごした静かな時間の幸せを思えば、夢から覚めたような心地がした。


あのときの自分は、浮かれて──と、そこまで思って、しかし首を横に振る。
抱えた膝に、額を当てた。


(いや、違う・・・・・・よね)


浮かれてたって、いいんだ。
だってシカマルを想うこの気持ちは、ひどく大切なものだから。
無理になくすことなんてできないし、そうしようとも思わない。
・・・・・・大丈夫、きちんと弁えていられる。
なら──それなら、いいんだ。
胸の奥に仕舞っておければ、大丈夫。


私は顔を上げると、ぱしぱしと頬を叩いた。
ふう、と一つ息を吐けば、背後から含み笑いの声が掛けられる。


「どうしたんだ?」
「──シカマル!」


そこに立っていたのはシカマルだった。
歩いてくると、隣に腰を下ろすシカマルに、私は照れて笑う。


「あはは・・・・・・変なところ見られちゃったね」
「いや──つうか、結構いい音してたけど、痛くねえのか?」


言うと頬に触れてきた手に、私は小さく息を呑む。
目を泳がせると、なんとか言った。


「大丈夫、だよ」
「・・・・・・顔、赤ェけど」
「それは──や、やっぱり思ったより力強かったのかな」


川の方に向き直ると頬を包みながらそう言った。
掌に触れるそこは先ほどまでと比べてじんわりと熱い。
赤くなった頬をシカマルに見られないようにしながら、心中で必死に念じていた。


治まれ、治まれ〜。
駄目だ、こんなに表に出してちゃ。
胸の奥に仕舞っておくんだろう、自分。
こんなんじゃサイだけじゃなくて他の皆にも──シカマル本人にだってさえ気づかれてしまうかもしれない。
しっかりしなきゃ。


するとシカマルが、なあ、と言った。


「頭の男が言ってた、他の勧誘に、っていう話」


話題が話題のため、意識せずとも頭が瞬時に切り替わった。
視線を移せば、シカマルは神妙な面持ちで私を見ている。


「実際今まで、あったのか」


「闇にいる者どうし、きっと上手くやれるさ。他の勧誘なんかに靡いちゃ──」


私は、そのことか、と若干呆気に取られたようになると、拘りなく頷いた。


「ああ、うん」
「ああうんって、お前──」


シカマルは言い掛けると、そして深く息を吐いた。
苦い顔で頭を掻くので、私は慌てて両手を振った。


「だ、大丈夫!里にはちゃんと報告してるよ。そういうことを言ってくるのは、大抵不穏なことを目論む連中だからね。里の脅威になりうるものは、きちんと伝えてるよ」
「そうじゃねえ・・・・・・し、里の脅威になりうるものは、かよ」


言うも、シカマルは何やらぶつぶつと呟いている。
私はそっと、そんなシカマルを窺い見ていた。


男の話をしてきたこともあって、情報について、ひょっとして教えてもらえるのだろうかとも思ったけれど、この様子だとどうやら違うらしい。


複雑な思いが心中を去来して、目を落とせば、思ったよりもシカマルとの距離が近いことにそのとき初めて気がついた。
心臓が嫌な音を立てて鳴る。


「おーおー、お熱いこって、お二人さん」
「名前がシカマルのことを好──」



キバが言ったのはあくまで冗談だし、サイが気づいたのは日頃から感情の機微を学んでいるからだということは分かってる。
だけど、もし万が一にでも二人が言ったり気付いたりしたことと同じようなものを他の誰かに抱かせてしまったとしたら。


(シカマルに、迷惑が掛かる・・・・・・)


私は地面に手をつくと、そっとシカマルから距離を取った。
すると遠くから誰かが話しているらしい笑い声が聞こえてきて、ちょうどよかった、と私はほっと息を吐く。


「・・・・・・おい、名前」


けれどそのとき、シカマルが私の頬に向かって手を伸ばし掛けて、私は思わずびくりと体を揺らして身を引いた。
シカマルの手が止まる。
しまった──と、私は硬直した。


「えっ・・・・・・と」


何か言わなきゃと必死で頭を回転させるも、思考はぐるぐると空回る。


「キバに言われたことを気にしてんのか」


けれどシカマルがさらりとそんなことを言ったので、私はあんぐりと口を開いた。
軽く笑うシカマルに、呆気に取られていた私は、そして深く息を吐く。
言い当てられてしまったため、もう言い訳を考えなくてすむ安堵感と、シカマルといると何度も感じる驚嘆とで、一気に体の力が抜けた。


「・・・・・・本当に、シカマルはすごいね」


思わず笑いながらそう言えば、シカマルは、いや、とだけ言う。
そして視線をこちらに向けたので、私は目を伏せた。


「・・・・・・ごめんね、失礼なことして」
「気にしてねえよ」


優しい言葉に、私は目を細める。
苦笑すると頬を掻いた。


「キバの言葉がただの冗談だっていうことは、よく分かってるよ。私がシカマルといたところで、そんな勘違いする人なんて誰もいないっていうことも。でも、万が一のことを思うと」
「困るのか?」
「え?」
「そう勘違いされたら、お前は困るのか、名前?」


困る──と、その言葉を舌の上で転がしてみたが、半分は当たっていて、半分は違うような、そんな感触がする。


「私っていうよりも・・・・・・シカマルだって、困るよね。それに他の人たちも」
「他の人たち?」
「その──ほら、シカマルは人気だから」


言えばシカマルは少しぽかんとした。
そして頭を掻くと、んなことねえよ、と言うので、私は目を丸くさせた。


「シカマル、鈍いところもあるんだね」
「その言葉、お前にだけは言われたくねえな」


笑って言うシカマルに、思わず私も笑った。
私は、でも、と川に視線を移す。


「このことについては、私の考えも、勘違いなんかじゃないよ。だってシカマルは本当に、素敵な人なんだから」
「・・・・・・」
「優しくて、男らしくて、頭が良くて、仲間想いで──数え切れないほどの魅力に溢れてる」
「・・・・・・そう言ってくれんのはありがたいけどよ、生憎俺は、お前が思うようないい奴なんかじゃねえぜ」


え?と笑い含みにシカマルを振り向いた私は、かち合った視線に思わず口を噤んだ。
向けられる眼差しから、なぜだか目が逸らせない。


「キバが言った言葉のように、お前とそういう関係に見られる、あるいは相思相愛なんだと周囲に勘違いされることについて、俺は困ったりなんかしてねえ。いや、むしろ、勘違いされればいいって、思ってる」


勘違い、されたい・・・・・・?
それは、つまり・・・・・・虫除け要員が欲しいっていうことなのかな。
だから、自分のことをいい人間なんかじゃないと?


思っていれば、シカマルはちらりと笑った。


「お前が考えているような意味じゃなくて」
「えっ」


驚けば、シカマルはまた笑った。
そして私に向き直るので、私もシカマルに向き直った。


「俺はな、名前・・・・・・そうやって周囲が勘違いすることで、外堀が埋まっちまえばいいと思ってる」
「──外堀」
「勘違いする奴らが増えて、噂が広まって、お前一人じゃ覆せねえくらいになって──お前の背中を押す理由の一つにでもなっちまえばいいと、思ってるんだよ」


切れ長の目の奥で光った強いものに、心臓が音を立てて鳴った。
思わず目を逸らせば、落とした視線の先、自分の手が膝の上で握りしめられていることに初めて気づく。


緊張、してる──どうして。


「──俺はな、名前」


するとシカマルの手が、そんな私の手の上に重ねられた。
はっとして顔を上げた先、目が合って──逸らせなくなる。


「お前が──好きだ」


私は言葉を失った。
好き──というその二文字が、頭の中をぐるぐると回る。
じわじわと頬に熱が上がってくる。
私は思わず俯いた。
逃げ道を探すように目を泳がせる。


「え、えっと・・・・・・好き、って」
「俺はお前のことを、女として想ってる」


まるで退路を断たれたようで、私は小さく息を呑んだ。


(シカマルが、私のことを・・・・・・好き?)


とても信じられない──そう思うが、ちらりと見上げた先、注がれる眼差しの熱さがそれを否定する。
どきどきとうるさい心臓は苦しくて、けれど甘く、溢れんばかりの幸せに包まれるようだった。


「あの・・・・・・」


見つめてくるシカマルに口を開き掛け、しかし私は言葉を途切れさせた。


──何を言おうというんだ、私は。


自分が言おうとしたことを思って、ぞっと血の気が引くのが分かった。
先程までの幸せな気分が嘘のよう、足元ががらがらと崩れ落ち、奈落へ落ちていくような気分だった。
手が震えた。
吐息が震え、体が震えた。
目の前が真っ暗になるような心地で、堪らず視線を落とせば、シカマルが言った。


「今はまだ、返事も何も、いらねえ」
「え・・・・・・」


見上げれば、シカマルは真摯な眼差しを私に向けた。


「今はただ、俺がお前のことを好きなことだけ覚えておいてくれれば、それでいい」











その後、どうなったのかは正直言ってあまり覚えていない。
ただ家に送ると言ってくれたシカマルと歩いていれば、シカマルに用があったらしい忍が一人、瞬身の術で現れて、謝るシカマルに私は何かを言って送り出した。
そして今は、ぼうっとしたまま商店街を歩いている。


「あれ?名前じゃない。久しぶりね」


シカマルが私のことを・・・・・・好き。
夢みたい・・・・・・だけど、夢じゃない・・・・・・よね。


「ちょっと、名前?」


胸が痛くて、苦しい。
もう嬉しいのか嬉しくないのか、分からない。
・・・・・・どれだけ不遜な物言いなのかは、自分が一番よく、分かっているけれど。


「もう、名前、ってば!」


突如左腕を掴まれて、私は飛び上がる勢いで驚いた。
完全に思考の海に潜っていて、まるで気づいていなかった。
目を丸くして見た先では、いのが呆れたような、それでいて不安そうな顔で私を見ている。


「もう、全然気づかないんだから。どうかしたの?」
「あ・・・・・・その──いや」


要領を得ない答えに、いのは不思議そうに眉を上げた。


「どうしたっていうのよ、いったい」


まさか──と、にやりと笑う。


「シカマルに告白されでもしたの?」
「えっ!?ど、どうして」


どうして皆、揃いも揃って鋭いんだ・・・・・・!


思わず動揺を見せれば、いのはぽかんと口を開いた。
その様子に、もしかして確証を得ていたわけじゃなかったのか、と思うも、それは後の祭りで。
私は掴まれたままの腕を引かれると、山中花店に引きずり込まれた。
感知タイプのスペシャリストである姿からは想像もできないほどの力と勢いに、目を丸くさせる。


「ちょ、ちょっと、いの──」
「いいからいいから!はい、こっち来て!ここ座った!」


勘定台の奥、いのの自宅への上がり框の部分に肩を押されて座らされた。
いのは再び店前へ戻ると、営業中の札を返し、がらがらと扉を閉めてしまう。
ぎょっとすれば、いのは、もう閉めるところだったからいいの、と言った。
そして広さにはまだ余裕があるというのに、私に寄りかかるようにして腰を下ろした。


「それで、シカマルに告白されたって?」
「それは──その」
「言っとくけど、今さら誤魔化そうたってそうはいかないわよ」


うりうりと頬を小突かれる。
私は諦めると、首肯した。
いのが黄色い声を上げる。


「やだもう、遂に!?今日はお祝いね──って、あれ、肝心のシカマルはなんでいないの?」


経緯を説明すれば、いのは不満そうに腕を組んだ。


「ったく、空気読めないわね、そいつ。シカマルもシカマルよ!記念日くらい、仕事は誰かに任せて──」
「ち、違うよ、いの」
「え?何が?」
「記念日じゃない」
「・・・・・・え?ちょっと待って──うそ、断ったの!?」
「違う、そうでもなくて──返事はいらないって、言われたの。今はいい、って」


言えばいのは、ぽかんとした。


「そう言ったの?シカマルが?」


これまた首肯すれば、いのは何かを考えるように、顎に指を添えると唸った。
その様子を見て、確かに、と私も思う。


そういえば、確かに──どうしてだろう。
返事はいらないっていうのなら、どうしてシカマルは今、それでも私に想いを伝えてくれたんだろう。


私も私で考え込んでいれば、いのが私に目を向けた。


「まあでも、返事は決まってるんでしょ?むしろどうして言わせてくれないのよ、って感じよね。もしかしてシカマル、一丁前に焦らしてるのかしら」
「えっ、ま、待って、いの」
「なに?」
「返事は決まってる、って」


信じられない思いで聞けば、いのは先日のサイと同じような顔をして答えた。


「だって名前も、シカマルのことが好きでしょ?」


私は恥ずかしさのあまり目が回りそうだった。
いのの両肩を掴むと、震える口を開く。


「サイから聞いたの?」
「え、サイがどうかした?」
「いや、いのは元々鋭いし、恋愛事となればさらにそれは顕著だし、だからだよね?と、とにかく、シカマルには気づかれてないよね?」
「それは──私からは何とも言えないけど・・・・・・もしかして名前、シカマルに知られたくないの?名前の気持ち」
「・・・・・・それは」
「どうして?・・・・・・まさか、断るつもり?」


口を噤めば、いのはまじまじと私を見た。
ややあって、わざとらしく、ふうん、と言う。


「そっか。私の大切な幼なじみを傷つけるつもりなのね、名前」


閉口すれば、いのは笑った。
そして優しい眼差しを私に向けると、肩を抱く。


「ね、どうしたのよ。──大丈夫、シカマルには言わないから。女同士の秘密、でしょ?」
「いの・・・・・・」


そう言ってウインクするいのの心遣いに、胸の辺りが温かくなる心地がした。
私は、ありがとう、と微笑う。
少し考えると、そして口を開いた。


「いのもさっき言ったとおり、私が断れば、シカマルを傷つけちゃうよね」
「ええ」
「・・・・・・でも、想いに応えると──私も気持ちを伝えると、それはそれで──ううん、もっと、傷つけちゃうことになると思うんだ」
「もっと、って・・・・・・どうして?」


私は口を開き掛けて、しかし閉口した。
色々な思いが入り乱れて、まだ気持ちの整理がつかなくて、そのまま思考の渦に入っていってしまいそうになって、私は軽く首を振った。


「ごめん、今は上手く、言えないんだけど・・・・・・」


言えばいのは、気にしないでというように首を横に振った。
そしていのも何か考えるように前を向く。
店内に広がる色とりどりの花々を見て、そしていのは綺麗に微笑って私に視線を戻した。


「ねえ、名前」
「・・・・・・?」
「でも、どっちにしたってどうせ傷つくんなら、好きな人と一緒にいられる方が、幸せじゃない?」


私は目を開いた。
いのの言葉は、混濁していた心中に不思議とすんなり入ってきて、綺麗に着地する。


「ほら、言うでしょ?病めるときも健やかなるときも──って、まあこれは夫婦のそれだけど」


でも──と、いのは笑った。


「恋人だって、変わりはないでしょ?」
「いの・・・・・・」
「好きな人と一緒にいて、越えられない壁や困難なんてないわよ」


そう言って明るく笑ういののことを、私は眩しく見た。


「あ、ねえそういえば、この前の任務、サイと一緒だったんでしょ?」
「ああ、うん。サイとシカマルと三人一組」


言えばいのは、ずいと私に顔を寄せる。


「サイ、そのとき私のこと何か言ってなかった?」


想い人について素直に聞いてくることも、輝いた瞳も可愛くて、私は頬を緩めた。
そして、ああ、と思い当たると首を傾げる。


「花の絵って──」
「もらったわ!サイってあんなロマンチックなこともできるのね。もうすっごく素敵だった!」


頷けば、いのは太腿に肘をつき頬を手で包むと、悩ましげに息を吐く。


「でもまだ肝心なことは言ってくれないのよねぇ・・・・・・。ね、名前はどう思う?」
「どう、って?」
「サイって私に気があると思う?誰にでもあんなことするとは思えないんだけど、どうにもまだよく分からないところがあるのよね」


なんだか理解できるところもある言葉に、私はくすくすと笑った。
そして言う。


「あくまで私の、個人的な意見なんだけど」
「うんうん」
「サイはいののことを、大切に思ってると思うよ」


いのの顔にぱっと華やいだものが浮かぶ。


「本当?」
「うん。──それに」


先程掛けてくれたいのの言葉が脳裏に蘇る。
私はにっこりと笑った。


「いののことを好きにならない人なんていないよ」


言えばいのはぽかんとした。
かと思えば腕に抱きついてくる。


「あーあ、名前が男だったら、私すっごく迷っただろうなぁ」
「え?」


笑いながら首を傾げたときだった。
誰かが廊下を歩いてくる足音がした。
いのの家族だろうかと振り向いた先、目を丸くして立ち止まったのはサクラだった。
いのも体をずらすとサクラに気がつく。


「サクラじゃない、どうしたの?」
「その・・・・・・うちのお母さんが、煮物作りすぎたからお裾分けに、って」
「本当?嬉しい。サクラの家の煮物、すっごく美味しいもんね」


サクラは、うん、と笑うが、その笑顔はどこかぎこちない。
揃って首を傾げる私たちに、サクラは目のやり場に困ったように視線を泳がせながら、


「いのと名前が二人だけでいるなんて、珍しいなと思って」
「ああ、確かにそうかも」
「私と名前は、任務でもあまり被ることないもんね」


いのの言葉に首肯する。
サクラの視線の先を辿ったいのが、閃いたように、ああ、と言った。
そしてわざとらしく意地悪げに笑うと、さらに腕に抱きついてくる。


「サクラあんた、妬いてるんでしょ」


その言葉に、ようやく私も得心した。


「ああ、私に」
「違うわよ、名前。この場合両方に、っていうか、仲間外れにされたみたいで寂しがってるのよ、デコデコちゃんは」
「って、いの!誰がデコデコですって!?」


サクラは床を踏み鳴らすと、ふんと腕を組んでそっぽを向いた。


「それに、別に寂しがってなんかいないわよ」


私といのは顔を見合わせると、そして笑い合った。
いのがサクラに声を掛ける。


「そんなこと言っていいのかしら?今ならあんたも加えてあげるけど」
「サクラも、おいで。久しぶりだし、一緒に話しよう」


いのの気持ちに甘えて、ぽんぽんと床を叩けば、サクラはこちらを向いた。
躊躇する様子を見せたのも少しだけ、やってくると腰を下ろし、けれど照れたようにまたそっぽを向くその姿に、私といのは声を上げて笑い合ったのだった。



20200601