舞台上の観客 | ナノ
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テーマ「推しとの恋」
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カカシ先生と距離を置こうと決意してから十日程が経った。
怪訝そうな眼差しを向けてくる五代目に頼み込みなんとか任務の量を増やしてもらい、それからは専ら任務遂行に勤しんでいる。
今日も、里に戻ってくると報告書を提出し終え、また次の任務の準備のため自宅へ向かい建物の上を軽く駆けていた私は、眼下にちらりと銀色が見えて思わず足を止めた。
ブレーキをかけるとしゃがみ込み、屋上の手すりの隙間からそっと裏路地を覗き込む。


(カ、カカシ先生だ・・・・・・)


任務の話なのだろうか、歩いているところを呼び止められたというふうのカカシ先生は、一人の忍が見せる書類に目を通しながら何やら会話しているようだった。
いまの自分が完全に不審者なのは分かっているけれど、勘弁してほしい。
だって会うどころかカカシ先生を見るのだって、あの日以来なのだ。


(自分で決めたこととはいえ・・・・・・)


会いたい。会って、抱きしめてほしい。
髪を撫でてもらって、キスをして、そして──と、そこまで思って私はかぶりを振った。


馬鹿か、私は!
距離を置こうと決めた理由は、そうした私の思いのままにカカシ先生を困らせて、無理をさせてしまわないためだろうに!


心中で自分を叱咤したところで、最後に一目だけ、と眼下を見下ろして、しかし二人がもう消えていたことに気が付いた。
少し残念に思ったところで背後の気配に気が付いて、飛び上がりそうになりながら振り返る。


「──カカシ先生!」
「──名前」
「えっ──わっ」


そこに立っていたのは、つい先程まで覗き見していた恋人本人だった。
目を丸くさせて間もなく、手を引かれると抱きすくめられる。
先生は私の髪に顔をうずめると深く息をした。


「あー・・・・・・会いたかった」


その言葉に胸が締めつけられるようになる。
私もです、と言いたかった。
そして抱きしめ返してしまいたかったけれど、何とか抑えて、努めて平静な声を出す。


「お久し、ぶりです」
「本当にね。こないだなんて、朝起きたら可愛い恋人が、置き手紙に変わってるんだもん」
「す、すみませんでした」
「いや、任務なら仕方がないよ。でも、もし今度ああいうときがあったら、起こしてくれると嬉しいな」
「いえ、それは・・・・・・!カカシ先生にはゆっくり寝ていてほしいので」
「んー、そう言ってくれる名前の優しい心遣いは嬉しいんだけど、俺はちょっとでも名前といたいし、それにお見送りさせてよ、ね?」


優しいが過ぎる・・・・・・!
素敵が過ぎる・・・・・・!
駄目だ、私、自分をしっかり持つんだ・・・・・・!


「でも名前、前にも増して任務多くない?昇格の要件は、もう満たしてると思うんだけど」


カカシ先生の手に掛かればいとも簡単に決意がぐらついてしまいそうで、自分の中の天使と悪魔を必死で戦わせていたとき、話題が任務についてに切り替わったので、私はほっとすると共に答えた。


「えっと、私から五代目に頼んだんです」
「名前から?そりゃまた、どうして?」


それは──と言って、私は目を泳がせた。


カカシ先生に休んでほしくて、とは言えないから──。


「も、もっと成長したくて、です」
「・・・・・・成長?」
「はい」
「ふーん・・・・・・」


何やら見定めるような視線に、私は冷や汗をかきながらカカシ先生を窺い見た。


「あの、カカシ先生・・・・・・何か」
「いや──ま、なんていうのかな」


言うとカカシ先生はにっこり笑った。


「嘘は吐いてないけど、全部が全部話したわけでもない、ってところかなと思って」


バ、バレてる・・・・・・!


「あ、あの、すみませんがこれからまた任務でして、このあたりで──」
「ごめん、少し待って。今の名前の任務予定を教えてほしいんだけど」


さらに向こう十日程の予定を答えれば、カカシ先生は眉を顰めた。


「砂隠れ・・・・・・」
「カカシ先生?」
「いや、ただ・・・・・・行って帰ってくるだけでも、時間が掛かる場所だと思ってね」


私は苦笑を漏らすと、そうですね、と言う。


「そういえば、カカシ先生の方は?」


聞いてみれば、休日が入っていて、私は顔を輝かせた。


「よかった!ゆっくり休んでくださいね」


どうやら先生が休息を取れそうなこと、そして少しだけれど会えたことが嬉しくて、私はにこにこと笑うと、それじゃあ、と言ってその場を去った。











「はーーーー・・・・・・」


上忍待機所にて、長椅子に座りながらカカシはため息を吐いた。
それは誰かが聞けばぎょっとするほど長く重いものだったが、今日も今日とて上忍待機所には人がいないため、下手にちょっかいをかけられることもない──はずだったのだが。


「よう、カカシ」
「・・・・・・なんだ、お前か」
「辛気臭ぇなあ。今日は名前ちゃんはいないのか?」


言えばじとりと向けられた目に、近寄ってきたハクセンは心得たように笑った。


「なるほど、名前ちゃんがいないから、そんなしけた面してるってわけか」
「うるさいよ」


カカシの言葉に構わず、ハクセンは笑いながら、卓を挟んだ向かいの長椅子に腰掛ける。
面白そうにまじまじとカカシを見やった。


「しかし、昔からは想像もできないよなぁ。あのはたけカカシが、一人の女にここまで振り回されるようになるとはよ」


じろりとハクセンを見たカカシは、しかし何も言わず、ただため息だけを再び零すと、どこかあらぬ方向に目をやった。
そんなカカシに、ハクセンは手を叩く。


「よし、カカシ。久しぶりに、俺と一緒に出掛けるか」
「・・・・・・は?」
「だからほら、昔みたいに、綺麗な姉ちゃんがいる店にでも行って──」
「拒否。無理」


その即答ぶりと眼光の鋭さに思わずハクセンが体を引けば、カカシは気づいたように、あ、と僅かに目を開いて、そして頭を掻いた。


「お前が俺のことを気遣ってくれるのはありがたいんだけどさ、もう無理なのよ、俺」


ハクセンは首を傾げる。


「名前ちゃんって意外と独占欲強いとか?そんなふうには見えなかったけど」
「いや、違うよ。あの子じゃなくて、俺が無理なの」


ハクセンは瞬いた。
カカシが言った言葉を呑み込んで、そしてハクセンは声を上げて笑う。
カカシがげんなりと眉を下げる。


「あのね、お前笑いすぎだから」
「だって、だってよ、あのお前が」
「はぁ、もういいよ。ひとしきり笑っちゃった方がいいんじゃない?」


それからしばらく待機所には笑い声が響いていた。
ややあってハクセンは目元に浮かんだ涙を拭いながら言う。


「いやー・・・・・・笑った」
「そりゃ、よかったね」
「しかしお前、とことん骨抜きにされてるんだな」


またからかわれてるのだろうと思ったカカシは、しかし優しい顔で笑うハクセンに、目を丸くさせた。


「それだけの相手に出会って、しかも想い合うことができるなんて、中々あることじゃないからな。お前がそんな相手と巡り会うことができなんて、感慨深いぜ」


しみじみと言うハクセンに、カカシも笑って、どーも、とだけ答えた。


「まあでも、お前がいいって言うならいいけどよ、もう少しこう、色々と発散しといた方がいいんじゃないのか?今のお前、ぴりぴりしてるし、任務が終わってやっと会えた後の名前ちゃんが不憫だ」
「んー・・・・・・」


ハクセンの言葉に、カカシはふいと視線を逸らして頬を掻いた。
確かに、次名前に会えたときは、一日中離してやれないという確信がある。


「ま、俺も俺で、任務を増やしてはいるんだよ。任務中はその遂行だけに集中できるし、どうせ名前もいないしね」
「端から見たら、恋人よりも仕事大事カップルだな」
「五代目にも言われたよ。お前たちは二人揃って何なんだ、暇なのか、ってね」
「違いない」


そう言って笑ったハクセンは、立ち上がると出口へ向かいながらひらひらと手を振った。


「まあ無理するなよ、色々とな。お前がいいなら、俺はいつでも付き合うからよ」


そうは言ったが、カカシにその気がないことなどハクセンはもう分かっているだろう。
カカシは苦笑を漏らすと、自らも任務に向かうため立ち上がり歩き出した。


それからも、カカシは任務に奔走しながら、名前が砂隠れから帰ってくる予定の日を待ち続けた。
そして当日、陽が傾き掛けた頃、もう名前が帰っているかそわそわしつつ単独任務から戻っていたカカシは、里に辿り着く少し前で、その姿を遂に見つけた──非常に喜ばしくない形で。











上空から見下ろした先、見えてきた木ノ葉に、私は隣の人影に視線を移した。


「我愛羅、もう大丈夫だよ、ありがとう」


言うも、無言のままじっと見つめられて、私は慌てて両手を振る。


「本当に大丈夫だから」
「・・・・・・まあ、もう木ノ葉も近いしな」


我愛羅の言葉に、私はうんうんと頷く。
私たちを乗せた砂が地面に向かって降りていって、私は安堵の息を吐いた。


並びない人物である五代目風影に、なぜこのような恐れ多いことをしてもらっているのかというと、それはすべて私の未熟さと我愛羅の優しさに起因する。
砂隠れでの任務の際、あと少しで任務完了というときに私は脚に傷を負った。
それは本当に大したことないものだったのだが、木ノ葉へ帰ろうとする私に我愛羅が言ったのだ。
木ノ葉の近くまで行く用事があるから送っていく、と。


もちろん初めは固辞した。
なにせ我愛羅が言った送るという言葉の意味は、木ノ葉まで付き添うというものにとどまらず、我愛羅の砂に私も乗せてくれるというものだったからだ。
怪我は本当に大したものじゃないし、もし負った傷がそれより重いものだったとしたって、風影直々に送ってもらうことなどありえない。


だが、砂を使うから早いし負担も掛からない、このまま見送れば心配で仕事が手につかない、今は影と忍ではなく昔馴染みの言葉として聞いてほしいと言われてしまえば、断り切ることはできなかった。


近づく地面に降り立とうとすれば、しかし体勢を変える前に我愛羅に横抱きに抱えられる。
着地した我愛羅がそのまま歩き出そうとするので、私は慌てた。


「が、我愛羅、どうしたの?」
「門の前まで送る」
「えっ、いやいやいや、大丈夫だよ!もうすぐそこだし、何より元々大した傷じゃなかったものが、我愛羅の砂に乗せてくれたお陰でさらに回復して──」


と、そこまで言いかけたところで、前方に人影が降り立った。
そちらを向いて、目を丸くさせる。


「カカシ先生」


先生は私たちを見やると、そして我愛羅に向かってにこりと笑んだ。


「これはこれは風影様、手厚い送迎、感謝しますよ」


我愛羅は、いや、と言う。


「大切な昔馴染みが砂隠れであたってくれた任務で怪我をし、また木ノ葉の近くで用事があったため送っただけのこと。礼を言われるほどのことはしてない」
「怪我、ね」


カカシ先生の視線が、裾から見えたであろう包帯に留まる。
なんだか居心地が悪くて目を逸らせば、カカシ先生が我愛羅の腕の中から私を受け取ったので瞬いた。


「木ノ葉には?」
「あの、先生──」
「いや、今回は止めておく。連絡もしていないからな。余計な騒ぎを起こさせたくはない」
「我愛羅も──」
「ナルトたちには、よろしく伝えておくよ」
「助かる」


二人ともにまるきり無視されて、ひょっとすると私は今ここに存在していないんじゃないかとすら思ったが、感じるカカシ先生の温もりがそれを否定する。
振り返ると里に向かって歩き出したカカシ先生に、私は慌ててその肩越しに我愛羅に向かって声を上げた。


「が、我愛羅、本当にありがとう!」


反対方向に向かって歩き出していた我愛羅が、少し振り向くと微笑って手を挙げる。
その姿を見送った私は、門を潜ったところで、周囲の人たちから注がれる視線に慌てた。
怪我してるのかと不安そうな眼差しを向けてくれる人もいれば、私とカカシ先生の関係を知っているからかなんだか生暖かい視線を向けてくる人もいる。


「カカシ先生、降ろしてください。自分で歩けます」
「名前」
「怪我なら本当に大したことなくて、包帯だってもういらないくらいで──」
「──名前」


低い声音に、え、と固まる。
見上げた先、カカシ先生はにこりと笑った。


「ちょっと黙ろうか」


その笑顔からにじみ出る圧に、私は蚊の鳴くような声で、はい、と返事したのだった。











それからカカシ先生が瞬身で飛んだのは先生の家で、寝室まで運ばれた私はベッドの上に座らされる。


「これ、取ってもいい?」


少し裾を捲られると、ふくらはぎに巻かれていた包帯に触れそう聞かれ、頷けば先生は丁寧に包帯を解いた。
見てみればやはり、数日前には血に濡れていたそこも、今では何の外傷も見受けられない。
先生はそこを撫でると、立ち上がった。


「ちょっと俺、綱手様のところに行ってくるから。名前はここで大人しく待ってること。いい?」


そう聞きながらも、カカシ先生は私の返事を待たずに瞬身の術で姿を消してしまった。


(心配掛けちゃったかな・・・・・・)


カカシ先生から、ずっとぴりぴりとした空気を感じる。
今はもう、治った状態のそこを見てもらったから大丈夫だと思うけれど、先生は優しいし、最初はすごく不安にさせてしまっていたのかもしれない。


思っていれば、いくらも経たないうちにカカシ先生は戻ってきた。
顔を上げれば、先生はにこりと笑う。


「名前、明日から三日間は休みだから」
「──えっ?」


先生の笑顔につられて笑いかけていた私は、しかしその言葉に驚く。
聞き間違いだろうかと軽く頭を振れば、先生は軽く笑いながら、自身もベッドの上に乗ってきた。
その笑い声がなんだか乾いたものに聞こえて、私は思わず後退する。


「あの、休みって、どうして」
「元々明日は休みの予定だったでしょ」


確かにそうだ。
中期任務明けだし、その前から任務を詰め込んでいたこともあって、五代目から、この日は任務を入れることは許さんと言われていた。
だけどそれは──。


「一日だけです。どうして三日も」
「ああ、それはね」


カカシ先生が言い掛けたところで、背がヘッドボードに当たる。
振り向き掛けたとき、カカシ先生の両腕が私を挟むようにしてボードにつかれた。
え──と、恐る恐る先生を見上げれば、先生は笑った。


「俺が五代目に言ってきたから」


や、やっぱり怒ってる・・・・・・!!


空気は重く、カカシ先生を纏う分厚い何かが目に見えないのが不思議なほどだ。
私は、まずいまずいと震えながら、自分の脚を抱え込むと示す。


「ほ、ほら、もう一度見てください。完治、完治してます!体調万全!」


言うも先生は、私を見やるとどこかうっとりと目を細めた。


「やっぱり名前は、俺の腕の中にいるのが一番いいと思うんだけどな」
「聞いてますか・・・・・・!?」


慌てる私に、先生はくすりと笑うと、私の頬をそっと撫でた。
細められる目に、どきりとする。
口布に掛けられる指と、寄せられる顔に、私は咄嗟に自分の口元を両手で覆った。
すると先生の眉根がぴくりと寄って、私は漏れそうになった悲鳴をなんとか呑み込む。


「名前、何これ」
「・・・・・・」
「・・・・・・本当名前は、俺を焦らすのが上手いよね」


焦らす──と言葉の意味を考え掛けたとき、先生は私の耳元に顔を寄せた。
目を開けば、耳に舌が這わされて、ぶわりと顔に熱が上る。


「せ・・・・・・せん、せい」


べろりと舐められて、耳朶を柔く食まれる。
ぴちゃぴちゃといやらしい水音が耳元でして、私は堪らず吐息を漏らした。


「ふ・・・・・・っ、ふ」
「会いたかったよ・・・・・・」


掠れた声で囁かれて、胸がきゅんと高鳴る。
私も──と思った。


(私も、会いたかった・・・・・・すごく、すごく)


ずっと、ずっと、どきどきしてる。
私だって本当は、手を伸ばしたくて堪らない。


そういえば──と、あることを思い出した私は、首元に口づけを落とす先生に問いかけた。


「先生、休日、ちゃんと休めましたか・・・・・・?」


もし、休めていたなら──と、私はどきどきしながら先生を見上げた。
ぴりぴりはしてるけれど、この前のときのような隈はないし・・・・・・それ、なら。


しかしカカシ先生は、どうして今そんなことを聞くのかというように少し意外そうに目を開くと、ああ、と言った。


「あの休みだった日なら、任務を入れたよ」
「──えっ!?」


私は驚くと、続けて、


「そ、それじゃあ別の日に休みを振り替えたんですよね?」
「いや、名前がいない間は、俺もずっと、任務三昧だったよ。名前と同じ。でもだからこそ、俺も明日から三日間、休みをもらえたよ」
「そう、だったんですか・・・・・・」


残念に思うが、仕方がない。
優秀も優秀なカカシ先生を皆が求めるのは当然のことだし、優しい先生がそれに応えるのも想像に難くない。


「なら今度こそちゃんと休んでください。私は任務を入れ直しますから──」


言い掛けたとき、手を取られて背後のボードに押さえつけられた。
え、と目を開けば、先生は読めない視線を私に向ける。


「そんなに任務を入れたがるのは──里を出た先で、会いたい誰かがいるから?」


私は首を傾げた。
カカシ先生の言った言葉の意味を考えようと首を捻るが、さっぱりわけが分からない。
カカシ先生はそんな私をどこか呆気にとられたように見ると、軽く首を振った。


「いや、ごめん。忘れて」


先生は少し息を吐くと、そして再び私に目を据える。
その目の色に、私はどきりとした。
思わず逸らした視線の先に、カカシ先生の手に縫いつけられた自分の手首が目に入って、さらに慌てる。


「あ、あの、あの」


何を言えばいいのか分からないけれど、とにかく何か言わなくちゃと焦るが、気持ちばかりが空回りする。


(ど、どうしよう・・・・・・)


私だって先生と、その、あ、愛し合いたい。
だけど休んで欲しいのもまた事実だ。
けれどそれを素直に言ったところで、カカシ先生は自分の体よりも私の気持ちを汲んで──。



「ぁっ、──あ!き、もちい。先生、きもち、い・・・・・・!」
「俺もだよ・・・・・・っは、ぁ。名前、これ、好き?」
「あッ、好、き。好き、す──ひゃ、あ!」



そこまで思って、はたと気づいた。


そうか、カカシ先生は、私が先生と愛し合いたいものだと思っている──あ、合っているのだけれど。
気持ちを汲んでくれている。
ならその気遣いは無用ですよと言えばいい。
私はそうは思っていないのですと伝えればいいのだ。


「大丈夫です!」


ようやく見つけた解決策に、満ち足りた気分で言った私に、先生は首を傾げた。


「何が?」
「間に合ってます。カカシ先生のお手を煩わせることはありません」
「・・・・・・は?」
「私、実はその、そ──そういうことするの、そこまで好きなわけではないので、お気遣いいただかなくても大丈夫で──」


にっこり笑って見上げた先、あった絶対零度の眼差しに体を揺らした。


「へーー・・・・・・」
「え、えっと・・・・・・先生?」
「つまり、俺とするのはそこまで好きじゃない。いつも気持ちよさそうにしてくれてるなと思ってたのは、俺の勘違いだった、ってわけ」


いつも、という言葉に私は顔を赤くさせる。
だが、私がその言葉どおりになってしまっているから、先生もしてくれようとしているのだと思えば、それは違うと言うべきなのだろう。


首肯すれば先生は、そっか、と笑った。
見上げれば、にこりと笑いかけてくれる。


「分かったよ」


私は顔を輝かせた。
それじゃあ──と握手でもしたい気分だったが、自分の両腕が押さえつけられたままだったことを思い出した。
もう離してもらえるだろうと手を引いて、しかしびくともしないそこに首を傾げる。


「先生──」
「それはそれは、今まで悪いことしてたね。ごめんね、名前」


視線を戻した先、にこりと笑うカカシ先生が言った言葉に、私はぴしりと硬直した。


「それじゃあお詫びに、今度はちゃんと、気持ちよくしてあげるね」




20200519