――不安だった。
ずっとずっと、怖くて、不安で、泣きたかった。
けど泣けなかった。
ナルトもサスケくんも気絶していて、名前はあの風の後からずっと居ない。
「サクラは心が強い、女の子だから」
二人を守らなきゃいけないのは私なのに、誰か敵が来たら守りきれる自信が無くて、慌てて必死でその考えを打ち消した。
そうしてやっぱり敵が来て、リーさんが来てくれて、いの達も助けてくれて。
何とか敵を追い返して、周りにみんなも居て、けどサスケくんの体の様子はやっぱり少しおかしくて。
とりあえずはほっとしたけど、何だかまだ気は張りつめていて、心の真ん中がまだいやにざわざわしてた。
「――…!名前!」
そんな時、隣に居るサスケくんが驚いたように言って、私も弾かれるようにサスケくんの視線の先を見た。
「名前!!」
名前に会ったら、絶対笑顔になるって思ってた。
無事で良かった、無事に会えて良かった、って。
けどそれよりも先に、胸がぐしゃっと緩んで、直ぐに泣き出しちゃいそうだった。
木の上に居た名前はザッと地面に下りて来て、眉を寄せ下げて何とも言えないような顔をしながらこっちに早歩きで来る。
私も小走りで行くと、私の顔を見た名前は足を止めて驚いたように目を丸くした。
私がいっぱいいっぱいなのに、名前は気付いてくれた、多分、ううん、きっと。
でも、薄い虚勢の内側の、触っただけで傷つくような弱い部分を、見せちゃ駄目だって。
だってまだ試験は終わってないし、とりあえずは落ち着いたんだし、
「――サクラ、」
こんな時に、そんな優しい声で呼ばないで。
…ううん、違う、ホントは私は、もう溢れそうで、さらけ出しちゃいたかった。
駄目だって思ってるけど、抑えきれなくて、。
「…サクラが、ナルトとサスケを守ったんだね」
違うの、リーさんやイノ達が来てくれたから、とか。
名前は本当は、遅れてごめんねって言いたいんだろうな、とか。
だって名前は優しくて、いつでも一番に私達のことを考えてくれるから。
でも、だからこそ私のことを思って、私のことを話してくれたんだ。
――にこっ、と。
柔らかく笑った名前に、目から涙が零れ落ちる。
ぐしゃっと顔が歪んで、もう、止まらない、止めれない。
「ありがとう、サクラ…よく頑張ったね」
ぷつん、と。
薄い皮が破れて、今やっと、冷たい風を肌に感じたような気がした。
名前の腕の中に飛び込んで、ぎゅうぎゅうと抱き締めて泣きじゃくる。
――あったかい。
「怖かっ、たぁあ!名前、名前〜っ!」
「サクラ、頑張ったね、ぼろぼろになってしまって…でも、よく頑張ったね」
「ふ、安だっ、た…!辛かった、怖かっ…ひっく…」
少し強くなれたような気がしていた。
そしてそれはきっと、間違いじゃないの。
でもそう簡単に変われる訳じゃないから、やっぱり私はまだまだ弱い。
ありがと、名前。
ありがとう。
こうして名前が休ませてくれるから、私はまた一歩、進めると思うの。
110505.