舞台上の観客 | ナノ
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木ノ葉隠れの里近くにある寂れた神殿前の広場で、サクラはサスケに医療忍術を施していた。
傍ではナルトとカカシが、同じようにサクラから治療を受けた体の調子を確認している。
どこか遠くで雷が鳴っていた。
地面に座り込んでいるサスケの背中に両手を翳せば、塞がっていく痛々しい傷痕を見て、サクラは悲痛に顔を歪ませた。


「本当にサスケ君ばかり狙うのね……許せない」


サスケはそんなサクラにちらりと目を向けると、立ち上がって外套を着直した。


「治療はもういい」
「サスケ君、まだ傷がーー」
「問題ない」
「でもーー」
「大丈夫だと言っている」


ぴしゃりと断られて、サクラは口を噤んだ。
お節介が過ぎたかと俯けば、ナルトが責めるような目をサスケに向ける。


「おい、サスケ。サクラちゃんてばお前のことを思ってだな」
「これくらいの傷なら、サクラの医療忍術を使う程じゃない」
「だから、大したことない傷であっても、それを負ったのがお前だったらサクラちゃんはーー」


言い合う二人の間に、まあまあ、とカカシが入る。
カカシはにっこり笑うとサスケを見た。


「サスケ、お前は昔っからそうだが、もう少し素直になってもいいんじゃないか?」
「鬱陶しい。お前には関係ないだろ」
「いやいや、今日は久しぶりのメンバーでの任務だし、そして俺はこの第七班の先生だからね。チームワークは大事にしなきゃ」


言うとカカシは、不安そうな目を向けてきているサクラに微笑った。


「大丈夫。サスケは、お前のチャクラをむやみやたらと消費させたくないだけーーお前に無理させたくないだけだからね」


サクラは、え、と目を丸くさせると、やがて赤く染めた頬を両手で包んだ。
ぽかんとしていたナルトが、にやりと笑う。


「にっしっしっし!なるほどなぁ、サスケ、お前ってばサクラちゃんのことを気遣ってたのか。相変わらず分かり辛い奴だってばーー」
「千鳥……!!」
「っておい!照れ隠しの仕方が笑えないってばよ!」


ひとしきり逃げ回ってから、ナルトはぜえはあと肩で息をすると、カカシに言った。


「でもカカシ先生ってば、よく今回の任務に参加できたよな。火影になったから、里外に出るのは会談のときとかだけになんのかと」


「まあ昔と違って、頻繁に里から出なくなったのは確かだな。影は里を狙う者たちへの抑止力のようなものでもあるしね。だけど今回は、比較的里から近い場所だったし、それにまあーーいまは優秀な補佐役がいるから」


ああ、とナルトは笑った。


「あいつは確かに、十分すぎるほどの抑止力だってばよ」


カカシはにこりと笑うと、それに、と神殿へーー先程まで交戦していた忍たちが去っていった場所へと目を向ける。


「確かに通常任務には参加しなくなったけどーー今回のこれは、通常任務じゃないからね」


カカシは三人に問う。


「それじゃあ、そろそろ行こうか。お前たち、準備はいいな」
「おう!」
「ああ」
「はい!」


カカシが頷いたのを皮切りに、四人は地を蹴った。
くすんだ灰白色の壁を横目に、所々にひびが走っている床を駆ける。


「しかし、オビトが狙われたときもそうだったように、やはり今度の敵は、特異な術を扱う忍たちーー血継限界を持つ忍たちばかりのようだな」
「珍しい術ばっかだもんな」
「どんな術が出てくるのか予測ができないし、全員が全員、強い。それにーーいったい何なの、あの気迫」


呟くと、サクラは目を伏せた。
敵の血走った目が脳裏に蘇る。


事の始まりは、二週間程前のこと。
雲隠れの里で行われる会談へ参加するため、カカシ、オビト、シズネの三人で森の中の道を歩いているときのことだった。
濃密な殺気に似た気配が全身を突き刺してきて、瞬時に構えを取った三人は、次いで驚いた。
会談への道中で狙われるとなれば、それは大抵が影だ。
会談や祭典など、何かの行事のときにしか基本的には里から出ない、並びない存在を狙うことのできる好機が、そのときだから。
しかし林から飛び出してきた五人の敵は、一斉にオビトへと襲い掛かった。
軽く眉根を寄せたオビトは、しかし避けることなく、向かってくる敵たちを冷静に見据え、観察する。


覚えのない顔だがーー。


思ったところで、敵の一人が自分へと翳した手から尾獣の気配に似た何かを感じ取って、オビトは瞠目した。
脳裏に蘇るのは、数年前の自分ーー十尾の人柱力となったオビトは、その身に尾獣を取り込んだため、攻撃を無効化することができなくなっていた。


ーーなんだ、この攻撃は。


咄嗟に飛び退いたオビトの背に、別の敵の攻撃が迫る。
しかしそれをカカシが防いだ。
クナイで敵を弾き飛ばしたカカシは、シズネへ目配せする。
意図を汲み取ったシズネが瞬身の術で去るのを見届けてから、背中を合わせた背後のオビトへ言った。


「護衛役はお前じゃなかったか?オビト」
「別に守ってくれとは言ってないだろう」
「お前さっきあのままじゃ、無傷じゃ済まなかったでしょ」
「黙れカカシ。それはお前の勘違いだ」
「はいはい。まあそういうことにしといてあげる」


カカシは、先程自分が弾き飛ばした敵を見た。
男はオビトに向けていた血走った目を、いまはカカシへと向けている。
どうやら邪魔をするなら容赦はしないということらしい。
カカシは、やれやれ、とため息を吐くとクナイを構え直した。


「お前も大概、人気者だな。オビト」


そうして時を同じくした頃、サスケから木ノ葉へと文が届けられた。
鳥の首に掛けられた巻物を開けば、記されていたのは、旅の道中で襲撃を受けたという報せ。
写輪眼をその目に宿す二人が襲われたこと、そして破格の強さを誇る二人が、いくら数で劣っているとはいえ敵を退けるに終わり、捕らえることができなかったことを受けて、木ノ葉は調査隊を出すことを即断した。
そして数日後、自分を襲った四人の忍を見つけたという連絡をサスケから受けたカカシは、自分が出ると言うオビトを言いくるめーー憮然としたままだったがーー任務に就くといってきかないナルトとサクラをメンバーに加え、そうして懐かしい面々での任務を開始させた。


廊下を駆けながら、サクラは僅かに身震いした。
敵の気迫は、思い出しただけでも身を怯ませるほどのものだったが、サクラにとっては、それがサスケへと向けられていることの方が耐え難い。
前を走るサスケの背中を見つめると、サクラは手を握りしめる。
そんなサクラを見て取って、カカシが言った。


「まあでも、サスケじゃないがーーあまり気を張りすぎるなよ、サクラ」 
「カカシ先生までーー心配してくれてありがとう。でも私は大丈夫だから」
「それならいいけど。最近のお前は、昔よりもどこか無茶をするというか、自分を省みないところがあるからね」
「そう?」
「そうそう。それってば、俺も思ってたってばよ」
「ナルトまで」
「でも、それを言ったらカカシ先生もなんだよな」
「俺が、どうかした?」
「いや〜なんていうか、カカシ先生って昔よりもさらに、俺たちの仲を取り持ってくれるようになったっていうか。もちろん、昔から俺たちのこと見守ってくれてたけど、基本的には自分で解決することも大事だからって、俺たちに任せてくれてたから」


まあ、とナルトは笑う。


「いまは俺たちももう大人になったから、カカシ先生も対等に接してくれてるってことなんだよな、きっと」
「ーー俺たち、か」
「……おい、なんだってばよサスケ。その目は」
「いや、ただ、大人の意味を理解しているのかと思っただけだ」
「お前だけは昔っから何にも変わらねえってばよ……!」
「お前ら、いまが任務中だって分かってる?それにーー」


第七班は長い廊下を駆け抜けて、大広間へと飛び出した。
天井が所々欠けているらしく、陽光が柱のように射し混んできているその場所はどこか幻想的だ。


「どうやら向こうも、待ちくたびれたようだからな」


だが、それに見とれている暇もなく、再び敵が現れる。
サスケを狙いにくるだろうと、その前に飛び出そうとしたカカシは、しかし敵たちがサスケと、そしてナルトの前に現れ僅かに眉根を寄せた。


(やっぱり、さっきもそうだったが敵はサスケと、次にナルトを狙っている……サスケを狙うにあたって、一番障害になるのがナルトだからか……?)


思いながら、カカシは戦力を分散させようとナルトを狙った敵の攻撃を防ぎ、かつクナイを振る。
敵はじれたようにサスケに目を向けたが、余所見をしながら戦える相手ではないと思ったのか、カカシへと向き直った。
また一方ではサクラが、サスケに向かった敵へと拳を振りかざし、そうして一対一での攻防が繰り広げられる。


呪詛が書かれた札のようなものを武器に使ってくる相手の攻撃を見定めながら戦っていたサスケは、視界の端で、サクラが体を折ったのを認めて瞠目した。
はっとして振り返れば、目眩でも起こしたのか踏鞴を踏んだサクラの腹に、敵の拳が叩き込まれる。
呻き声を上げながら退いたサクラに、追った敵が翳したクナイが迫る。


(あいつ、やっぱりチャクラが……!)


サクラを三者が呼ぶ。
しかし駆け出そうにも、目前の敵がそれを許さない。


「お前に興味はない」


新緑色をした瞳にクナイが迫るーーそのとき、琥珀色の長い髪が靡くのをサクラは見た。


「響遁ーー重音の術」


突如として現れた女ーーナルトたちと同じ歳の頃だろうーーは印を結ぶと、握ったクナイを敵のそれにぶつける。
敵が吹き飛び、地面を転がっていく。
突然の乱入者に皆が固まる中、女はサクラを振り返った。

「怪我はない?」
「えーーええ」


困惑しながらも女の問いに首肯したサクラは、次いで目を見開いた。
見覚えのない女は、しかしサクラの無事を心から喜んでいるようだった。
ほっとしたように笑った女は、敵へ向き直ると再度印を結ぶ。
そして足を踏み鳴らした。
途端に敵四人が体の自由を奪われたかのように動きを止めると困惑の声を上げた。
しかし一人が、何とか片手で印を結ぶと、溶遁に似た液体を女に向かって吐き出す。
女は表情を変えずに、向かってきているそれに向けて手を翳した。


「なんだと……!?」


すると粘り気のあるそれは空中で動きを止める。
驚愕している敵を余所に、女は腕を振った。
女の手の動きに合わせ、それは術者へと戻っていく。
女はちらりとナルトたちに目を向けた。
その意図を察した三人は、それぞれが相対していた、未だ固まったままの敵を吹き飛ばし、あるいは蹴り飛ばす。
女は僅かに口元に笑みを浮かべると、両掌を合わせた。
一カ所へと集められた敵四人を捕らえるように液体が巻きつく。


「捕獲完了ーーだね」


女は言うと、捕らえた者たちに向かって歩き出した。
近付いてくる女を睨みつけ、四人のうちの一人が問う。


「何者だ」


言った言葉が、別の者から発せられた言葉とまるきり被って、問うた男は驚いて声の主ーーサスケを見た。
サクラを守り、そして自分たちを捕らえたこの女は当然、木ノ葉の味方だとばかり思っていた。


「私はーー」


女は言い差すと、目を伏せた。
その様子を見て取って、ナルトが女を庇うようにしてサスケとの間に入る。


「サスケ、お前ってば相変わらず愛想がねえってばよ。サクラちゃんを助けてもらったんだからーー」
「こんな寂れた神殿に、このタイミングで入ってくる奴を怪しまない方が可笑しい。ーーサクラ、お前はまだこっちに来るな」


駆けてこようとしたサクラを、サスケは目を向けて制した。
すると女が咳き込んだ。
口元を手で覆って、何度か咳をする女に、サクラが止めかけた足を再び踏み出す。


「もしかして、さっき私を守ってくれたときに何か攻撃を受けたの?」
「げほっ、げほっ……ううん、大丈夫」
「でもーー」


食い下がるサクラに女は、心配ないというように笑って首を横に振った。
女はサスケに向き直る。


「私がここに来た理由は、私も彼らを追っていたからだよ」
「ってことは、まさか」


言ったナルトに、女は頷く。
女はナルトたちを順々に見ると、静かに言った。


「私の大切な人たちも、彼らによって、命の危険に晒されているから」


だから、ここへ来たーーそう言う女に、カカシが問う。


「君、見たところ額宛てを付けていないけど、もしかして小さな隠れ里の忍なのかな」
「いいえ。私は、どこの忍でもありません」
「そう……まあ、例えば希少な体質や忍術を持つ忍たちの中には、その特異性から、隠れてひっそりと暮らす者たちも多いからね。君にもどうやら、そうした事情があるのかな」


その言葉に、サスケがちらりとカカシへ目を向ける。
女は何も答えず、ただ微笑う。
その笑顔がどこか悲しそうに見えて、ナルトは思わず言った。


「で、でもさ、隠れて暮らしてるって言っても、一人なわけじゃねえよな。だってお前ってばさっき、大切な人が狙われてるって言ってたから、つまりそれってば、そういう奴がいるってことだろ」


女はただ、うん、と微笑ったーー同じ笑顔で。
何とも言えない気持ちを感じていれば、女は捕らえられている者たちに向かって一歩を踏み出した。


「どうしてこんなことを?」
「……お前は、誰だ。俺たちはお前なんて知らない」
「私のことはどうでもいいです。大事なのは、なぜあなたたちが彼らを狙ったのか、です」


歯を食いしばると睨みつけてくる者たちに、女は眉を顰めた。


「そんな目をするほどの思いがあるなら、言葉にして、教えてはくれませんか。……私はあなたたちが彼らを狙う理由が、まだ分からない。あなたたちと彼らを繋ぐ何かを、見つけられていないんです」
「……お前なんかに、俺たちの気持ちは分からないさ」


吐き捨てるように言った男に、女は俯いた。
やがて顔を上げるとカカシに問う。


「彼らはこの後、木ノ葉へ?」
「ああ。ーーさすがに木ノ葉隠れの額宛ては知ってたんだね」


女は明るく笑った。


「そりゃあ、どこの里に属していなくても、忍であれば知っていますよ。だからーーあなたのことも」


女は眩しくカカシを見上げる。


「驚きました。まさか六代目火影様が自ら任務に参加されているとは思ってなくて」
「カカシ先生のことも、知ってたのか」


頷く女に、ナルトは笑うと頭の後ろで手を組む。


「知ってたらやっぱり、そう思うよな。でも木ノ葉には、他にもつえー奴らが大勢いるんだってばよ」
「うん……そうなんだ」
「ああ。オビトもいるしーー」
「オビトーー」


女はその名を繰り返し言うと瞠目した。


「まさか、あのーーうちはオビト?」
「あの、って……ああ、そっか。オビトのことも、そりゃあ知ってるよな」
「だってオビトさーーうちはオビトは、暁に入ってた。それなのに木ノ葉隠れの里の、大事な戦力なの?火の、一つなの?」
「ああ……あいつってば、頑張ったんだ」


女はやがて、そう、とだけ言った。
俯いたため表情は伺い知れないが、震える両手を胸の前で握りしめている。
そんな女を見ていたカカシはやがて、どうかな、と腕を上げた。


「君さえよければ、この後俺たちと一緒に、木ノ葉へ来てほしいんだけど。どうかな」
「木ノ葉へ……ですか?」
「ああ。君が持っている情報と、俺たちが持っている情報のすり合わせも、させてもらいたいしね」


迷う素振りを見せた女に、サクラが言う。


「それ、私からもお願いしたいな。助けてもらったお礼もしたいし」


女は明るく笑った。


「当然のことをしただけだよ。お礼をしてもらうようなことじゃない」


言われて、サクラは驚くと、思わず笑ってしまっていた。
女の屈託のない笑顔は、こちらまで笑顔になってしまう。
サクラは女の手を握ると、その目を見つめた。


「ね、お願い。さっきの咳も少し気になるし、木ノ葉で少し休んでいったら?もちろん、無理強いはできないけど」
「サクラちゃんの言うとおりだってばよ。大事な奴らが狙われてて、焦る気持ちも分かるけど、きっと情報は俺たち木ノ葉の方が持ってるし、こういうときこそ助け合おうってばよ」


暫し思案していた女は、やがて俯きがちに言った。


「頂く厚意にお返しできるほどの情報は、差し上げられませんが……」
「ああ。構わないよ」


言ったカカシに女は、それなら、とまだどこか遠慮がちに微笑った。


「よーし、それじゃあ木ノ葉へ、帰るってばよ!ーーそういえば名前、まだ聞いてなかったよな」
「ああ、そういえばそうね。私は春野サクラ。何度も言うけど、さっきは助けてくれて本当にありがとう」
「んでもって、俺はうずまきナルト。あっちの、ぼーっとしたのがカカシ先生でーーまあ知ってたみたいだけどーーあの目つきの悪いいけ好かないのがサスケだってばよ」
「サスケ君のどこがいけ好かない、ですって……?」
「ちょ、ちょ、サクラちゃん、待つってばよ。俺ってばまず、こいつの名前をーー」
「あんたが変なこと言うからでしょうが!この、馬鹿ナルトーっ!」


サクラの拳を受けてナルトが叫び声を上げる。
ぽかんとしていた女は、そんな二人を見て、くすくすと笑った。
ナルトとサクラは顔を合わせると、笑い合って、そして再び女に名前を聞き始めた。

そんな三人を見ながら、サスケがカカシに言う。


「木ノ葉へ連れ帰らずとも、ここで聞き出す方法もあったと思うが?」
「それじゃあさすがに性急に過ぎるでしょ。あいつらと違ってあの子は俺たちを助けてくれたんだし」
「演技の可能性もある」
「まあね。どこの隠れ里にも属さない彼女が俺たちを助けて、しかもあんなふうに心の底から安堵する理由がない。……まあ見たところ人が良さそうだから、単純に人助けが好きなんだと言われても納得しちゃいそうだけど」
「……まあ確かに、演技できるほど器用そうには見えない。が、あいつはさっき、オビトの名を聞いて驚いた。そうしてオビトが木ノ葉で重宝されていることを知ると体を震わせていた」


今回狙われたオビトとサスケは、どちらもうちはを背負う者であり、またどちらもその目に写輪眼を宿している。
だが二人には、他の共通点もあった。
それがーー暁。
かつてあった、S級犯罪者で構成された小組織だ。
二人はどちらも、かつてそれに属していた。
周囲の者より、誰よりも先に、二人が言った。
自分は闇の中を歩いてきて、いくつ恨みを買っているか分からない。
命を狙ってくる者がいて当然だーーと。


カカシはちらりとサスケに目を向けると、そのまま視線を女へ移す。


「それに、さっきの彼女の術」



「しかし、オビトが狙われたときもそうだったように、やはり今度の敵は、特異な術を扱う忍たちーー血継限界を持つ忍たちばかりのようだな」
「そう……まあ、例えば希少な体質や忍術を持つ忍たちの中には、その特異性から、隠れてひっそりと暮らす者たちも多いからね。君にもどうやら、そうした事情があるのかな」



「響遁、か。ーーどうやら、少し調べてみる必要がありそうだな」


視線の先では、女が微笑っているーーどこか悲しそうに。


「私はね……私の名前はーー」





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