舞台上の観客 | ナノ
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「#年下攻め」のBL小説を読む
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「しゃーんなろうがぁ!!」


懐かしい旧友の掛け声が、しかし友のそれとは違う声で聞こえて、私は振り返ると眩しくそれを見上げた。
父譲りの写輪眼をその目に宿し、同時に母譲りの怪力も持ち合わせているのであろうサラダがーーサスケとサクラの愛娘が宙に飛び上がり、いままさにその拳を一つ目の生物へと叩き付けようとしている。


……まあ、あの生物の気持ちも分からないわけではない。


恐らくあれは、大人シンの能力のうち、便利であったり必要なものであったりのみを宿した分身のようなもの。
だからあの生物は時空間忍術を使うことができるし、一つ目を通して見た景色を大人シンが共有することもできる。
そう、つまりあの一つ目は白眼や時空眼のように、ベストポジションをゲットできる可能性がある目なのだ。
白眼はいくら障害物があろうとそれらを透けて対象物を見ることができるし、時空眼も、過去や未来を見ることによってそれが叶うーー実際、赤裸々に見えすぎてかえって見れないのだが、まあそれはまた別の話だ。
とにかくあの生物も、足が短くて行動するのが大変そうだが、たとえ自分が離れた場所にいても、別の場所で発生した物語を見ることができるのだ。


……分かるよ、その気持ち。


分かるよ、サラダを見つめてしまうその目ーーと思ったところで、サラダの拳が一つ目に直撃した。
私は自分の目を殴られた気分で、目を押さえる。


ありがとうございます!!
ーーじゃなかった、ごめんなさい、だ。


恐る恐る生物を見やると、吹き飛ばされて地面を転がった一つ目は無惨にも潰れている。


や、やっぱりプライバシーを侵害するのは良くないよね……。


ナルトがシンたちに降参するよう諭しているのを聞きながら、私は自分の瞼をそっと撫でた。


「ーー名前!!」


すると名前を呼ばれて、私は振り返った。


「我愛ーー」


名前を呼び掛けて、目を開く。
私は我愛羅に、苦しいくらいに抱きしめられていた。
我愛羅の向こうに、苦笑するように笑っているナルトが見える。
すると我愛羅は少しだけ離れると暁の衣を掴み、じとりとした目を私に向けた。


「……なんだこれは」
「あ、その……これはね、我愛羅」


私は目を逸らすと必死に頭を回転させた。


大したことじゃない、はさっき失敗したからーー。


「よーーよかれと思って」


すると我愛羅の目の色が強くなったので、私は再び失敗したことを知った。
我愛羅は外套を乱雑に剥ぐと、地面へ投げ捨てる。
現れた私の腕に目を向けて、我愛羅は問う。


「怪我は」
「えっと、自宅のときの?それはサクラに治してもらったんだ」
「他には……ないようだな」
「うん、大丈夫だよ」
「だが先ほど、目を押さえていた。時空眼を、使わされたのか」


その問いに、私は僅かに息を呑んだ。
目を落として、ごめん、と謝る。


「ごめん、我愛羅。時空眼を使わないっていう約束、破ったんだ」
「……そうか」
「それに、使わされたんじゃない。自分から使ったの」


我愛羅は何も言わずに、ただ私を抱きしめると大きく息を吐いた。
その息と、そして抱きしめてくる手が震えていることに気付いて目を見開く。


そっか、私またーー。


私はそっとその背に手を回した。
胸に顔を当てて、震える我愛羅の体を抱きしめる。


「ごめんね、我愛羅。私は無事だよ。……助けに来てくれて、本当にありがとう」


それにーーと私は続けて、


「カナデのことも、守ってくれてありがとう」


私は我愛羅から少し体を離すと額を合わせた。
いまだどこか怒っているような、それでいて不安を湛えているような目を見つめて微笑う。


「我愛羅、大好き」


我愛羅は私の髪に顔を埋めると言った。


「俺もだ……愛している」


私は、うん、と笑った。
やがて我愛羅は離れると、少し離れたところでにこにこと笑っていたカナデを向いた。


「カナデのところへ」


私は頷くと、カナデを呼んだ。
笑っていたカナデは、しかしやがて顔を歪ませると駆けてきた。
地面に膝を付いて両腕を広げれば、私を呼びながら飛び込んでくる。


「母様、母様……!」
「カナデ、よく頑張ったね。怖い思いをさせて、本当にごめんね」


背中を撫でれば、カナデは涙が浮かんだ目元を拭って、ううん、と笑う。
なんだかまた成長したように思える息子を見て、私も笑った。


「父様に報せてくれてありがとう。カナデも一緒に助けに来てくれたのには、ちょっと驚いたけど」


言えば何故だかカナデは我愛羅を見上げた。
つられて我愛羅を見上げれば、我愛羅はカナデを見て、そうして微笑った。


「無茶をした母様には秘密だ。……な?カナデ」
「ーーうん!」


状況が呑み込めなくて首を傾げれば、二人は顔を合わせて笑った。


やがて私たちを呼ぶナルトの声が聞こえた。
我愛羅はナルトとサスケと、そしてカナデは、ここまでの間でどうやら仲良くなったらしい、チョウチョウーーチョウジとカルイの娘だーーとそれぞれ話し始める。
私は、サクラの隣で私を見上げているサラダに気付くと屈んでにっこりと笑った。


「久しぶりだね、サラダ」
「久しぶり……ですか?」
「うん。覚えてないと思うけど、私何度かサラダに会ったことがあるんだよ」
「まあ、覚えてないのも無理ないわね。いまよりもっと子供のときのことだから」
「ママ」
「サラダあなた、名前に何度も抱っこしてもらってたのよ」
「えっ、嘘!……全然覚えてない」


どこか呆然としたように言うサラダに、私はサクラと笑い合った。


「それにしても、相変わらず可愛い。サスケとサクラにそっくりだね」


サラダは目を見開くと、窺うように私を見上げた。


「……ママにも、似てますか?」
「えっと、うん。ーーああ、もしかして父親似だって言われることの方が多いの?」
「……まあ、そんなところです」
「確かに一見すると、サラダはサスケ似だよね」
「で、でも、ママにも似てるんですよね?」
「うん。そっくりだよ」
「そ、それってたとえばどこらへんですか?」
「どこ?」


私は顎に手を当てながら唸るとサラダを見る。
緊張した面持ちで私を見るサラダと目が合って、ああ、と笑った。


「目かな」


サラダは、えっ、と驚くと不安そうに私を見る。


「目って……でも私、写輪眼も開眼したし、だから目が特にパパに似てると思うんですけど……」
「そうだね。でもーー」


「サクラは素敵だよ、とっても強い、女の子だ」


「サクラと同じ、強い目をしてる。きっとサラダは、サクラに似た、心も体も強いくノ一になるんだね」


にっこり笑って、私はサクラを見上げた。
サクラは優しく微笑うと、サラダの肩に手を置く。
サラダはそんな母親の目を見つめると、私を見てはにかんだ。









それから砂隠れの里へと戻り、木ノ葉との連絡やら報告やらを済ませ、今後の対策や調査について話し合っていれば、日はとっくのとうに暮れていた。
自宅に帰れば、ぐっすり眠り込んでいたカナデの髪を撫でて、ずれていた布団を掛け直すと、静かに子供部屋の扉を閉めた。
居間に戻ると、ソファーに腰掛けていた我愛羅が私を認め、腕を広げる。


「名前」


私は近寄るとその腕に体を預けた。
抱きしめられて、すると鍾乳洞での震えていた手を思い出す。


シンと、あの一つ目の生物がこの居間に現れ、そうして彼らに着いていくことを決めたあのとき、私は、まさか我愛羅とカナデが私を追ってきてくれるとはまるで思っていなかった。
ーー自分が彼らに着いていくことは、別に大事ではないと思ったのだ。
それは、サスケの不貞を探るものだとばかり考えていて、まさかその裏に、暁の復活やらを企んでいた者がいるとは思っていなかったことも理由の一つだが、突き詰めれば私が昔抱いていた考え方に繋がるだろう。


「……私のことなんて、どうでもいい」


呟けば、我愛羅は肩を掴んで体を離した。
信じられないといった顔で見てくる我愛羅の両頬を包む。


「ごめんね、我愛羅。私また、昔と同じ考え方をしちゃってたんだね」


安心したように体の力を抜いた我愛羅に、苦笑するように笑った。


「自分では思ってなかったんだけど、もしかしたらちょっと、焦ってたのかな」


だってーーと、私は続けて、


「いまはもう、ちゃんと考えれば分かるよ。時空眼を開眼しようと攻撃してきた人たちと一緒に私が時空間忍術で姿を消して、カナデが恐れないはずない。そしてーー」


「我愛羅に言っておいてくれないかな。少し出てくるけど心配しないで、って」


「そんな顛末をカナデから聞いた我愛羅が、心配しないはずない、って」
「……分かってくれれば、いい」


頬を優しく撫でてくれる我愛羅の手に目を瞑る。
私は、でも、と微笑んだ。


「分かっても、やっぱり嬉しい。助けに来てくれて、ありがとう」
「……俺はもう二度と、名前を失うつもりはないからな」


私は、うん、と言うと再び体を我愛羅へ預けた。
抱きしめようとして、震える自分の指先に気が付き手を握りしめる。


忘れていたわけじゃない。
だけど、対極とも言える場所に長くいたことで油断、していたのかもしれない。


時空眼、そして暁ーーそれはどちらも、闇をも引き寄せるもの、或いは闇そのものであり、そして私はそのどちらもに関わりがある。
それらを利用しようと目論む不穏分子について各里が網を張り、注視していたことも知っている。
そして私はカナデを産んでからは、表立っての任務には参加していない。
もちろん妊娠と同時に前線を退くくノ一が大半であるし、そのまま忍を引退する者も当然いる。
だが子供が下忍になり任務で家を開けることが多くなった、など契機は様々だが、各々のタイミングで復帰している者もやはり多くいる。
けれど私はそれをしていないーー秘密裏の任務には参加しているが。
そのことについて以前我愛羅と話し合ったのは、時空眼そして暁に関する極秘任務に参加したときのことだった。


「あのね我愛羅、私、カナデが下忍になったら復帰したいと思ってるんだけど……」
「……いつかその話をする必要があるとは思っていた。お前の性格からして、自分で役に立てることがあるのであれば、躊躇なく全力を注ぐだろうからな」
「世界は平和になったーーとは言え、それは昔に比べればの話。程度の差こそあれ、事件や問題は無くならないし、不穏分子はいまでもどこかに存在している。それにいつまた驚異が現れるかも分からない。ちょっと勘が鈍っちゃっているかもしれないけど、復帰までにはきっと戻すよ。そうしたら、また役に立てると思ってる」
「いや、名前は十分すぎるほどの戦力だ。……それに、風影としてはお前の任務復帰を止めることはできない。……前に上役たちと、その件について話し合ったことがある。暁や時空眼について何か目論んでいる奴らからすれば、名前が通常任務に出ていた方が都合が良い。里ではなく、基本的には三人一組を相手にすればいいからな」
「でも真に欲している者なら、たとえ私が里から出なくたって関係ない。里を相手取ってまで狙ってくるーーかつて私が、我愛羅を浚いに来たときのように」
「……そして万が一の時、どちらの方が被害が大きくなるかと言えば、それは里が襲撃されたときだ。里の方が戦力は大きいが、非戦闘民ももちろんいる」
「対して三人一組なら全員が忍。敵を退けることができるし、仮にそれが叶わなかったとしても、生き延び、里へ伝達できる可能性が高い。……もちろん、どちらの場合であったとしても、絶対に皆を死なせたりなんてしない。だけど、どちらを取るかと言われたらーー」
「だが」
「我愛羅……?」
「だが俺個人のーーお前の夫であり家族であり、ただお前を愛する者としての意見を言うならば、賛成できない」
「……うん」
「お前は強い。それは分かっている。それに狙われる可能性がある希少な能力だからといって、ならば全員が全員、里に閉じ込められているのかと言われればそうではない。それではかつての人柱力の二の舞にもなりかねない。お前ほどの忍が、自ら使われることを望んでいるのにもかかわらず、それをしないのは贅沢に過ぎるだろう。だが……もしも手放した先で惨事が起きたらと思うとーーまた手の届かない場所に行ってしまったらと思うと……」



そう言うと震える腕で私を抱きしめた我愛羅のその言葉はとても嬉しく、幸福に思ったし、気持ちは痛いほどに分かった。
私も、もし我愛羅やカナデに何かあったとしたら、その責が自分にないとしても、きっと許せない。
他の誰でもない、自分を。


結局その後、あまり話は進展せず、変わらず私は極秘任務にたまに参加しているだけだった。
ーーだが。


「……我愛羅、私やっぱり、忍に復帰したい」


我愛羅の目を真っすぐに見返す。


「任務の内容は、これまでどおり極秘なものでも全然いい。そうした明るみには出せない内容の任務において、私は他の人よりも役に立てる可能性が高いから。だけどこれからは、みんなが危険を冒したり、傷を負った上で確保された安全な時から参加するんじゃなくて、最初から参加したいの。ーー相手が私を狙っているなら、私が出る」


言った私に、我愛羅は僅かに瞠目すると、やがてため息を吐いた。


「相変わらず、こうしたことでのお前は馬鹿だな」


言って我愛羅は、だが、と苦笑するように笑って私の頬を撫でた。


「そういう名前も含めて、俺はお前を愛した」
「我愛羅ーー」
「だがまた自分を軽視するようなことがあれば、二度目はないからな」


ぽかんとしていた私は、やがてだんだんと頬が紅潮してくるのが分かった。
風影としても、我愛羅個人としても、私の任務復帰を認めてくれたのだと気づいた。
私は我愛羅の首に手を回すと抱きしめる。


「ありがとう、我愛羅!私ちゃんと頑張るから」
「お前の場合、頑張らなくていいから気をつけてくれ」
「うん、気をつけることも頑張る」


我愛羅は小さく笑うと私の背中をあやすように撫でる。
私はにっこり笑って我愛羅を見た。


「でも、大丈夫だよ、我愛羅」
「大丈夫?」
「うん。……私昔、言ったよね」


「私もう、これだけでずっと幸せに、生きていけるよ」


「あのときは、こんな幸せ、ないんだと思ってた。我愛羅が私へ抱いてくれた気持ちがなくなって、私の想いだけが残ってしまうことは、身を引き裂かれるくらいに辛くて悲しいことだと思った。でも、そんなにも辛く思うのは、それだけ抱いている想いが大きくて、あたたかいものだから。そんな気持ちを抱けたことが、幸せだった」


でもーーと私は苦笑するように笑う。


「もう多分、無理、だと思うんだ」
「無理……?」


我愛羅やカナデが不幸な目に合うことが分かれば、私は何としてでもその未来を回避しようとするだろう。
そして、それでも最悪な結末を迎えてしまったとき、私はきっとーーいや、必ず時空眼を使う。
二人は生きていて、けれど私のことは覚えていないーーそんな未来で果たして生きていけるのかーーなんていう問いは、そもそもいらない。
だって私のこれからに、そんな未来は絶対、起こさせないから。


「たくさんの過去を抱えて現在を生きて、そして未来を作っていきたい」
「名前──」
「我愛羅と、カナデと、ずっと一緒にいたい」


瞠目した我愛羅は、やがて優しくその目を細め、ああ、と呟いた。
私のことを抱きすくめる。


「ああ・・・・・・そうだな」


名前──と、我愛羅は額を合わせると私を見つめた。


「ずっと共に、同じ時を生きていこう」











「──さて、と」


砂隠れの里待機所の屋上で、カナデら三人一組の担当上忍となった男は口を開いた。


「待たせて悪かったな。お前ら、ちゃんと自己紹介は考えてきたか?」


その問いに、三人のうち一人はまるで表情を変えず、また一人は不機嫌そうにそっぽを向いた。
上忍はため息を吐き掛けて、ふとカナデに目をやると僅かに瞠目した。


この数日の間に風影と、その家族に何が起きたのかは知っている。
そして初めにその話を聞いたとき、担当上忍は頭を抱えた。
どこか頼りなく、自信なさげな少年は、きっと怖い思いをしただろう。
これはさらに班の先行きが危ないぞ──と危惧した。


しかし──と、担当上忍はちらりと口元に笑みを浮かべた。


予想に反して、あの事件は少年に良い影響を与えたらしい。
自分のことをまっすぐに見上げてくるカナデに、上忍は言った。


「どうだ、カナデ」


しかし答えたのは、不機嫌そうにそっぽを向いていた少年の方で、じとりとした目をカナデに向ける。


「どうせ風影だろ」


カナデは明るく笑った。


「ううん、まだ分からない」


これには全員が目を丸くさせた。
上忍は腰掛けていた柵から少し身を乗り出す。


「分からない、なのか?風影になるでも、ならないでもなく」
「はい、先生。僕は、こうと決められるだけの何かを、まだ見つけられていないから」
「こうと決められるだけの何か?」


もう一人の班員である少女が首を傾けた。
カナデは、うん、と少女に視線を移す。


「たくさんの選択肢があって、あるいは大きな壁があったとしたって、この道を進むんだっていう強い気持ちを持てる何か」


僕には──と、カナデは自分の掌に目を向ける。


「色んな道があると思うんだ」
「風影様のご子息だからな」
「名字一族の末裔だもんね」


班員の言葉に、カナデは笑って首肯する。
そのことに担当上忍は、おや、と目を開いた。
たった数日前までこの少年は、偉大な両親の息子だと言われることに恐縮しているように見えたのに。


「道がたくさんあること、希少であったり強大な力があることは決していいことばかりじゃないけど、それでも僕はきっと、ううん絶対に、いつか見つける自分の信念に沿って進んでいく」


だって──とカナデは明るく笑った。


「僕は、父様と母様の子供だから」


カナデは言うと班員を見つめる。
これから先、共に任務をこなしていく──共に未来を歩んでいく仲間を。


「これがいまの僕の夢」


もう一方の少年が鼻を鳴らした。


「寄り道してるんだったら、俺が風影になっちまうからな」
「きみ、風影になるのが夢だったの?」
「んだよ、悪いかよ!」
「ううん、まさか」


カナデは、でも、と悪戯気に笑う。


「もし僕が将来、風影を目指すようになったら、そのときは負けないからね」
「やってみろよ、お坊ちゃんが」
「・・・・・・ライバルが大勢ね」


ぼそりと呟いた少女を、二人が振り返る。


「っていうことは」
「まさかお前も」


少女は、うん、と頷いた。


「私の夢も、風影」


その言葉を聞いて、担当上忍が大きく声を上げて笑った。


「里を担っていこうとする若い奴らが大勢いて、砂の将来も安泰そうだな」


言って彼は、でもまあ、とにやりと笑う。


「意気込むお前たちには悪いが、次の風影になるのはこの俺だからな」


生徒たちは目を丸くさせた。


「先生もですか?」
「お前も風影になりたいのかよ」
「どうして?」
「まあいまとなっては他の理由も色々あるが──」


彼は眼下の公園を見下ろした。
三人の生徒よりもさらに幼い子供たちが楽しそうに遊んでいる。
脳裏に甦るのは、そんな頃の自分の姿。
恐れ多くも、風影に指を突きつけていたあのとき。


「決めた!お前なんかを風影にはしとかねえ!」
「だから、おれが風影になってやる!!」



「きっかけは、俺の初恋を脆くも崩した人を倒すため、だな」


笑った上忍に、生徒たちは揃って首を傾げる。


「倒すって、だ、誰をですか?」
「どういうこと・・・・・・?」
「わけ分かんねーよ」


畳みかけられて、上忍はぐっと言葉に詰まる。


「うるせーな!いいから任務行くぞ、任務!」
「話、逸らした」
「さては俺たちの担当上忍って馬鹿なんだな、きっと」
「うるさいんだよ、お前は・・・・・・!ったく、いいからさっさと、お前たちの初任務を発表するぞ」


言えば、一転して気を引き締めるとどこか緊張したような表情を見せる三人を、彼は見回した。


「覚悟はいいな?」


カナデは笑って、頷いた。




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