舞台上の観客 | ナノ
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「#甘甘」のBL小説を読む
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とある日の夜、私は第十班の三人と、ナルトとサクラ、それに途中からやって来たヒナタと一楽で夕飯を食べていた。
頬を赤らめた後輩の女の子たちに絡まれているナルトを見て、ヒナタはただ俯いていた。
そんなヒナタを不安に思ってちらりと窺い見ていれば、隣に座るいのが言った。


「ねえ名前、サイ君の好きなものって何だと思う?」
「好きなもの?――ああ、輪廻祭で何かあげるの?」


笑いながら訊いて、私は壁に貼られたポスターを見上げた。
季節は冬、木ノ葉の里では輪廻祭が開催されていて、確か一楽だけでなく先日サクラと行った甘味処の店内にも、輪廻祭についてのポスターが貼られていた。


そうなの、と言ういのを微笑ましい思いで見やってから、私は顎に手を当てると唸った。


「そうだね……サイと言えば本とか絵っていうイメージがあるけど」
「やっぱり?私もそれは考えたんだけど、でもちょっとありきたりじゃない?」
「それじゃあ、花を挟んだしおりとか、花から作った絵の具なんかはどうかな。いののイメージにぴったりだし、サイも喜んでくれると思うけどな」
「花、かあ。うん、それ良いかも!ありがとう、名前」


笑って首を振れば、いのは含みのある笑みを浮かべて私に顔を寄せる。


「ところで名前は、誰かにプレゼントあげないの?」
「私が?それは特に考えていなかったな。お世話になっている人にあげるなら、皆に贈るんだけど」


輪廻祭でプレゼントを贈るとなれば、その相手は恋人や想い人というのが最近の主流らしい。
勿論そういう意味ではなく贈り物をするといったことも、あるにはあるらしいが、緊張に身を震わせながらも勇気を出してプレゼントを贈る人たちに混ざって、日頃の感謝の気持ちを伝えるつもりはなかった。


「そういうのじゃなくて、想い人にあげるってことよ」
「それじゃあ、やっぱりないよ。それに例えプレゼントしたところで、贈り主が私じゃあね」


笑って言えば、チョウジが「そんなことないよ」とふっくらと笑った。


「名前からのプレゼントをすごく喜んでくれる人はいると思うな。――ね、シカマル」
「なんで俺に訊くんだよ。……けどまあ、そうだろうな」
「あはは、ありがとう。やっぱり皆は優しいね」


言ったところで、椅子が鳴る音がした。
振り返れば、ヒナタが席を立ち、去っていってしまおうとする。
呼び止めれば、ヒナタは切なげな顔をして、それでも笑ってみせた。


「ごめんなさい。本当はお腹いっぱいで」


去っていくヒナタの後ろ姿と、女の子たちに囲まれたままのナルトを、私は眉を下げて見比べた。









「冬に食べるラーメンはまた格別だね」
「だな。まあ、ナルトはいつでもラーメンだし、チョウジはいつでも焼肉が一番だけどよ」


言ったシカマルに、そうだね、と私も笑った。

送ってくれるというシカマルの言葉に甘え、いのとチョウジに見送られ、帰路を歩いているところだ。
冬の、しかも夜で冷え込んでいるというのに、通りにはいつにもまして人が出ていて、大道芸を見たり、配られている甘酒を飲んでいる。

活気あるその様子を眺め、輪廻祭という文字の描かれた提灯を見上げて、私は両手に息を吹き掛けた。
指を擦り合わせれば、シカマルがそんな私の手を覗き込む。


「お前、手袋持ってねえのか?」


その問いに、私は苦笑しながら「うん」と答える。


「前までは、とても暖かいもこもことした毛糸の手袋をしてたんだけど、そのとき偶然にも敵に遭遇してね。素早く印が結べなくて、あわや大惨事になるところだったんだ」
「それを教訓に、手袋をしなくなったわけか」
「うん。上手く印を結べないし、だから外そうとすれば時間が掛かって」


言った私は、シカマルに手を握られて目を丸くした。
見上げれば、シカマルは前を向いたまま言う。


「これなら暖かいし、たとえ敵に遭遇したところで、すぐに離して印を結べるだろ」
「……確かに、そうだね」


ぽかんとしながら呟けば、シカマルは私を振り返ってちらりと笑った。


「それに、俺も暖かいしよ」


私は声を上げて笑い、繋いだ手を握り返す。


「良い案だね。やっぱりシカマルは頭が良いね」
「まあ里の中でまで手袋を外さなくても良いとは思うけどよ――」


シカマルがそう言ったときだった。
風を切る音が聞こえて空を見上げれば、建物から人が落ちてきた。
観衆が上げる叫び声を聞きながら、私は建物を駆けていく人影を目で追う。
それはナルトだった。








「――ヒナタ、ナルト、大丈夫!?」
「おいおい、一体どうしたんだよこりゃあ」


ナルトを追いかけて高い塔の上へと降り立てば、そこにはヒナタの姿もあった。
どうやら何者かに攫われたヒナタを、ナルトが助け出そうと追いかけていたらしい。
シカマルの問いに、ヒナタが困惑した様子で答えた。


「トネリっていう男の人が突然、私をどこかへ連れて行こうとして」
「トネリ……?知ってる奴か」
「ううん。ただ私を迎えに来たって、そう言っていた……」


私は驚いて目を見開いた。
そっとナルトを窺い見て、そうして顎に手を当てると低く呟いた。


「そのネトリっていう男、何だか嫌な予感がするね」
「う、うん。でもネトリじゃなくてトネリだよ、名前ちゃん」













「お前らの任務は、攫われた日向ハナビの救出だ」


翌日、火影室に召集された私は、カカシ先生から下された任務に目を見開いた。
カカシ班、シカマル、そしてヒナタという小隊と、その構成理由を説明していくカカシ先生の言葉をどこかで聞きながら、私は考え込む。


ヒナタを攫おうとした男が現れたのと同時刻に、ハナビちゃんが攫われた。
……偶然にしては、できすぎていないだろうか。
それに気になるのは男が言っていたらしい、ヒナタを迎えに来た、というその言葉。
日向家の財力や、白眼を狙うだけの輩とは、何かが違う気がするのだ。


「シカマル、手を出せ」


シカマルは怪訝そうに「何すか」と言いながら手を出す。
六代目さまの後ろに控えていた天文方の女性が印を結ぶと、シカマルの掌に時計が現れた。


「これは……」
「五影だけが持つ、最高機密の時計だ」
「これってば、何の時間だ?」
「地球が滅亡するまでの、タイムリミットだ」


驚きに目を瞠れば、シカマルが眉根を寄せる。


「解せねえな。ハナビの救出に、こんなもん必要ありますか」
「月を動かしているのは、ハナビを攫ったトネリなのかもしれない」


更に目を見開いた私の隣で、サイが問う。


「何か根拠でも?」


カカシ先生は短く答えた。


「俺の、勘だ」


私は、これまでに得た情報を頭の中で組み合わせると浮かんだ答えに、背筋を走る冷たいものを感じながら、カカシ先生に確認した。


「つまりネトリはヒナタを狙っていて、更には既にハナビちゃんを攫っており、果てには地球の滅亡を企んでいるということですか?」
「まだ断定はできないけどね。――あと名前、ネトリじゃなくてトネリね」


まさか奴の目的は、美人姉妹と自分だけの楽園を作るということなんじゃないだろうか。
だとしたら不味いぞ、とても。
私は昔からナルトとヒナタを応援しているし、何よりそんな変態にヒナタとハナビちゃんは渡せないだろう!






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