舞台上の観客 | ナノ
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爽やかな風を全身に浴びると共に、耳にクナイが交わる音や、爆発音が聞こえてくる。
ひどく心配そうな顔をしたナルトから、周囲に視線を移せば、祭壇の間には、シヘイの部下たちと交戦しているカカシ班の姿があった。
シヘイと交戦するサスケや、そして先に到着していたオビトさんが取っている行動を見て、おおよその事情を把握したのだろう。


だけど、詳細は分かっていないはずだ。


私は思って、ナルトを向いた。
苦笑するように笑って、ごめんね、と詫びる。


「一度だけ約束を破るね」
「約束って−−」


言いかけたナルトは、はっとすると目を見開いた。
他の味方たちも同様に。
−−時空眼を使って、皆に過去を−−事の顛末を見せたのだ。
勿論いまは戦闘中であるから、皆に隙を作らせることになってしまっては危ないため、肝心なところだけを、一瞬で見られるようにして。
それでも驚き、固まってしまうかもしれないが、そんなところを狙って繰り出された攻撃など、皆ならば必ずかわせると信じている。

迷いは動きを鈍らせる。
確信を得られないが故に少しでも迷いや戸惑いが生じれば、却ってその方が皆の身が危ない。
だから多少のリスクを冒してでも、皆に真実を伝えた方が良いと思った。

虚空を見ていたナルトの目が私に向けられる。
ナルトは大きく笑った。


「記憶と時空眼を、取り戻したんだな」


うん、と強く頷いたところで、私の名を呼ぶ声がした。
そちらを向けば、水晶に手を翳したままのソーヤ君が問うように私を見ている。


「行けってばよ、名前」


振り返れば、ナルトは笑って拳を叩いた。


「道は俺が、作るってばよ」


私は笑い、大きく頷くと駆け出した。
途端にどこかから矢が飛んでくる。
が、ナルトの影分身がそれを叩き落とした。


ナルトたち、そして仲間たちに守られながら台座へと辿り着いた私はソーヤ君を見て、にっこりと笑った。


「記憶、確かに受け取ったよ、ソーヤ君。届けてくれて、ありがとう」


安堵したように顔を輝かせたソーヤ君の、水晶を握る震えた手に、自分のそれを重ねた。


「だから、大丈夫だよ。ソーヤ君なら今度こそ、正しく水晶を扱うことができる」


もう二度と、一族と国を滅ぼすことはない。


ソーヤ君は固く頷き、そして目を閉じると、何事かを呟いた。


瞬間、水晶が再び輝き始めた。
球の中で青色が揺らめいたかと思えば、それは水となって水晶から溢れ出る。
水は台座に十字に掘られた溝を伝うと、金字塔を構成する石と石との間を流れていった。
水は左右へ脈々と流れていき、またどういう原理か、金字塔を上へ上へとも登っていった。
水が伝う先から、石が溶けて、金字塔が崩れていく。


そのとき手許で割れるような音がして、私ははっとすると水晶を見た。
未だ水が溢れ出ている水晶に、一筋の亀裂が入っている。


「ソーヤ君−−」


呼びかける間もなく水晶が一際強い光を放った。
と同時に亀裂が深まる音と感触がする。

そのとき私は、重ねていたソーヤ君の手が自分のそれよりも大きくなっていることに気がついた。
私ははっとしてソーヤ君を見る−−見上げた。

「ソーヤの成長を遅らせているのも、私共がソーヤに命令しやったんだ。子供は周りの油断を誘いやすく、また我々にとっては扱いやすいからな」

光の向こうに、微笑む青年の姿が見えた。












光が収まり、瞑っていた目を開けた私は、思わず声を上げた。
そこはもう、私の知っている埃の国ではなかったからだ。

象徴と言える金字塔は、跡形もなく消えていた。
昇り始めた朝陽が眩しい。
足を擽る感触に目を向ければ、そこには一面に広がる草原があった。
川だろうか、水の流れている音がどこかから聞こえる。


−−これが、水晶の力。


ソーヤ君が危険を冒しながら必死で集めたエネルギーで以て、埃の国を再興させたのだ。
そして恐らくは、ミイラとなってしまっていた一族の人たちも。


「−−名前!」


すると名前を呼ばれて、私はその声に笑顔で振り返った。
ナルトとサクラが駆けてくる。


「名前ってば、どうしていつもいつも勝手に里を出るんだってばよ。俺ってばすげー心配したんたからな。事情を説明するためとは言え時空眼だって使ってよ」


怒ったような顔をして言っていたナルトだが、次第に堪えきれないというように笑った。
はにかみながら鼻を掻く。


「でも俺ってば、すげー嬉しかった。名前が記憶を一旦手放す決意をした過去を見て、名前ってば俺たちのことを信頼してくれてんだなって、改めて思ったってばよ」
「勿論だよ」


にっこりと笑えば、ナルトの隣に立つサクラが、不安そうに上目で私を窺い見た。


「記憶を、取り戻したのよね。……私のことも、覚えてる?」
「うん。一時でも、辛い思いをさせてごめんね」


私は、仲間に、人々に忘れ去られてしまった一族の過去を何度も見た。
一族がその度に抱いた気持ちも、涙で歪む視界から分かる気がした。


忘れられて悲しみを抱くのは、お互いがお互いを大切に想い合っていたからだと、私は思う。
私は大きく頷いて微笑ってみせた。


「ちゃんと思い出したよ。サクラは同じ第七班の大切な仲間。大事で、大好きな私の友達だよ」


サクラは微かに目を見開くと、やがて「うん」と頷いた。
その目には涙が浮かんでいる。
サクラはもう一度大きく頷くと、勢いよく抱きついてきた。
良かった、と泣く声を聞きながら、私はサクラの背中を優しく叩いた。


「無事に記憶を取り戻せたみたいで、安心したよ」
「サイ−−ありがとう」
「僕はシヘイたちを捕らえて縛ることくらいしかしてないよ。大体のことは他の皆が暴れてやっちゃったから」


私は笑って首を振る。


「今のことだけじゃなくて。里で、言ってくれたよね。私のことを、想ってくれているって」


サクラが鼻を啜りながら私から離れ、不思議そうにサイを見る。
私は三人を見渡すとサイに目を向け笑って言った。


「あのときの言葉、とても嬉しかった」
「本当のことを言っただけだよ」とサイも笑った。


すると背後から肩に手が置かれて、私は振り返ろうとして、しかし動きを止める。
なぜならナルトとサクラが私の後ろを見ながら焦ったような怯えているような表情を浮かべているし、振り返らずとものし掛かってくるような重い怒気のような空気を感じたからだ。


「和やかな雰囲気になっているようだけど、俺は名前が勝手に里を出て行ったこと、まだ許してないからね」
「カ、カカシ先生……」
「同感だな。ろくに戦える状態じゃないくせに、のこのこと敵陣に出向くとはな。このウスラトンカチが」
「サスケも−−あの、本当にごめんなさい」


意を決して二人に振り返った私は、深々と頭を下げた。


「助けてくれて、本当にありがとうございました」


再び肩に手が置かれて、私は顔を上げた。
今度は、重い空気は感じなかった。

カカシ先生が優しく微笑う。


「まあ、無事で何よりだよ。それに怪我の功名とでも言うのか、サスケの顔も久しぶりに見れたしね」
「そうだってばよ!サスケお前、元気だったか?」
「そうよ!サスケ君、怪我とかしてない?ご飯はちゃんと食べてるの?」


鬱陶しそうな顔で息を吐くサスケに、くすくすと笑っていれば、名前さん、と聞き慣れない声で名前を呼ばれた。
振り返れば、駆けてくるのは見知らぬ青年。
だが見つめれば誰かの面影が彼にはある。
そして青年の後ろから歩いてくる二人の中年の男女もまた見慣れなかったが、どこかで見たような気がして、私は頭を捻った。
ややあって、あ、と声を上げる。


「ソーヤ君!と、ソーヤ君のご両親!……ですよね?」


問えば三人は微笑んで、はい、と首肯した。
ソーヤ君のご両親が深々と頭を下げる。


「この度は埃の国と、そして私共をお助けいただきましたこと、深く感謝申し上げます」
「一族の他の者たちも皆、無事息を吹き返しました。いったい何とお礼を申し上げれば良いか」
「いやいや、ちょっと待ってくれってばよ」


言ったナルトは困惑したように首を捻った。


「ソーヤってば、まだ子供だったろ。こいつってば見たところ、俺たちと同じくらいの歳だってばよ」
「馬鹿ね。もう忘れたの」


サクラが呆れたように息を吐いた。


「それについては、あのシヘイだって言っていたじゃない。ソーヤ君は生命エネルギーを水晶に注いでいたから、その分成長が止まっているんだ、って」

「おそらくは水晶に、自分の生命エネルギーを少しずつ注ぎ込んでいるため、ソーヤの成長は人より遅れているのです。実年齢は確か、あなた方と同じくらいーー」

「ああ。そういえば、そんなこと言ってたっけ」
「相変わらずの記憶力だな」
「んだとぉ!?サスケェ!」


ではやはり、光に包まれる前に見た青年は、ソーヤ君だったのだ。
その時のことを思い出せば、割れてしまった水晶のことも自然と思い出されて、私は目を伏せた。


「名前さん、どうか気に病まないでください。水晶が割れたのは、エネルギーが足りなかったから−−溜める時間が少なかったから、というわけではないんです」


顔を上げれば、ソーヤ君は眩しく笑った。


「水晶は割れたのではない、割ったんです」
「割った、って。でも水晶ってば、この国の宝だったんだろ?」
「はい、宝でした。私たちは水晶を崇めていました。大切に扱い、そして−−頼りすぎていた。埃の国は水晶で発展し、水晶によって衰えたのです」


水晶は−−とソーヤ君は語る。


「確かに力をもたらしてくれます。ですがそれには同等のエネルギーが必要です。少しでも間違えばエネルギーは枯渇していき、果てには他からエネルギーを奪ってしまうようになる。ですがそれではシヘイたちと同じです」


ソーヤ君は毅然と頭を上げた。


「水晶はもう要らない。たとえ水晶がなくたって、私は、一族と、そしてこの国を守っていきます」


そこにはもう、自分を信じることのできない少年はいなかった。


「この国の、長として」


私はにっこりと笑って頷いた。


「きっとできるよ、ソーヤ君なら」


言えばソーヤ君は私の手を握った。


「どうかソーヤとお呼びください。私はもう、小さな子供ではありません」


その手をサスケが叩き落とす。


「体と同時に態度までデカくなるとは、単純な奴だな」
「サスケ、どうしてお前はそういう言い方しかできないんだってばよ!」
「名前ったらもしかして、玉の輿のチャンスじゃない?」


サクラの言葉に次いで、カカシ先生が「確かにね」と言った。


「埃の国は周りと比べれば小さな国だけど、それでも一国は一国で、そしてソーヤ君は国主だもんね」
「結婚についての本は、まだ読んだことがなかったな……」


サイがそう呟いて、そうして賑やかさを増す一行を、ぽかんと眺めていれば、背後から「マセた餓鬼だな」と声がした。
私は振り返り、歩いてきたその人物に駆け寄る。


「オビトさん−−ありがとうございました」


すぐにお礼を言って、そして笑った。


「またオビトさんが、記憶を取り戻してくれましたね」
「今回主に関わったのはあの餓鬼だろう」
「はい。届けてくれたのはソーヤ君です。でもオビトさんも助けてくれました。オビトさんはいつも、私に記憶を与えてくれます」


オビトさんは何も言わずに私の頭を撫でた。
やがて笑みを浮かべながら問う。


「記憶を取り戻せた気分はどうだ?」
「そうですね……思い出せば胸に痛い記憶もたくさんありました」


だけど−−と私は胸に手を当てる。


「それと同じだけ、暖かい記憶もありました」


私はオビトさんを見上げ、そしてナルトたちを見ると笑った。


「だからとても、幸せです」





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