舞台上の観客 | ナノ
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それはソーヤが僅か七歳の時に起こった。


「きみが、ソーヤ君かい?」


埃の国の町外れで一人遊んでいたソーヤは、掛けられた声に振り返る。
うん、と頷いて、首を傾けた。


「どなたですか……?」
「私はシヘイ。ここ埃の国に興味があって、訪れたんだ。ソーヤ君のお父さんには、別の者たちが挨拶に伺ってるよ」


ソーヤは目を丸くして瞬いた。
何しろソーヤは生まれてこの方、自分の一族の者以外に会ったことがなかったのだ。
埃の国の者たちは外界と接触を持たない。
ソーヤは国から出たことがなかったし、また外からやってくる者たちなど本当に数えるほどしかいなかった。


「外の世界から来たんですか?」
「そうだよーー水晶の話を、風の噂で聞いてね」


シヘイは膝を折ってソーヤと目線の高さを同じにする。
丸い目を覗き込んでにこりと笑んだ。


「ソーヤ君はその水晶を、使うことができるんだろう?是非ともその様子を、拝見させて欲しいんだが」


ソーヤは困って、一歩退く。


「でも……お父様に、勝手に水晶を使っては駄目だと言われているのです。それに僕も、水晶を使ったら何ができるのか、詳しいことはまだ知らなくて……」
「おや、それじゃあ私のほうが水晶に関しては詳しいんだね」


その言葉にソーヤは、え、と顔を上げた。


「あなたは知っているんですか?水晶を使うと、何が起こるのか」
「文献で読んだんだ。しかし水晶の使い手であるソーヤ君が何も知らないとは……驚いたな」
「僕にはまだ早いと言って、教えてもらえないんです」


ソーヤは、埃の国の秘宝だという水晶が好きだった。
砂漠ばかりのこの地において唯一瑞々しく光っているそれは綺麗で、また生活の基盤となり恵みを与えてくれる。
そんな水晶を扱う父の姿は格好良く、いつか自分がその役目を担うということが誇らしかった。
けれどいまのところまだ、ソーヤが実際に水晶を使ったことはない。


俯き唇を尖らせていたソーヤは、シヘイが笑みを深めたことに気づかなかった。


「それじゃあ……私が教えようか」
「ーーでも」
「水晶を使って何ができるのか、知りたくないのかい?」


ソーヤは言葉を詰まらせる。
不安や戸惑いを払拭しようとシヘイは続けて、


「お父さんには内緒にしておけばいい」
「でも……こわいことは起こりませんか……?」
「お父さんが水晶を使って、何かこわいことが起こったことがあったのかい?」


ソーヤは頭を振る。
立ち上がったシヘイが差し出す手を見つめて、やがて自分のそれを重ねた。


ーーその選択が、埃の国のすべてを崩壊させた。


シヘイに言われたとおりに、ソーヤが水晶に手を翳し、知らない言葉をオウム返しに口にすれば、水晶は光り輝いた。
そこでソーヤは異変に気づいた。
前に何度か見たことのある水晶の輝きとそれとはまったく違っていたのだ。


「ソーヤ!駄目だ!」


その時、父親が血相を変え祭壇の間へと飛び込んできた。
振り返ったソーヤは、水晶から出た闇のような波が自分の父を呑み込むのを見た。
そして波が通り過ぎた時、父親は変わり果てた姿となっていた。
生命エネルギーを吸い取られ、ミイラとなってしまっていたのだ。


「素晴らしい……!この水晶があれば、私はいずれ、こんなちっぽけな国だけでなく、世界そのものを支配できる……!」


ーーシヘイの目的は、水晶のよって世界中の者の生命エネルギーを奪い、それを水晶に注ぎ込むことによって、新たな力を得ることだった。
しかしそのためには対象者を祭壇、せいぜい埃の国にまで近づけさせる必要がある。
ただ、水晶に籠められたエネルギーが増えればその力は強まり、どんなに遠く離れた人間からも、エネルギーを奪うことができるようになる。
そこでシヘイが目を付けたのは、尾獣だった。
尾獣が持つ強大なエネルギーを水晶へと注ぎ込めば、水晶の力が上がると考えたのだ。


しかし、とシヘイの部下が言う。


「尾獣は先の大戦で人の手を離れています。倒すこともそうですが、この国まで連れてくるのも困難なのでは」


シヘイは笑う。


「人柱力は、まだ二人いるだろう」
「うずまきナルトと、キラービーですね。どちらも強いが……狙うのは?」
「うずまきナルトだ。九尾は、尾獣の中でも強いと聞く。それにうずまきナルトは英雄だ。その英雄を倒してしまえさえすれば、九尾の力を得た私共にとって、残りの世界など容易いものだ」
















「それじゃあ、木ノ葉へ依頼を要請してきたのは、ナルトを埃の国へと連れてくるため」


呟いた名前に、いかにも、とシヘイは笑う。


「ソーヤの成長を遅らせているのも、私共がソーヤに命令しやったんだ。子供は周りの油断を誘いやすく、また我々にとっては扱いやすいからな」
「そんなーー何てことを」


言った名前は、自分に向けられた刀の切っ先にはっとした。
厳しい目でシヘイを睨めば、失笑が返ってくる。


「いまのお前に、私と戦う術はない。逃げる術も、木ノ葉へ真相を伝える術も」
「ーー名前さん!逃げて!」


ソーヤの悲鳴が響く。
その瞬間、シヘイが目前に一瞬で現れて、名前は息を呑んだ。


「時空眼も記憶もないお前には、水晶を使う価値もない。私自ら殺してやる」


刀が迫ったーーその時、名前は飛び込んできた黒を見た。
刀がぶつかり合う音が響いて、かと思えば名前の体は抱き寄せられて、シヘイから距離を取った場所に着地する。
自分を横抱きにするその人物を見上げて、名前は目を見開いた。


「世界には他に白眼、写輪眼、輪廻眼といった瞳力を持つ者たちがいる。さっきのオビトと、それにサスケが、写輪眼の使い手だ。まあサスケは、輪廻眼の使い手でもあるけど」
「その人はサスケ君。うちはサスケ。いまは旅に出ているから、里にはあまり帰ってこないの。だからまだ会っていないのよ」



ーーオビトさんと同じ、赤い瞳。



「ーーサスケ」





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