舞台上の観客 | ナノ
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シノの目を見てみたいーー任務帰り、シノの隣を歩きながら私はそう思った。


今日は第七班、第八班での合同任務だった。
とは言っても、今や火影となったカカシ先生と、今や母親となった紅先生はいなく、また代わりとなる担当上忍も付かない。
成長し中忍以上となった私たちが揃って取り掛かる任務だったから、難易度は正直言って高いものだった。
だからみんな疲弊しているけれど、前を歩くナルトたちの姿を眺めていれば、疲れも吹っ飛ぶというものだ。


「名前」
「何?シノ」
「俺とお前は、案外似たところがあるのかもしれない。何故なら、歩く速さ、小隊内での定位置が同じだからだ」



そして気づけばいつの間にか、先を歩くナルトたちからいくらか距離を取ったところでシノと並んで歩いていた。
シノの言葉に、確かにそうだね、と笑った私は、今さらながらにある事実に気が付いたのだ。


ーーそういえばシノって、カカシ先生よりも顔が隠れてる。


フード付きコートが体を覆い、忍服が鼻から下を隠し、目にはサングラスが掛けられていて、額には額宛てが巻かれている。
カカシ先生はカカシ先生で、戦闘時以外で露出している顔のパーツは片目だけだけれど、シノにいたっては肌しか露出していない。
まあ鼻から下に関しては、昔は普通に見えていたから、好奇心を擽られるということもないのだけれど。


カカシ先生の口布の下も気になるけれど、シノのサングラスの奥も、き、気になる……!


けれどシノのことを眺めたいし観察したいが、あいにくシノは、先ほどの会話どおり、みんなから一歩下がった距離が定位置だ。
つまりは私と同じ位置にいる。
視線を送れば気づかれてしまう可能性が大きい。

シノを見たい衝動を抑えるために眉根を寄せれば、落ち着いた声がした。


「そう気を張るな、名前」


何故ならーーとシノはお馴染みの口調で続ける。


「俺たち第八班は感知に優れている。お前が気を張り周りを警戒しなくても、敵がいれば、俺たちがその役目を果たし感知する。……だから、体の力を抜くべきだ。何故なら今回の任務でも、お前は要求以上の力を出しすぎたからだ」
「時空眼は使っていないよ」
「使っていれば、俺の話だけでは済まない事態になっている」
「そうなのかな……本当にみんなは優しいよね」
「お前を心配する理由は、何も優しいからだけじゃない。何故なら名前、お前は俺たちと何も変わらない、木ノ葉の大事な仲間だからだ」
「……ありがとう」


いまだに慣れないその事実がくすぐったくて、私は小さく笑うと礼を言う。


シノは、はっきりと物を言う。
そしてそれはキバも同じだから、引っ込み思案なヒナタと三人合わせれば、そういった面でも上手くバランスが取れているのかもしれない。


思って私は、前を歩くナルトたちを眺める。
何やら話しながら振り返ったナルトと目が合ったヒナタは、顔を真っ赤にさせて固まっている。
私はいつものように口許に手をあて咳をした。


目が合っただけであんなに真っ赤になるなんて、ナルトの魅力は恐ろしいし、ヒナタは本当に恥ずかしがり屋ーー待てよ?


「どうした名前。俺の顔に何かついているのか」
「い、いや、何でもないよ、ごめんシノ」


不審に思われ、私は慌ててシノから目を逸らしたが、再び視線はちらりとシノの目許ーー黒いサングラスへと向かってしまう。


ヒナタは、ナルトと目が合うと上手く話せなくなってしまう。
シノは誰にでもはっきりと物を言う。
それはもしかして、サングラスで目を隠しているからなのか……?


気づいてしまった衝撃の事実に、私は思わず唇を噛みしめる。


どうして今まで気づかなかったんだろう、シノの、こんなにもいじらしい努力に。
シノは、ひょっとするとヒナタよりも恥ずかしがり屋なんだ。
人の目を見て喋れないから、サングラスで目を隠す。


けれどーーと私は前を向いた。
ナルトたちを見ていると、シノが言う。


「お前も気が付いたか、名前」


私は神妙な顔で頷いた。


気が付いたよ、シノ。
シノが本当はとても恥ずかしがり屋だということに。
今まで気がつけずにいてごめん。
けれどこれからは、シノの力になれるよう、私にできることなら何でもするよ……!
だからーー、


「シノ、私のことを、どんなふうに扱ってくれても構わないよ」


言った私に、シノが立ち止まり目を向ける。
私も見返し、大きく頷いた。


ヒナタ以上の恥ずかしがり屋であるシノが、サングラスを外してナルトたちと話すことなんてまだできないだろう。
けれど観客である私とならば平気のはずだ。
もしもシノが、本当は目と目を合わせて話をしたいと思っているのなら、私のことを練習台として存分に使って欲しいのだ。


するとシノに腕を取られ、木陰へと引き込まれて、私は瞬く。
え、と目を見開いた時、元いた道のほうからキバの声がした。


「出てこいよ」
「どうしたんだってばよ、キバ」


私ははっとしてシノを見上げる。
シノはいつものように読めない表情を浮かべて、ただ森の先を見据えている。
状況を理解した私は、はらはらとして、キバたちがいる方向とシノとを見比べた。


やっぱりシノは、一刻も早くサングラスを外して、ナルトたちと話したかったんだ!
驚いた、まさかこんなにもすぐに練習しようとするなんて……!
けれどサングラスを外したところを見られまいと、私と木陰に隠れても、感知に優れた第八班は見逃してはくれない。


「俺たちの鼻は誤魔化せねーぜ」


得意げに言ったキバに、どうしようかと焦った時、別の声が場に響いた。


「さすがは大国お抱えの忍里の忍だ。俺たち山賊がいくら気配を消そうとも、お見通しってわけだ」


山賊、と私は、不謹慎だけれど目を輝かせた。


なんて絶妙なタイミングで現れてくれるんだ。
彼らが登場してくれたおかげで、きっとキバたちの意識はそちらへ向かう。
私たちが一旦木陰へと消えたことなど、曖昧になって終わるはずだ。


「当たり前だってばよ!木ノ葉の忍を、舐めんじゃねーぜ?」
「ナルト、あんたは気づいてなかったでしょ。はあ……にしても、今回は大変な任務で疲れてるっていうのに。面倒ね」
「こうなりゃ細かいことは気にせず暴れまわってやるぜ!行くぞ赤丸!」
「ワン!」
「ま、待ってみんな!」


焦ったヒナタの声がして、私は訝しんで眉根を寄せる。
すぐにナルトたちの困惑した声が聞こえてきた。


「な、何だってばよこれ!」
「体が、動かせない……!」
「ちくしょう、こいつら忍術使えたのか!?」
「ううん、これは、本当に細い糸が辺りに張り巡らされていて、私たちのチャクラに反応して絡みついてきてる……!」


その通り、と男が言う。


「さすがは忍。俺たちが開発した対忍用トラップをもう理解したか」
「だがもう遅い。お前たちは既に動けない。俺たちの思うがままだ」
「たとえ単純な力で劣っても、物の使いようによっては、ただの山賊も忍を超える」
「これなら楽に奪えそうだ。金と女は貰ってくぜ」


山賊たちの言葉通り、確かに彼らは、私たちと真っ向から勝負すれば勝てることはないだろう。
彼らの気配の在りようと、木陰にいる私たちに気づいていないことから、それが分かる。
けれどヒナタの言葉からして、張り巡らせた細い糸は私たちのチャクラに反応する。
だとするとナルトたちを助けようと飛び出し忍術を使えば、二の舞を踏むことになってしまう。


ナルトたちを解放したいし、もちろん山賊たちに何も渡す気はない。
けれどそのまま飛び込めば、結果的にみんなを助けられなくなる恐れがある。
好機をうかがっていれば、シノが、名前、と私を呼んだ。


「俺はお前のことを、木ノ葉の大切な仲間だと思っている」
「シノ……?」
「そのことを覚えていてくれ。何故なら、俺はこれからお前に対してーーひどい扱いをする」
「シノ、私のことを、どんなふうに扱ってくれても構わないよ」


目を見開いた時にはもう、私はシノによって、道へと投げ出されていた。


「名前!?」
「まだ仲間がいたのかーーってこいつ、時空眼の名字名前じゃねえか!」


私のことを知っているのか、という小さな驚きは、私に次いで現れたシノが言葉にした。
また一人木ノ葉の忍が現れたことに、山賊たちは少したじろいだが、よほど罠に自信があるのかすぐに不適な笑みを見せる。


「対忍用の罠を作るくらいだからな。俺たちは忍について、調べているのか」
「名字名前と言えば、忍の世界では有名だからな」
「そんな奴が、またのこのこと現れたもんだ」


私は立ち上がると、シノに向かって首を振る。
シノがいったい何をしようとしているか、分かったからだ。


シノはきっと、みんなの前でサングラスを外そうとしている……!
だから隠れた木陰から、こうして姿を現したんだ。
私に対してのひどい扱いというのは、おそらく練習台に志願した私への気遣いから。
けれど私のことなんてどうだっていいんだ!
シノにはまだ、みんなの前でサングラスを外して話すなんて早すぎる……!


「シノ……そんなこと、やめて……!」


請い願う私に目を向け、シノは言った。


「どうせ連れて行くのなら、こいつにして欲しい」


ーー!?


「何言ってんだよ、お前。時空眼は大きな力。それをみすみす差し出されて、罠だと疑わないわけがない」
「確かにこの眼は強大だ。木ノ葉にとって、大きな利益をもたらす存在、だが光が強ければ影もそれだけ濃さを増す。名前を抱え込むことで、里に降りかかる災は多い。……正直言って、辟易している」


言ったシノに、ナルトが肩を震わせる。


「シノ、お前ってばそれ、本気で言ってんじゃねえだろうな……!」
「落ち着けナルト!シノは確かに、同じ第八班の仲間としてさえ、何考えてんのか分かんねえような奴だけど、仲間を裏切るような奴じゃねえってことは、お前も知ってんだろ!」
「でも、名前のこの驚きよう、とても演技には見えない」


キバの言葉とサクラの言葉に、迷うように眉根を寄せていた山賊たちは、やがて顔を見合わせると笑った。


「いいぜ、お前の望み通り、名字名前を連れてってやる」
「そんなこと、させねえってばよ……!」


言ったナルトの体から、赤いチャクラが溢れ出す。
その量は膨大で、白眼を持っていない私にもようやく、チャクラに反応する糸が見えた。
無理するな、と山賊が笑い含みに言う。


「強がったところで、縛りがきつくなるだけーー」


その瞬間、跳ねるように糸が切れた。
反動からナルトたちは僅かによろめき、踏鞴を踏む。
誰もが驚く中、シノが言った。


「俺の虫は、チャクラを食らう」
「虫、だと!?」
「こいつ、あの油女一族……!」
「虫に調べさせたところ、糸は元は一つで繋がっている。だとすれば、その元を噛み千切ってしまえば、俺の仲間は解放される。ナルトの怒りで増えたチャクラを吸った糸は、虫たちにとって絶好の餌だ」
「お前ら、ちゃんと周りを見とけって言っただろ……!」


シノの周りに現れた虫たちに、悲鳴を上げた山賊の長がそう怒鳴る。
手下の男の一人が声を荒げた。


「虫になんか、気をつけないっすよ……!」


シノが言った。


「俺は、どんなちんけな虫でも、油断はしない」











「それで、退治してきたってわけ」


火影室の椅子に座るカカシ先生は、にこりと笑んだ。


「いやーお手柄だね。そいつらのことは、ちょっと最近噂で聞いてて、そろそろ小隊を派遣しようと思ってたとこなんだよね。お前たちが倒してくれて、助かったよ」
「シノ君と、名前ちゃんが助けてくれたんです」
「私は何もできなかったよ」
「ううん、名前だって、山賊たちを騙すことに一役買ったじゃない。でも名前、いつのまにあんなに演技が上手くなったの?」
「いや、本当に私は何もしていないんだよ」


私は困って頭を掻いた。
するとシノが、六代目、とカカシ先生を呼ぶ。


「どうしたの、シノ」
「これからも、今回のような任務を増やして欲しい」
「今回のような任務って、内容?それとも班員かな」


ナルトが頷く。


「カカシ先生、俺もまた、シノと小隊組みたいってばよ!やっぱシノってばすげー奴だし、今回の借りも、返しーー」
「ナルト、お前はいい」


言ったシノに、ナルトが、え、と目を丸くさせる。
何故なら、とシノは私を向いた。


「俺がまた隊を組みたいのは、お前だからだ、名前」
「私?」
「シノと名前か……今までになかった組み合わせだけど、理由を聞いてもいいかな」


カカシ先生の言葉に、シノは頷く。


「まず、名前は確かに自己犠牲の気が強いが、冷静に判断し、何が得策かを考え実行することができる。今回も、時空眼を餌にして、結果山賊たちを釣ることができた」


私は何と言っていいか分からなくて、複雑な気分で頬を掻く。


「それに俺は、たとえ名前が、自身が犠牲になる作戦を選んだところで、名前のことを傷付けはしない」


何故ならーーと、シノは真っすぐに私を見た。


「お前は俺が、守るからだ」






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