舞台上の観客 | ナノ
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「サスケ、どう戦う」


サスケと共に虹の氷壁へ向かっているというこの状況を、諦め受け入れた私はそう訊いた。
冷たい風を浴び雪の上を滑る中、サスケは言う。


「さっきの奴らと同じように、ドトウの鎧を壊す」
「うん、そうだね、あの鎧は厄介だから。……ということは、攻撃力の高い術が必要になる」


呟いて、私は自分の持つ術の数々を考えると唸る。


私が扱う響遁の術には、実は攻撃に特化したものはあまりない。
もちろん使いようによっては可能性はいくらでもあるのだが、基本的には、敵を撹乱したり足止めをしたり、感知をするなどといった、仲間のサポート的な役割の術が多いのだ。


「ドトウの鎧は、俺の千鳥で破壊する」


するとサスケが言った言葉に、私は、はっとして顔を上げた。


「サスケ、確かに千鳥の攻撃力はそれは高いけれど、サスケはさっきの戦いにも出たんだから、ここは私がーー」
「俺とお前の術を考えれば、一番効果が高いのは俺の千鳥だ。それに、チャクラもまだある。ドトウの鎧は、俺が壊す」


有無を言わせぬ物言いに、私は口を噤む。


サスケがこうしてドトウがいる場所まで半ば強引についてきた時から、何となく予想はしていたけれど……。
それに、確かに攻撃力が最も高いのは千鳥だ。
サスケのチャクラがまだ保つのなら、出し惜しみをしている場合じゃない。


私はサスケの服を握っている手に力を込めると、強く頷いた。


「それじゃあ私は、ドトウの動きをできる限りで止めるよ。サスケの千鳥が、無事直撃できるようにする」
「動きを止めるーーってことは、あの術を使うのか」


言ったサスケに、私は笑って首肯する。
ーー響遁・重音の壁。
前にサスケと修行した時に、言葉は悪いけれど、実験体になってもらった術だ。


「完成したのか」
「ううん、まだ相変わらず、術を解けば吹っ飛ぶよ」


どこか呆れたような目を向けてくるサスケに、私は慌てて言う。


「だ、大丈夫だよ、吹っ飛ぶ代わりに、相手を縛る力も強いから。ドトウのことも、必ず止めるよ」


サスケが一つため息を零す。


「そうじゃなくて……まあいい。分かった」


言ってサスケは、前に向き直ると眉根を寄せる。
見えてきた虹の氷壁と、対峙しているナルトとドトウに、私も目を細めてそれを見やる。


「よかった、間に合ったみたいだね。……やっぱりこのスケートボードは、例のーーって、今はそれどころじゃなかった」


サスケ、と私は呼び、見上げる。


「私が先に飛び込むね。向こうはチャクラを無効化する鎧を身につけているし、そうでなくても、いつまで動きを止められていられるか分からないけど……」
「心配するな。お前が行ったすぐ後に、俺も突っ込む。……気をつけろよ」
「心配なのはサスケだよ。私よりもずっと、ドトウに近く飛び込むから」


だからサスケに手を出させないためにも、ドトウの動きは、何としてでも私が止める……!


私は一度深く息を吐くと、ボードから飛び降り、そのまま地面を蹴り上げた。
ナルトがドトウに吹っ飛ばされて、割れた氷の穴から海へと落ちていくのが見えて、目を見開く。
一瞬気持ちが揺らぎそうになったけれど、すぐに自分のすべきことを思い返して、歯を食いしばると首を振る。
空中で印を結ぶと、ドトウの近くに着地した。


「ーー響遁・重音の壁!!」


着地と同時に、私の術がドトウに掛かる。
けれど動きを封じられたくせに、余裕の笑みすら浮かべて目だけを向けてきたドトウの表情が、ついに驚いたものへと変わった。
背後から、千もの鳥が鳴いているような音が聞こえた。


「ーー千鳥!!」


サスケの術が、ドトウの鎧の核へと当たる。
膨大なチャクラが混じった激しい風が巻き起こる中、私は確かに、核にひびが入った瞬間を見た。


あと少し……!


思ったところで、まるで最後の足掻きというように鎧が動く。
サスケが弾き飛ばされた。


「サスケ……!」


呼び掛けて、私も自身に掛かる圧力に呻く。
鎧の最後の力を使ってドトウが、私の術を解いたのだ。

圧されるようにして吹っ飛ぶと、空中で、誰かが私の腕を掴む。
抱きしめられて、視界に入ってきた青い服と黒い髪ーーサスケの姿に、私は瞠目する。
奥に見えた氷壁に、慌てて体を入れ替えようとすれば、さらに強く抱きしめられた。
サスケの名前を呼び掛けたところで、氷壁に衝突して私たちは息を詰める。
滑るように雪の上へと落ちた。 


「ナルト、風穴は開けた」


苦しそうにサスケが言う。


「あとはお前がやれ!ナルト……!!」


その時、陽が陰った。
サスケが僅かに口許に笑みを浮かべる。
その視線の先を追えば、水中から飛び上がり、空を覆うほどの分身を作り出したナルトの姿があった。


「今までのまでの借り、返してやるぜ!!」


振り上げられたナルトの拳に、青いチャクラの塊が渦巻いていく。


「終わりってのはな、正義が勝って、悪が負ける、ハッピーエンドに決まってんだよ!!」


ついに壊れたドトウの鎧には、その術を防ぐすべがない。


「食らえ!!螺旋丸!!」


ナルトの術が、ドトウに直撃した。
ーー虹の氷壁が、七色に輝き始める。
氷が割れて、雪が溶けて、青々とした草木や川が姿を現す。
ーー雪の国の、冬が終わった。















ーーすっかり春の季節となった雪の国では、雪絵さんの即位式が行われていた。
風花小雪姫は、雪の国の正式な君主となったのだ。
式典も終わり、人々が宴を楽しむ中、わざわざ会いに来てくれた雪絵さんは変わらずとても綺麗で、サクラが思わず、女優を辞めちゃうなんてもったいない、と言う。
すると雪絵さんは悪戯げに笑った。


「誰が辞めるなんて言ったの?」


え、と驚くナルトたちに、雪絵さんは言った。


「雪の国の君主も女優も、両立させるわよ!」


その手には、カカシ先生の愛読書であるイチャイチャパラダイスが握られていて、私は目を丸くした。
カカシ先生が震える指を向ける。


「そ、それ……!」
「カ、カカシ先生、お気を確かに……!」


先生が雪絵さんを、雪絵さんが先生を、どう思ってるのかはまだ分からないけれど、フラグが立ったことが確かなら、そんな相手が十八禁ほどグロい映画に出るとなったら、正気でいられないんじゃ……!
いや、それともまさか、カカシ先生は喜んでいるのだろうか……?
いくらグロいとはいえ、カカシ先生はそれを好んで読んでいるわけだし、だとしたらその主役を演じるなんて喜ばしいことなのかも……。
ううん、大人の世界はまだまだ未知だ……!


「じゃあまたね!ーーあ、そうそう」


言い掛けた雪絵さんが、思い出したように踵を返すと、私の前に立ち止まる。
首を傾げて見上げれば、彼女は綺麗に笑った。


「ハッピーエンドに向けて、頑張ってね」
「ーー雪絵さん」
「あなたたちならきっと、できるから!」










「ーーそういえばさ」
「どうしたんですか?カカシ先生」
「里で何やら、俺が雪絵さんに手を出した、とか謂われのない噂が出回ってるらしいんだけど、お前ら何か知らない?っていうかお前ら以外あり得ないよね」
「……あ」




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