「きゃーっ!ナル様ーっ!」
「英雄に教えてもらえるなんて感激!」
「なんでこんな日にかぎって、あの子遅刻してくるのよ。本当馬鹿ねえ」
「楽しみすぎて昨日の夜よく寝られなかったんじゃない?」
「遠足前の子供かっつーの」
木ノ葉隠れの里、アカデミーの教室で、椅子に座りながらも騒ぐ子供たちと、よく分かっていないような顔で頬を掻いているナルトを見比べて、私は一つ咳を零した。
するとサクラが隣から私の顔を覗き込む。
「名前、大丈夫?ーーああもう!うるさいナルト!」
「って、ええっ!?サクラちゃん、俺まだ何も喋ってないんだけど」
「あんたがアカデミーの子たちを騒がせてるんでしょ。元凶ならほら、大人しくさせてきなさいよ」
「そうは言っても……」
言ったナルトは口許に拳をあてて咳払いし、教壇から一歩前に出た。
「あー、君たちーー」
「きゃーっ!ナル様の授業が始まるわー!」
「ちょっと男子退いてよ!見えない!」
額に手をあてため息を吐いたサクラに、いのが言う。
「それにしても、ナルトにモテ期がくるとはねぇ。昔じゃ想像できないわよ」
「本当にね……こらナルト!調子に乗んじゃないわよ!」
「でえーっ!?だからサクラちゃん、俺ってば何もしてないってばよーっ!」
私は笑って、でも、と言った。
「サスケがいなくて良かったね。もしいたら、それこそ授業どころじゃなかっただろうから」
「乱暴にはできない小さな子たちに囲まれて、疲れ果てるサスケも、見てみたかったけどね」
「カカシ先生ーーふふ、そうですね」
後ろから返された声に振り返って、私は笑った。
私たち同期に下された今日の任務は、アカデミーでの特別授業。
ほんの数年前には皆揃って授業を受けていたのに、成長した今となれば、教室はとても小さく見えて、実際少し窮屈だった。
シカマルが頭を掻いて、ため息混じりに言う。
「つうか実際、同期全員が教えに来る必要あったんすか?六代目。狭いんすけど……」
「不思議なことに、いい忍っていうのは結構固まる年があってさ。俺たちの代もそうだし、お前らは言うまでもなし。聞いたところによると、この子たちの代にも結構いい子が揃ってるようだから、せっかくなら全員で指導してもらおうと思ってね」
「いい忍って、こいつらがかよ、カカシ先生」
言ってキバは怪訝そうに眉を上げた。
「とてもそんなふうには見えねえけどな。騒がしいしよ。まだ忍の何たるかを分かってねーな、こいつらは」
「キバ……それをお前が言うのか」
「あ?何だよシノ、何か文句あんのか?」
「ああ。何故なら、お前はいつもこいつらと同じくらい騒がしいからだ」
「んなことねーよ!」
「お、落ち着いてキバ君」
ヒナタは言って、どこか不安そうな目をナルトへ向けた。
いまだに机から乗り出すようにしてナルトに話しかけている女の子たちを見て、目を落とす。
私はそんなヒナタの肩に手を置いた。
「ヒナタ、私はーー」
ナルトとアカデミーの女の子たちのように、年の差がある関係も、それはもういいものだと思う。
けれどその女の子たちに惚れている同期の男の子もいるかもしれない。
だとしたら、素敵なお兄さんに熱を上げている意中の子を振り向かせる、という物語もまたとても素敵なものだ。
それに何よりーー。
「私は、ヒナタのことを応援してる」
同期として、ずっと近くで見てきたから、やっぱり思い入れが強いのかな……それに最近、ナルトのヒナタに対する様子も、何だか昔と変わったように思えるし……まあ何にしても言葉のとおりだ。
にっこり笑えば、ヒナタは、名前ちゃん、と零し、やがてはにかんだ。
「ありがとう……」
ヒナタは言って、胸の前で手を握り合わせる。
「でも、駄目だよね、私」
「駄目?」
「う、うん……ナルト君がね、こうして皆に慕われてて、人気者になったことは、すごく、すごく嬉しいんだ。それなのに、駄目だよね……少しだけ、胸が痛くなっちゃうなんて」
「げっほぉ……!」
「だ、大丈夫!?名前ちゃん……!」
私は両手で顔を覆った。
口許だけを覆ったんじゃ、このにやける顔は隠しきれない。
しかしヒナタに何としても伝えたいため、私は息も絶え絶えに口を開いた。
「ヒ、ヒナタ、それは全然ーーぐふっーー駄目なんかじゃ、ないよ」
「名前ちゃん、い、今は私のことはいいから、自分を……!」
「あ、ありがとう……本当に」
ううん、と首を振るヒナタに、私は心の底から感謝の念を抱いていた。
ーーとても素晴らしいものを、本当にありがとう、ヒナタ。
それにナルトもーーというか生きとし生けるものすべて。
と、一人壮大になっていたところで、カカシ先生が私の顔を覗き込んだ。
「そろそろ授業を始めようと思うんだけど、名前、大丈夫?さっきから咳してるけど」
大丈夫です、と答えて、私は先生に訊く。
「それよりオビトさんは、やっぱり来ないんですか?」
「ああ、うん……俺みたいな人間が、教えることなど何もないーーって言ってね。俺の付き添いをするだけだとは言ったんだけど、それでも子供と関わる気はないらしくて」
「そうですか……オビトさんは勘違いをしているんですね」
「勘違い?」
「はい、だって、私はオビトさんから多くのことを学びました。そして慕い、尊敬しています。だからきっとこの子たちもーー」
私は教室を見渡して、笑みを浮かべる。
カカシ先生も目を細めて笑んだ。
「まあオビトは、名前には特別優しいけどね」
そんなことありませんよ、と笑おうとして、私は口を噤んだ。
いや、私だけじゃなく、教室にいるアカデミー生以外全員が口を閉じる。
「……ナルト先輩?」
不思議に思った女の子が首を傾げたとき、その者はカカシ先生の後ろに現れた。
動物の面に、体を覆い隠す黒の衣ーー暗部だ。
カカシ先生が目を向け問う。
「どうした」
「ーー里に侵入者が」
身を乗り出したナルトを、カカシ先生が片手で制す。
「待て、ナルト。お前が動けば、この子たちに動揺が広がる」
「けど、カカシ先生、相手はもう里に侵入してるって」
「い、いったいどうやって」
声を上げたのはヒナタだった。
「里の警備には、必ず日向家の人が入っています。見逃すはずがーー」
「それが、警備にあたっていた日向の者が、白眼を使えなくなったとの情報が上がってきております」
衝撃が走る中、シカマルが一歩前に出る。
「敵は追えてるのか。どこに向かってる」
暗部の者は言った。
「おそらくはアカデミーです」
「こっちに向かってきてんのかよ!」
キバの声に、生徒たちの間に動揺が広がり始める。
不安そうに言葉を交わす子供たちを見やって、サクラはカカシ先生に目を向けた。
「狙いは、カカシ先生?」
「いや、そうともかぎらねえ」
言ったシカマルに視線が注目する。
「もしも敵が人質をとり、何か交渉してくるつもりなら、子供はうってつけだからな。単純に考えれば、大人より力がねえし、解放を親が後押しする」
「で、でも、敵の狙いが本当に子供たちを人質にとることなら、大丈夫だよね。だって今日はたまたま、僕たちが特別授業に来てるんだし」
「……だといいんだがな」
シカマルの言葉にチョウジが、え、と瞠目する。
その顔に浮かぶ焦りの色が濃さを増した。
「シ、シカマル。どういうこと?」
「……ただ子供を人質にとりてえんなら、里外任務にでも出たところを狙えばいい。Cランク任務なら、まだ若い下忍が請け負って、里外に出てるからな」
「確かに、そのほうが人数も少ないし、成功する可能性は高くーー」
言い掛けていのは、はっとした。
シカマルが厳しい表情で頷く。
「アカデミーは、そりゃ人質となる子供の数が多い。だが同時に、教師である中忍も多くいる。敵はそんな場所にわざわざ突っ込んできてんだ」
「制圧する、自信があるってことね」
サクラが言って、部屋には僅かな沈黙が訪れる。
すぐにカカシ先生が口を開いた。
「アカデミーに陣を張る。子供たちには指一本触れさせるな」
教室内に、了解、と声が響いた。
いのが感知を始め、ヒナタが白眼を開眼するーーすぐにヒナタは息を呑んだ。
「そ、そんな……!」
「どうしたんだってばよ、ヒナタ」
「ナルト君ーー今、敵と暗部の人たちが交戦してたんだけどーー敵は白眼を持ってる……!」
「ど、どういうこと!?それじゃあ敵は、日向家の人……!?」
サクラに訊かれて、ヒナタは強く首を振る。
「ううん、違う。あんな人、見たことない……!」
「もしかしたら過去に、日向の奴と戦ったことのある忍かもしんねえ。水影の護衛役のおっちゃんも、確かそういう理由で白眼を持ってたし」
眉を顰めながら、私も隣で印を組み、響遁の術で周囲の音を探り始めた。
交戦音に紛れて、軽やかな足音が聞こえてきて私は息を呑んだ。
外を見下ろせば、校庭を突っ切りアカデミーへと駆けてきている女の子の姿がある。
「なんでこんな日にかぎって、あの子遅刻してくるのよ。本当馬鹿ねえ」
私は窓から飛び降りた。
誰かが呼ぶ声を背中に受けながら着地する。
目が合って、女の子が不思議そうに足を止めたーーそのとき、女の子の背後に敵が現れた。
「危ない!!」
え、と目を見開く女の子は、背後の敵に気づいていない。
敵の男は口許に笑みを浮かべて右腕を振り上げた。
その手元に、目に見えるほどチャクラが集められていく。
私は地面を蹴ると一瞬で距離を詰め、女の子の腕を引っ張った。
自分と少女の体を入れ替えたところに、男の拳が腹を突く。
「ぐっ……!」
歯を食いしばって痛みに堪え、瞠目した。
腹に受けたチャクラは熱を持って体を昇り、そして目に到達すると、まるで抉るような痛みを私に負わせたのだ。
思わず声を上げて、目を覆って地面に膝をつく。
「名前!!」
痛みに堪えながら瞼を上げて、さらに驚く。
ーー完全に目を抉られたと思ったのに。
視界に敵の足がうつって、私は息を呑むと飛び退いた。
瞼の上から目に触れれば、先ほど感じた痛みはまるで嘘のようにない。
困惑しながら振り向けば、ナルトたちも加勢に来ていた。
女の子は無事教師に保護されていて、ほっと息を吐く。
「名前!いったい何があったの?」
「サクラーー」
私は呆然と首を振った。
「分からない、ただ目に激痛が走ってーー」
言い掛けて私は空を振り仰いだ。
高く飛び上がったナルトが、敵に腕を振りかざす。
「螺旋丸!!」
視界の端に、同じようにナルトを見上げる敵の姿がうつる。
深められる口許の笑みに、私の視線はそちらへ向いた。
「ーーどうして」
男の瞳の色が変わっていたーー時空眼のような、白緑色に。
ナルトが空中で動きを止める。
浮いている、というよりは、見えない何かに四方八方から固められたかのようだった。
強大な力が、ナルトに掛けられている。
皆が驚く中で私と、そして男だけが理解していた。
「これは……!」
「時空眼!なんて素晴らしい!」
男の言葉に、皆が私を振り向く。
私は愕然としたまま眼にチャクラを集中させてーー首を振った。
「時空眼が、開眼できない……!」
まさか、とシカマルが男を睨む。
「それじゃあさっきの、白眼が使えなくなったっつう話も、こいつの仕業か」
「ご名答」
男は機嫌良さそうに答え、遊ぶように、私たちに停止の作用を掛けていく。
「ーー名前」
「え……あ、はい!」
名前を呼ばれて、一拍遅れて返事をすれば、カカシ先生は私に訊いた。
「校庭に着いた時、男の目は、白眼だったか」
敵の手がぴくりと揺れる。
停止の作用を掛けられて、もう身動きが取れないため、視界の端でそれを認めた。
「いいえ、白眼ではありませんでした」
「なるほどな……だとしたら、こいつは相手の能力を奪えるが、その時間には制限がある。相手のコピーが可能な写輪眼も、使えば大量のチャクラを消費するように、能力を奪うとなれば、それ以上の対価があるはずだ」
「それが、短時間のみという制限」
「ふふ……さすがは、はたけカカシ。写輪眼を失ったとはいえ見事な洞察力だ」
ただ、と男は自分の目を指差した。
「僕の目をよおく見てごらんよ。ーー時空眼があるでしょう?」
男は両手を広げたまま、私に近づいてくる。
「時空眼は、時間に作用が掛けられる瞳術。この眼さえあれば、対価なんてないも同然だ」
「お前の狙いは、名前の時空眼か……!」
「それだけじゃない。僕の狙いは、木ノ葉にある瞳術すべてだ!まあその達成のために、時空眼は大きく貢献してくれるから、必要ではあるけれど。……ああ、胸が踊るよ。木ノ葉には優れた瞳術が固まっているから」
「そんなの、させねえってばよ……!」
ナルトは言って、体に力を込める。
けれど停止の作用は解けなくて、私は申し訳ない気持ちでそれを見た。
敵は笑う。
「無理だよ、僕は今、君の時間を止めているんだよ?力でどうにかできる問題じゃーー」
言い掛けて、男は咳き込んだ。
作用が僅かに解けて、蹈鞴を踏む。
体はいまだに何かに圧迫されているようだけれど、作用が弱い。
これなら……!
「こんなに負担が掛かるなんて……」
敵が、赤く濡れた掌を見ながら呆然と呟く。
私は無理矢理に体を動かしながら声を上げた。
「時空眼の代償は体への負担だから、作用が弱まっている今なら、敵は私たちを止めるために眼を使わざるを得なくなる!そうすればいつか、体に限界がきて、時空眼は勝手に解ける!」
「ってことは、暴れればいいんだな!俺たちの得意分野だぜ!なあ?赤丸!」
「ワン!」
「負けるもんですか!しゃーんなろー!」
男がまた一つ咳をした途端、さらに作用が弱まったのか、キバと赤丸、それにサクラが駆け出した。
男は睨むようにそちらを向いて、唐突に、叫び声を上げながら目を抑えた。
体の自由がまた一つ戻り、好機と皆も後に続く中、私は声を上げた。
「待って皆!!伏せて!!」
皆は驚きながらも私の言葉に従ってくれた。
自由に動けるようになったナルトと敵の攻防が気に掛かるが、私はそれよりも、今の男の暴走によって放たれた作用のほうが気になった。
時空眼のものだからか感じ取れるチャクラは、キバやサクラの頭上を通過して、校庭の端にある二本の木に当たる。
途端に一方は枯れ、一方は土の中へと巻き戻ったのを見て、私たちは息を呑んだ。
「螺旋丸!!」
「させるか!!」
「ぐっ、この……往生際が悪いってばよ……!」
振り返れば、ナルトが再び停止の作用を掛けられている。
「こんなに負担が大きいなんて……だが、必ず対処法があるはずだ……!」
言って目を閉じた男に、私は驚愕する。
まさかその状態で過去を見る気か……!
男は再び激しく咳き込む。
同時にナルトに掛けられていた作用も解けたが、敵のチャクラが暴走しているのは明らかだった。
私は咄嗟に印を組むと、強く足を踏み鳴らす。
響遁の術による圧力で、皆がその場から吹っ飛んだ。
「名前ーっ!!」
「来ちゃ駄目!ナルト!!」
校庭の端々に転がった皆は体を起こし、特にナルトは再び駆け寄ってこようとしたが、私は声を上げてそれを制した。
男の周りの時空が、暴走してる……!
眼は奪われたとは言え、時空眼は私の瞳術。
たとえ暴走していても、近づいたところでそれほど大きな影響はない。
ただ皆は、きっと巻き込まれてしまう……!
波打つ空間に、顔の前で腕を交差させながら、私はじりじりと男に近づいていく。
地面にうずくまっている男の胸倉をつかみ上げ、声を上げた。
「私に掛けた、術を解くんだ!時空眼を私に返さないと、暴走した時空間に、呑み込まれる!」
「嫌だ、ここまできて……!」
「死ぬよりも、きっともっと酷いんだ……!このままじゃ、どこへ行くのかも分からない……!」
男は息を呑んで、そして再び咳き込むと、印を組んだ。
途端に殴られるような感覚が私を襲って、下を向く。
「名前……!!」
時空間が荒れ狂う中、誰かの、私を呼ぶ声がした。
(ーー時空眼!!)
私は顔を上げると時空眼を開眼し、巻き戻しの作用を掛け始めた。
・
・
・
すっかり日も暮れた頃、私は一人、アカデミーの校庭へと戻ってきていた。
男の暴走によって一度は枯れ、消えた二本の木を撫でる。
ーーあれから男はすぐに捕らえられた。
時空眼を失った後、気絶したのだ。
おそらく時空眼の負担が、眼を解いたことでさらに襲ってきたのだろう。
とは言っても、正直私も、時空間を直してからは意識朦朧としていたから、よくは覚えてないのだけれど。
それにしてもーーと私はため息を落とした。
今まで思いつきもしなかった……時空眼を使えば、皆の昔の姿や、大人になった時の姿を、見ることができるなんて……!
そりゃあ時空眼は時間に作用を掛けられるから、考えてみれば当たり前のことなのだけれど、やっぱり時間を弄ぶようでいけないことだし……いやけれど綱手様の若返りと似たようなものだと考えれば……。
「……やっぱり駄目だ」
「ーー何が駄目なんだってばよ」
後ろから声がして、私は弾かれるように振り返った。
夕陽を背景に、ナルトとサクラが立っている。
「何、考えてたの?」
「ナルト、サクラーーいや、それは」
「音に敏感な名前が、俺たちが来たことに気づかないくらい考え込んで、いったいどうしたんだってばよ」
まさか皆の子供や大人時代の姿が見たくて悩んでましたーーとは言えなくて、私は言葉を濁す。
すると二人は近寄ってきた。
ナルトが私の肩を掴む。
「もしかして、また時空眼を使おうとか思ってんのか……!?」
あまりの剣幕に驚くと、サクラが言う。
「だから、やっぱり駄目だ、って言ってたんでしょ。時空眼を使わないと、また今日のようなことが起こるから。私たちに、迷惑を掛けてしまうと思って」
いやむしろ、やっぱり時空眼を使うのは駄目だと思ってたんだよ……!
皆に迷惑ーー子供や大人にさせるーーを掛けてしまうと思ったから……!
「ち、違うよ、二人とも」
「もう二度と、時空眼は使わせねえってばよ!!」
聞いているのかいないのか、ナルトは言う。
困り果てると、サクラが唐突に私に詫びた。
「ごめん、名前」
「……サクラ?」
「時空眼は使わないって約束したのにーーさせたのに、私たちじゃ何もできなくて、結局は名前に時空眼を使わせた」
「あれは私以外には対処できなかったよ。時空眼に干渉できる、サスケとオビトさんはいなかったし」
サクラは、うん、と頷いて、そのまま俯いてしまう。
やがてぽつりと言った。
「……私、名前に時空眼を使わせたくなかった。それは、使うと負担が大きくて、最悪の場合、名前が死んじゃうかもしれないから。……だけど本当は、それだけじゃなかったのね」
ナルトが重く頷く。
「使う奴が使えば、あんなに危ねえことになる。時空眼の使い手は名前だから、考えたこともなかったってばよ」
「……名前は本当の使い手だから、あんなふうに暴走しないだろうとは思ってる。だけどやっぱりーーもう二度と、時空眼は使っちゃ駄目」
泣きそうな顔のサクラに言われては、私は頷くしかなかった。
「ーー何だお前たち、こんなとこにいたの」
すると瞬身でカカシ先生が現れた。
先生はこのしんみりとした空気を嗅ぎ取ったのか、首を傾ける。
「何かあったのか?」
「いや、大丈夫だってばよ!名前も、時空眼を使おうと思ってたらしいけど、考え直してくれたし!」
「ーーへえ?」
カカシ先生の低い声に、私は思わず一歩退く。
「俺たちとの約束は?名前」
「カ、カカシ先生、これは誤解なんでーー」
「ってそんなことより、敵はどうなったんだってばよ、カカシ先生」
「時空間に干渉した影響だかで、ずっと眠ってたじゃない」
「ああ、そうそう、それで来たんだった」
カカシ先生はちらりと私に一瞥をくれてから、口を開いた。
話が逸れたことにほっと息を吐いた私は、けれどすぐにぎょっとした。
「オビトが写輪眼を使って起こしたよ。今、殺さない程度に事情聴取してるから」
「ーー!?」
殺さない程度のって、それもう聴取じゃないんじゃ……。
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