飛んでいきそうになった名前の腕を咄嗟に掴んで引き寄せると、その軽さに驚いた。
同じく驚いた顔の名前と目が合って――。
どさあっ…。
勢い余って後ろに倒れる。
術の作用でそうなってたんだろう、空気みてえだった名前の体がじんわりと人間の重みを取り戻してきた。
…訳分かんねえ、けど、気まずいっつーか、…何だこれ。
俺の上に乗るコイツを退かそうにも退かせず、何故だか目が泳ぐ。
すると名前は勢いよく体を起こした。
「サ、サスケ…!何で引っ張って…!怪我…!怪我してないかな、大丈夫…?!」
――そうだ、コイツはこういう奴だった。
誰かが怪我するのは全力で止めるくせに、自分が怪我することにはあまり抵抗がねえ。
退けたコイツが青ざめながら焦って話しているのを聞きながら、上体を起こした。
「俺がこんなんで怪我すると思ってんのか」
「で、でも…!」
「とにかく、怪我してねえんだ。心配するな」
「…わ、分かった、よ」
青ざめながらも頷いた名前を見て、そして上を見上げた。
「それより、お前帰らなくて良いのか」
「ん…?ああ、そうだね、もう暗くなってきたんだ。でも良いんだよ、いつももう少し修行していってるから」
「…おい、お前の家族、何も言わねえのか?」
「ああ、私家族居ないんだ。サスケは?もう帰る?」
そう言って暗くなってきている空を見上げるコイツに、思わず普通に返しそうになって、とどまった。
「っ、普通に言ってんじゃねえよ!」
「っ、び、びっくりした…。え、えっと…サスケはもう帰られますか?とか…?」
「そこじゃねえ、ウスラトンカチ!っ、お前、お前、も」
「あ、ああ…、家族?」
首を傾げた名前に頷く。
俺の視線に、コイツは眉を下げて笑った。
「居ないっていうか、分からないんだよね」
「…分からない…?」
「うん、物心ついた時にはもう一人だったから」
にこっ、と。
コイツは笑う。
いつものように。
それが理解出来ねえ。
何でそんなに、そうやって、一人なのに、笑うんだよ。
「あ…ごめんね」
すると何故かコイツは悲しそうな顔で謝った。
訳が分からなくて眉を寄せると、名前は目線を下げる。
「私は家族との記憶が無いからこうやって笑えるけど、サスケは違うよね…。無神経だったよ、本当にごめん…」
「……違う、苛ついたんじゃねえ。お前が何で笑うのか、分かんなかったんだよ。…無理してんのかと、思った」
…けど、家族との記憶がねえから悲しくない。
その言葉が重かった。
コイツが笑顔だからこそ。
――悲しめない悲しさ。
どんなものかは分からねえ。
けど俺は、あの日のことを思い出した。
「…それよりお前、…俺のこと知ってたんだな…」
「ああ、この里には居なかったんだけれど、家族を探していると、一緒に色んな情報も入ってきてたから…」
俺は手を握り締める。
「俺は必ずアイツを殺す…!そして一族を復興させる。絶対にだ…」
静かに押し殺した声で言う。
ぎっと眉を寄せると、名前が唇を引き結んでうつ向いた。
さらりと流れ落ちた髪で表情は分からねえが、肩が震えている。
「…………」
自然と固くなっていた目元がふっと緩む。
「だから俺は強くなる。もっと。絶対にだ…!」
「…っ」
「――…修行、お前がする時声かけろ」
顔を上げた名前の目には涙が浮かんでいて、胸の辺りが緩む感覚になった。
110430.