舞台上の観客 | ナノ
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テーマ「推しとの恋」
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ナルトたちはオビトの時空間忍術によって、砂隠れの里のすぐ外に出た。
結界班の忍が驚いたように声を上げるが、カカシが手を挙げると戸惑いながらも頷いた。


「すげえチャクラの量だってばよ……!」


一行は、任務地がどちらの方角だったかと確認する必要がなかった。
感知タイプでなくても感じる、恐ろしいほどのチャクラ。
ーーいったいどんな術を使えばここまでのことになるのだろう。


「オビト、お前はどうする」
「お前が行くなら、ついて行くしかないだろう。俺はお前の護衛役だ」


オビトは、それに、と言うとそれきり口を閉ざす。
カカシはそんなオビトを見ていたが、走り出したサスケたちのあとを追い始めた。

オビトも続いて、そうして眉を寄せる。
脳裏にうつるのは数日前の名前の姿。
消えた我が家の前で涙を流し、ごめんなさい、と誰ともなしに謝っていた。


「何だあれは……!」


すると前を走っていたカカシたちが立ち止まり、声を上げた。
はっと顔を上げたオビトも足を止め、そうして同じように声を上げる。


名前がいるであろう方角の空が波打っていたのだ。
竜巻が空へと昇り、空では青空が見えたかと思えば厚い雲が覆う、次には雷を落としていた。
それらがめくるめくスピードで繰り返されている。


「あれは何だってばよ……!?敵の術か!?天候を変えるとか、そういう!」
「分からない、名前の可能性もある!空の時間が混乱してるんだ……!」


サスケが言って、再び駆け出す。
そのあとをナルト、カカシに続いてオビトが追ったところでやっとサクラも走り出した。

凝縮された天変地異のようなそれに身が竦む。
だがその中心に名前がいる、そのことの方がサクラにとっては恐ろしかった。


近づいていくーーそのうちに前方にある密集した森が強風に揺られているのが見えてきた。
それがあるから、一行には風がそこまで届いていない。

サスケは一番にその森のなかへと飛び込んだ。
すると途端に強風に煽られて、サスケと、続いた者たちの足が止まる。

顔の前で腕を組み、目を細めていたサスケは、自分の前に一人の少女の人影を見て瞠目した。


「ーーサスケ」


瞬くと、笑っていた少女は消える。


この現象に、ナルトやサクラは動揺し言葉を失っていたが、写真の件である推測がつき、またこの現象自体が二度目のものであるサスケは違った。
確信していた。
ーー自分は名前の記憶を失っている、と。


サスケは風を圧して走り出す。

場所に近づき、風を浴びるほどに脳裏に甦ってくる光景は、自分のなくした記憶だ。
名前は班の一員だった。
完全に思い出したわけじゃない、それどころか断片的なそれは、けれど胸をひどく衝く。
今まで完璧に埋まっていたと思っていたところをこじ開けて、それは入ってくる。
無理矢理で、痛いのに、ぴったりとおさまる。


吐き気がした、苛立ちも感じる。
場所に近づいていっているのに、近づけば近づくほど焦燥感に襲われた。



ーーするとそのとき、不思議なまでにぴたりと風が止んだ。



一同は思わず呻いた。
風に浴びて感じていたものが何なのか、分からなくなっていたのだ。
自分の記憶はしっかりと埋め尽くされている。
それが何故だか、気持ち悪い。


一番に飛び出したのはナルトだった。


「名前!!……くそっ、何なんだってばよ、これ……!」


名前を呼んで、不快そうに胸のあたりを握りしめながら駆けていく。
我に返ったサスケたちがすぐにそのあとを追った。


「ナルト、俺たちが今感じていた何かは、おそらく名前の記憶についてだ」
「名前の記憶?俺ってば今さっきのこと、何も思い出せねえんだ」
「私も、いったい、何がどうなってるの?サスケ君」


困惑に答えたのはカカシだった。
カカシはポーチから例の写真を取り出すと、ナルトとサクラの二人に見せる。


「さっき散らばった名前の荷物のなかから、サスケがこれを見つけた」


驚くばかりの二人に、カカシは続ける。


「もしもこの写真が真実なら、俺たちは全員、名前のことを忘れていることになる。もしもそんなことができるとすれば、それは彼女の持つ時空眼だ」
「さっきまでの風は、おそらく名前の術から生じたものだろう。あれほどのチャクラが練られた術だ、時空が交錯して、それを浴びることで、なくした記憶に触れた可能性はある。……風が止み、何かを忘れた今となっては、断言はできないがな」


オビトは言って、言葉を切った。


森を抜けた先には砂漠が広がっている。
その広大な砂漠の上に、ぽつんと一人、立っている人影が見えた。
琥珀色の長い髪から名前であることが分かる。


ナルトたちが砂漠に足を踏み入れて近づいていったとき、糸が切れたように名前の体が傾いた。


「名前!!」


ナルトが言って、砂を蹴る。
傾く名前を支えようと手を伸ばしてーーそれは名前の体をすり抜けた。
一同は目を見開く。

オビトの時空間忍術と似たような類かと思えば、けれど傾いた名前の体は砂の上に倒れて横たわる。
我に返って再び名前に駆け寄ったナルトは膝をついて、瞠目した。


「何が、どうなってるんだってばよ……!」


ナルトは震えた声で言った。
追いついた他の面々が、仰向けに倒れた名前の姿を見て同様に息を呑む。


ーー名前は、消えかかっていた。
指の先が、肩が、髪の毛が、色を薄くし消えていく。
ナルトの手が名前をすり抜けたのは、名前の体が実体を維持できなくなっていたからだった。


「いったいどうなっている……!?こいつの体に巻き戻しの作用が掛かっているぞ!」


言ったオビトを押しのけるようにして、サクラは名前のそばに膝をつく。
名前の体は消えかかっているだけでなく、外傷もまたひどかった。
吐血の痕、刺されたのか腹は傷つき黒の忍服がぐっしょりと濡れている。
その腹に手を翳し、治療を始めたサクラはすぐに驚愕することとなった。


「どうして……!傷が、戻っていく……!」


腹の傷はサクラの治療によって塞がっていったが、やがて押し戻すように傷はまた開いていったのだ。
サクラは何度も術を掛けるが、そのたびに同じことが繰り返される。
カカシがサクラの肩に手を置いた。


「待て、サクラ。オビトが言ったように、おそらく今名前の体の時間は巻戻り続けてる。傷を治そうと思っても無駄だ」
「でも……!こんな状態の名前を放っとけない!傷はひどいし、そもそも体自体が消えかかってる!」
「何もしないとは言ってない、落ち着け、サクラ!」


厳しい声で諭されて、サクラははっとするとやがて頷く。
それを見て、よし、と呟いたカカシは、けれど時間がないため早口で皆に言った。


「今ここに敵の姿はない。おそらく言っていたとおり、名前がきっちり相手を倒してくれたんだろう。だとしたら、名前の時間を巻き戻している原因は、名前の時空眼そのものだ。今は傷を治しても意味がない。治したそばから、時間が巻き戻されるからな。だから大本を正す。ーー時空眼に干渉したい、サスケかオビト、幻術を試してくれ」
「俺がやる」


言ったのはオビトだ。


オビトは膝をつき、名前の閉じられた目蓋をそっと開かせる。
見えた瞳はカカシの予想通り白緑色、時空眼だった。


ナルトたちはオビトと、そして名前を見守る。
暫しして、名前に起こっている現象がぴたりと止んだことを認めて、ナルトとサクラは顔を輝かせた。


「巻き戻しが止まったってばよ……!」


しかし止まったのはあくまで巻き戻しの最中のため、名前の指先のいくつかはもうないに等しいし、腹の傷もそのままだ。
オビトは次に、体の状態を戻すよう命令して、すぐに顔を曇らせた。


「駄目だ、できない」
「オビト、どういうこと!?」


訊いたサクラに、オビトは首を振る。


「巻き戻しを止めることはできたが、それまでだ。体を平常の状態まで戻そうとしたが、それは行われない。おそらくそこまでの干渉は許されないんだろう」
「何でだってばよ……どうして名前の時空眼が、名前を消そうとするんだ?」
「ーー過去を視る」


言ったのはサスケだった。


「時空眼は過去と未来を視ることができると、こいつは言っていた。もしそれを他者にも見せることが可能ならーーその干渉は許されるのなら、こいつがこうなった原因を突き止めて、解決策を見つけることができる」


ナルトが拳をもう一方の掌にぶつけて意気込む。


「俺は行くってばよ、過去を視る。名前をこのままにはしておけねえ……!」
「俺も、……何か他の手かがりも得られるかもしれないしね」
「……私がいても、今は名前に、何もしてあげられないのよね」


目を落として言ったサクラの脳裏に、先ほどカカシに見せられた写真がうつる。
もしかすると第七班は四人ではなく五人いたと、そう言われても、未だにサクラには実感がわかない。
けれどもしそれが本当なら、そして忘れている人物が名前ならーー。


「私も行くわ。名前を、助けたいの」


オビトが四人を見上げて言った。


「お前たちに過去を見せる命令は俺が出す。名前の時間は今の状態で止まっているから、好転しない代わりに悪化もしないだろう。ただもしものことがあった場合は、命令を止めお前たちを現実に戻すから、そのつもりでいろ」


頷いた四人を認め、オビトは再び名前の目を見つめる。
写輪眼の幻術をかけた。




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