舞台上の観客 | ナノ
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一行が次に向かったのは土の国、岩隠れの里だった。
いのとチョウジとは雷の国で別れた。
一行は岩隠れの里の影と上役たちに挨拶を済ませ、簡単な事情説明を終えると里の外れへと向かう。
時空の歪みを消す、任務が始まった。


しかし、これまでのようにナルトら護衛たちが未来の忍を蹴散らしているとき、突然、引き締められるように小さくなっていた時空の歪みがその大きさを元に戻した。
驚いて振り返れば、名前が地に膝を着いている。


「名前!」


サクラが呼んで、離れた場所にいる名前に駆け寄ろうとするが、相手にそれを阻まれる。
肩で息をしている名前の瞳は琥珀色ーー時空眼が解けてしまっていた。


「すべては、あなたのせいだ」
「お前が元凶だ!名字名前!」


未来の忍が数人、名前へと向かっていく。
護衛たちは対処しようとしたが、いかんせん時空の歪みが開いてしまったため、多くが次々にやって来る。


「数が多すぎるってばよ……!」
「これじゃあ、埒があかない!」


既に名前のところへとたどり着きそうな忍が数人。
名前が歯を食いしばってそれを見て、ポーチからクナイを取り出し握る。
ナルトが名前の元へ出そうと、影分身の印を結んだ。


そのとき、場に衝撃が走る。
名前と敵との間の空間が螺旋状に歪み始めたのだ。


「時空の歪みが、どうしてここに……!?」


敵が声を上げて足を止める。
名前は目を見開いた。


「いや、違う。これは……!」


ーー歪んだ空間から現れる人影。
けれどそれは時空の歪みではなかった。


「ーーオビト!どうしてお前ってばここに!」


時空間を伝って現れた忍の瞳に宿るのは赤い瞳、写輪眼。
オビトはナルトたちの方へと敵を蹴飛ばすと名前を振り返る。


「何をぼさっとしている。戦闘には戻れるか」
「……は、はい」


呆然としていた名前は慌てて頷くと時空眼を開眼する。
狙いを定めて、歪みの時を巻き戻し始めた。
ナルトたちが相手を歪みに追いやっていく。

敵がすべて消えたとき、同時に歪みも閉じられた。


見つめ合うオビトと名前のもとに、ナルトたちが走ってくる。


「オビト、助けてくれてありがとだってばよ!増援に来てくれたのか?」
「けど、六代目から連絡は何も届いていませんが」
「カカシに鳥を送らせるより、俺の時空間忍術で直接伝えに来た方が早いからな」
「そりゃそうだけどよ……」


苦笑するナルトから、オビトは視線を名前に移す。


「最近俺は別の任務にかかりきりだった。それを終え、カカシから、時空に関わっているというこの女の話を聞いてやって来たんだが……ここまで消耗しているのか」


座り込んでいる名前の肩をサクラが抱く。


「大丈夫?名前、さっき時空眼が解けてたけど、あれってかなり危ないことなんじゃ」
「少し負担が溜まっているだけだよ。時空の歪みを消してくるから、皆は離れていて」


力無く笑うと立ち上がり、歩き出した名前の背中に、サクラが手を伸ばしかけて黙り込む。
オビトがその背を見送りながら言った。


「時空眼、か……使えばそれだけ負担が掛かると聞いている。今はとりあえず、時空の歪みを消してしまうのが先決だろう」










任務を終えたとき、日はすっかり落ちていた。
一行は土影に勧められるまま、岩隠れの里に一泊することとなった。


名前は里外を歩いていた。
里の出入口に控えている忍に断りを入れてから岩を出た名前の背中に声が掛かる。


「一人で行く気か」


はっとして名前が振り返ると、そこに立っているのはオビト。
腕を組んで、名前を見下ろしている。


「今夜は岩隠れに一泊すると言っただろう。後ろの気配に気づかないほど疲弊したお前が、一人で国を越える気か」


名前はちらりと苦笑する。


「オビトさんの気配や音の消し方が上手いんですよ。でも、そうですね……気づかなかった自分に、今少し驚いています」
「ならば戻れ。サクラの治療もまだのはずだ」
「邪魔をしてはいけないと思って。それに、国を出るつもりじゃあありませんよ」


訝しんで眉を上げるオビトに、名前は歩いている獣道の先を示した。


「確かこの近くに、自分が小さい頃に住んでいた場所があるんです」
「そこへ行くのか」
「はい」
「ならお前は、岩隠れの忍だったのか」


名前は首を振る。


「私は……どこの忍でもありません。ただ父が、岩隠れの忍でした。母と結婚してから、こうした人里離れた山奥に暮らすようになったけれど、それでも土の国内にはいたみたいで」


歩く名前の背中を暫し眺めていたオビトは、やがてそのあとを追った。
着いてきていることに、今度は名前も気づいていたが、何も言わなかった。


ーー数十分歩くと立ち止まった名前に、オビトは辺りを不審そうに見回して、声を掛ける。


「おい、何もないが……」
「ーー消えてしまったので」
「消えた……?」


眉をしかめたオビトは、名前を見て目を見開いた。


ーー名前は静かに泣いていた。


更地をただ見つめるその双眸からは、止めどなく涙が流れている。
やがて名前は震える声で言った。


「ごめんなさい」


それはオビトに対してではないようだった。
繰り返される同じ言葉は、けれど嗚咽でだんだんと声にならなくなっていく。

動揺して、そして目が離せないオビトの隣で、名前は強く自分の胸元の服を握りしめた。
唇を噛みしめて、目を閉じる。


名前は鼻を啜ると、何か決意したように真っすぐと前を向き、その目を腕で擦った。
目を傷つけてしまうような頓着のない行為に、オビトは思わずその腕を掴んだ。
目を見開く名前がオビトを見上げるが、オビトもまた同様に、自分の行為に驚いていた。


「いや、俺はーー」
「オビトさん……?」


何を言おうというのか、とにかくオビトは口を開いてーー気が付いた。
名前の涙が止まっている。


「……お前は、驚くと涙が止まるんだな」


え、と名前は瞬いたが、みるみるうちにその瞳にまた涙が浮かんでいくのを見てオビトはぎょっとした。


「どうしてまた泣くんだ。……いや、すまない。おかしなことをした」


いいえ、と名前は首を振る。


「オビトさんの言うとおりです。私はきっと、驚くと涙が止まるんです」


笑いながら、けれど名前は涙を流した。


「いつもなら、止まるはずなんです……ごめんなさい……!」















二人が里へ戻ると、名前のことを捜していたらしい、サクラが慌てて駆けてきた。


「名前、やっと見つけた!治療もせずに、いなくなるんだから」


言ってサクラは、名前の目の端が赤いことに気が付く。
名前の隣に立つオビトのことを見上げた。


「オビト、あなたーーまあいいわ。話よりも、まずは治療ね」
「任務の後でサクラも疲れているのに、本当にありがとう」
「いいのよ。……けど、ねえ名前。次は風の国に行くんでしょう」


不思議そうにして頷く名前に、サクラは言う。


「一度、木の葉の里へ戻らない?」
「サクラーー」
「やっぱり名前の体は、こんなただの宿や、任務の道中なんかじゃなくて、きちんとした設備の整った病院で診る必要があると思うの。幸い木の葉なら、伝説の三忍の綱手様のお陰で、最先端の医療技術も導入されてるしーー」


名前は首を振った。


「もう既に、時空の歪みは四つ消した。それなのに私の体はまだこんなにも元気だから……だから大丈夫だよ。皆のおかげで、私はきっと最後まで保つから」
「……私が心配してるのは、世界が無事に救われるかどうか、それだけじゃなくて……!」
「サクラの提案を呑むことはできないよ」


言ったのは、サクラの後ろからやったきたサイだった。
どういうこと、と眉をひそめるサクラに、サイは手にした巻物を見せる。


「六代目から連絡が来たんだ。ーー僕たちの経路はあらかじめ、報告しておいたでしょう。そしたら次に行く風の国で、様子見も兼ねて、五影が全員集まるって」
「風の国にある歪みを消せば、残りは一つになるからな。最終確認というわけか」


言ったオビトに、サイが頷いた。


「五影会談が、開かれる」




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