舞台上の観客 | ナノ
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「なあサクラちゃん、俺ってば思ったんだけどよ」
「何よナルト」


ーーナルトとサクラは仮面の男、うちはマダラによって限定月読の世界へと飛ばされていた。
容姿や性格の違う仲間達、異なる歴史に二人は混乱していた。
時は夜、里の大通りで険しい顔をして話し込む二人に、通行人が不思議そうな目を向けていく。


ナルトが言う。


「こっちの世界では、サスケは里を抜けずに、木の葉にいただろ?」
「ええ……サスケ君の様子は、他の皆に比べれば大して変わらないように見えたけど、確かにそこが、一番の変更点よね」
「里を抜けた忍がちゃんといる……ってことはさ、もしかしたら名前も……!」
「ーーメンマ、サクラ?」


後ろからかけられた声に二人は息を呑んだ。
元の世界では暫く聞いていないこの声音は間違いなく、里を抜けてしまったかつての仲間ーー名前のものだった。


二人は振り返る。
首を傾けていた名前がにっこりと笑った。


「やっぱりそうだ。二人とも、今日はいつもと様子が違うから迷っちゃったよ」
「名前……!」


思わず駆け寄っていこうとするサクラの腕を、ハッとしたナルトが掴む。


「サクラちゃん、ここは、俺達の世界じゃねえってばよ……!」
「分かってる。けど、名前が木の葉に……!私はずっと、このことを望んできた……!」


木の葉の象徴である歴代火影の顔岩を背景に笑う名前の姿は胸に響く。
けれどサクラ自身も、浮かんだ違和感を拭えないでいた。
四代目火影として彫られたその顔岩が、自分達がよく知るものとは違うから。


「ここで再会を喜ぶよりも、俺達にとっては、元の世界で名前を連れ戻すことの方が大事だ……!」


言われてサクラはうつむく。


「そうよね、ここは、私達がいた世界とは別の場所。今ここで踊らされる分だけ、名前やサスケ君との距離は開いてく」
「……メンマもサクラも、やっぱりいつもと様子が違うね」
「俺はメンマじゃねえ……!」


睨むようにして言われた言葉に名前が目を丸くする。


「俺は、うずまきナルトだ!!」
「ナルト……?」


首を傾けた名前の視線がサクラに向かう。
強く頷き肯定の意を示したサクラに、名前は暫し呆気にとられているようだった。


ナルトがサクラに顔を寄せて、小さく言う。


「サクラちゃん、名前ってば、元の世界の名前と何か違うか」
「ううん、同じに見える。見た目も、口調も、それに笑顔も。やっぱりサスケ君と名前の違うところは、里を抜けているかいないかっていうことみたいね」


すると名前が笑った。
おかしそうに口許に手をあてている。


「よく分からないけど……やっぱり二人は仲がいいね」


せめてーーと二人は思う。
せめてサスケと名前の様子が、明らかに元いた世界のそれとは変わっていれば。
そうすれば二人が里にいることをこんなに喜ばずに済んだかもしれない。
自分達が取り戻すために手を伸ばす相手は、別にいるのだと思えたかもしれない。


苦い顔をした二人に、名前はかまわずにっこりと笑った。



「本当、爆発すればいいのに」



ーーナルトとサクラは耳を疑った。
驚いて見るも、そこにいるのは変わらない笑顔を浮かべている名前の姿。


ナルトは自分の耳を叩き、サクラは目を擦った。


「ご、ごめんってばよ名前、俺ってば今聞き間違えたみたいで……なんて?」
「だから、爆発すればいいのに、だよ」
「そ、それっていったい、どういう意味?」
「そのままの意味だよ。安心して、サクラ。私は、末永く爆発しろ、なんて言わない。今この瞬間に爆発してほしいって思ってるから」
「どっ、どうなってるの〜!?」


頭を抱えて声を上げるナルトとサクラを、通りすぎる人々がぎょっとしたように振り向く。


「名前ってばおかしいってばよ!」
「おかしくないよメンマ。いつも言ってることだよ」
「だからナルトだって!そんで、名前はそんなこと言わねーっての。な!サクラちゃん」
「そうよ。名前はいっつも、馬鹿騒ぎしている皆のことを、にこにこ見守ってーー」
「口を揃えておかしなことを言うなんて、本当に仲良し。私自ら爆発させたい」


呆然とする二人を放って名前は呟いた。


「やっぱり今度デイダラさんから起爆粘土を買おう」


その言葉にナルトが目の色を変える。
名前の肩を掴んで引き寄せた。


「デイダラって、暁の……!やっぱり名前ってば、暁と関わってんのか!?」
「落ち着いて、ナルト!名前はこうして里にいる。額宛てにだって、抜け忍を示す線は引かれてないわ」
「だったらどうして、あいつのことを……!」


名前はにっこりと笑った。


「私が暁と関わりがあることなんて当然のことだよ。今日のメンマは特に変だけど、その頭の悪いところは本当につまらないね」


えっ、とナルトとサクラの声がかぶる。


「だけどデイダラさんと会うのも嫌なんだよね。爆発しろ爆発しろって言ってたら、好みが合うと勘違いされちゃって。自分も爆発対象になってるってこと、分かってないのかな。大体各里のスリーマンセルもそうだけど、暁のコンビだってリア充云々」


名前はぶつぶつと不満を漏らす。
けれどそれはナルトの耳に入らなかった。
名前から手を離すと肩を落としふらふらとよろめいたナルトに、サクラが気遣わしげに声をかける。


「ナルト、あんた大丈夫……?」
「大丈夫じゃねえってばよ……名前が、名前が俺のことつまらないって」
「ほ、ほら、ここは違う世界なんだしーーって、元の世界の名前だって、さすがにあんたの馬鹿さ加減には何か言ってたんじゃないの?」
「言ってたってばよ……確かにナルトはシカマルやサクラに比べたら勉強が苦手かもしれないけど、それだって、たくさんのナルトの魅力の中で光る素敵なギャップだよーーって」


サクラは苦笑するように息を吐いた。


「名前って本当、短所も長所に変えるわよね。でもその言葉はちょっと、あんたに対して甘すぎない?」
「いいんだってばよ!だって、俺の周りってば厳しい奴らばっかりで、だから甘すぎる名前のアメがいいバランスになってたんだ!」


それをーーと名前を見たナルトは首を振った。


「やっぱ絶対、元の世界に帰ってやる!」
「ナルト、そう焦らないで。私達二人だけでどうにかできる問題じゃないんだから」
「でも、でも……!」
「そりゃ私だって違和感は感じる。でも、皆が木の葉の忍であることに変わりはないんだから、協力してもらえるわよ」


悩んだ顔で歯を食いしばるナルト。
そんなナルトを励ますように、サクラは名前にも話を振った。


「名前、助けてほしいことがあるの。事情は分からないままでいいから」
「第七班としての任務?」
「綱手様が任務として下してくれるかどうかはまだ分からないけど、とにかく今私達困ってーー」
「任務じゃないなら、やらないよ」


サクラが、え、と声を上げる。
目を見開くサクラに、名前は不思議そうに首を傾けた。


「私は忍だから任務はするけど、そうじゃないならやらないよ。だってメンマとサクラを助けたって、それは自分のためにならないし」


ーー皆の幸せが、私の幸せだから。
いつかの名前の言葉が脳裏で響く。
名前は今はもう里を抜け、それどころかS級の犯罪者で構成された組織、暁へと入ってしまったが、それでも名前が言った言葉はどれも嘘だとは思えない。


「何が無限月読だ……」


ナルトはうちはマダラに対してひどい憤りを感じた。


ーーマダラは今、世界に無限月読をかけようとしている。
そこは苦しみも悲しみも、辛いものは何もないと。
その世界では自分の望みが叶えられる、と。


けれど今の状況はどうだ。
連れ戻そうとしている者達は確かに里にいる。
けれど目の前にいる人物を望んでなどいない。
ーー今話している忍は、名前ではない。


「ごめん、ナルト」


サクラが言った。


「私が馬鹿だった。一刻も早く帰ろう、私達の世界に!」
「オウ!」


ナルトが笑って強く頷く。
ーーけれどそのとき、後ろから声がかけられた。


「うるさい奴らがいると思って来てみれば」


その声音にナルトとサクラは、げっと声を上げる。
恐る恐る振り返れば思ったとおり、こちらの世界で初めに会った三人ーーヒナタ、キバ、シノがいた。


白眼を開眼させて詰め寄ってきたヒナタが、ナルトの胸元の服を掴み上げる。


「メンマ!こんなぺったんこのどこがいいんだ!?」
「ぺ、ぺったんこ……!?」
「ヒ、ヒナタもサクラちゃんも落ち着けってばよ」
「それに名前もいるし、女二人をはべらかして、いいご身分だな、メンマ」
「私は二人に力を貸してって言われてただけだよ」
「お前ら、名前に頼み事してたのか?よくやるな。いくら同じ班だからって、こいつにゃそんなの関係ねえよ。名前が他人のために何かするわけないだろ」


キバの言葉が、たとえこちらの世界では合っているとしても、やはり気に食わない。
苦い顔をしたナルトが声を上げた。


「だったらお前が協力してくれってばよ!キバ!」
「俺は別にいいぜ。たださっき赤丸と喧嘩したから、あいつの顔は見たくねえ。ってことで、俺単独でもいいか?」
「いや、これからすんのはスゲー大変なことだし、危険も伴うだろうから、出来れば赤丸と組んだ最強タッグで手を貸してほしいってばよ」
「ならば俺が力を貸そう。何故なら、同じ里の忍を助けることは当たり前のことだからだ。名前は元々木の葉の人間ではないから、その気持ちがないがな」
「そんなことねえってばよ」
「何?」
「いや……ところでシノはちゃんと戦ってくれんだよな」
「ああ、俺はいつでも全力を尽くす。虫は嫌いだから使わないが」
「どうやって戦うんだよ!」
「私はちゃんと戦うぞ、メンマ」


口角を上げて、メンマの肩に手を置くヒナタ。


「ただし、二人だけでだ」
「そりゃ無理だってばよ。サクラちゃんも一緒に行かねえと」
「またサクラか!同じ班だからってベタベタくっつくな!」
「いや、同じ班だからとかじゃなくて、サクラちゃんもいねえと駄目なんだ」


その言葉に、白眼に繋がる神経がまた一つぴくりと浮き出る。
ヒナタはサクラに向かって構えをとった。


「やっぱりお前、メンマのこと狙ってやがったな!」
「だから違うって!ねえ、名前も何とか言ってーー」


元の世界の癖で、サクラはつい名前へと助けを求めた。
にっこりと笑う名前の笑顔は、元の世界のものと何ら変わりない。


「三角関係もまたつまらないものだよね」


けれど言われた言葉はまるで違う。
ーーついにサクラの堪忍袋の緒が切れた。


「私だってしたくてしてるんじゃないわよ!しゃーんなろー!!」
「ああもう、早く帰りたいってばよ〜!!」





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